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 俺たちが準備を終えて部屋を出ると、グロウのみんなはもう既に起きていた。

「もう行くんですか?」
「ああ。早めに行けば向こうを歩き回れるからな」
「そうですか。では向こうに着いたら先生をお願いします」
「「「「お願いします!!!」」」」
「任せておけ」
「では行ってきます」

 俺とメアリは町を出るまで、グロウの生徒たちはずっと手を振っていた。
 メアリもずっと手を振っていたが、俺は最後だけ少し手を振った。

「それで、やっぱり万能立方体アクティブ・キューブで行くんですか?」
「基本的にはそうだが、今回は別の魔法も使ってみようと考えている」
「別の?」
「この『羽の実』がその1つだ。実戦で使うかは検討中だが」

 万能立方体を使って移動もいいが、今回は闘技場戦にも兼ねて、新しい魔法を使って移動をしてみる。
 失敗したら失敗したで、万能立方体を使って急げばいいことだ。

 俺は羽の実を2個つくり、1つをメアリに渡した。

「どうやって使うんですか?」
「実を握りつぶせば使える。こんな風に」
「おおぉ!!」

 実を割ると背中から羽が生える。
 見た目は天使と同じような白い羽。
 自分で動かすことも出来るが、魔力でつくった羽だから魔力が切れたら消える。

 俺が使うところを見たメアリはさっそく実を割った。
 嬉しそうに少しだけ浮いている。

「邪魔な時用に出し入れも出来るが、つくる時に込めた魔力の分だけしか使えない。1日分はあるはずだから、途中で落ちることはないだろう
「途中で足したりは出来ないんですか?」
「それは出来ない。羽があると言っても所詮は作り物。魔力を流す経路がないから魔力を足すことはできない」

 元々羽が生えていたら話は別だ。
 腕から魔法を出せるのは、腕まで魔力を流す道があるからだ。
 だから元々羽があったら自然に道が出来てくる。
 俺がやろうとしても、結局は魔力か能力で出来た張りぼてになってしまう。
 例えるなら、血管がないところに血が流れないのと同じだ。

 さっそく移動を始めようとしたが、思いのほか動かすのが難しい。
 メアリは器用なのか真っすぐに飛べているのに対し、俺は時々左右に揺れる。

「大丈夫ですか?フラフラしてますけど…」
「魔法や能力が得意でも、運動系は苦手なんだ」
「そうだったんですか!」

 何故、嬉しそうにしているんだ。
 フラフラしている俺が惨めとでも?
 俺は元からそんな完璧人間ではないんだぞ。
 どちらかと言えば落ちこぼれだ。

「ヒビの苦手なモノ発見!」
「…知ってるか?魔力を吸収する魔法があるんだ」
「えっ?」
「つまり、魔力で出来た羽を吸収することも出来るんだ」

 メアリの顔は徐々に青くなっていく。
 今は走る時よりも、速い速度で飛んでいる。
 もしも急に消えたら、ケガどころではなくなる。

「ご、ごめんなさい!だから――」
「冗談だ。からかいがいがあるな」
「もう!心臓に悪いですよ!!」

 そういいつつ、メアリは俺に近づいてきた。
 羽と言っても、魔力を使って浮いているアイテムみたいなものだから、近づいて羽が当たっても危険ということはない。

「こうして一緒に飛べば真っすぐ飛べますよ?」
「…そうだな」

 闘技場のために自分一人で飛べるようにしておきたかった。
 だが、せっかくこうして寄り添ってくれているからこのまま一緒に飛んでいたい。
 練習は…こっそり一人でやっておこう。

 着いたのは数時間も飛んだ後だ。
 ここまで遠いと、セーグの町も仕入れとかは大変なはずだ。
 辺境の地だから住みたい人も少ないだろうし。

 それに対し、メストリアル王国は活気づいている。
 その上、闘技場が開くから国全体でお祭り騒ぎだ。
 人が多いからなのか入国手続きはないが、入り口の周りには屈強な戦士が立っている。
 これなら変な気を起こすやつはいないだろう。

 獣人王国だけあって獣人は多いが、人間もそこそこ多い。
 闘技場の影響で、そういう人も住み着いているのかもな。

 思ってた以上に早く着いたことだし、先に闘技場に行って受付を済ませようか。
 国に入った時、参加するなら先に受付を済ますようにと呼び掛けもあったことだし。
 その後は宿を探して、明日に備えて休憩だな。

「見てください!あっちに美味しそうな食べ物屋さんがありますよ!」
「おい。先に闘技場に――」

 話を持ち出す前に、メアリは店を見つけると嬉しそうに向かっていった。
 お祭り騒ぎだから、あちこちに店が並んでいる。
 メアリは楽しそうに見て回っているため、俺の意見を言いづらかった。

 まあせっかくお祭りもやっていることだし、メアリに付き合ってあげるか。
 何よりつい先日悲しい思いをしたんだ。
 甘えさせてあげるのも悪くないだろう。

「それにしても、お店がいっぱいありますね!」
「もしかして、祭りがあったから動物がいなかったんじゃ…」
「かもしれないですね。言われてみれば、こんなにお店が並んでいるならあり得るかもしれません…」

 一体どれだけの動物を狩ったんだか。
 そんなことをいいつつも、ちょくちょく食べ物を買っては食べている。
 どっぺり祭り気分に浸かっているな。

「このお芋のちょっと辛いソースがたまらなく美味しいですよ!」
「ピリ辛はハマりやすいからな。たしかに美味いだろうな」
「ちょっと食べます?」
「じゃあひと口」

 基本的にメアリが欲しいものを買い、俺が少し貰っている感じ。
 昨日はグロウのみんながいたから控えていたから、2日間満足に食べていない。
 普通の人分は食べているはずなんだが、本当によく食べるよな。

「さあさあ!今日こそ1万を超える者は出るのか!!」

 たくさんの店の中心には大きいステージがあり、たくさんの人が囲っている。
 ステージにはマイクみたいなものを持った人が大きな声で話している。
 少し離れているが、ここまで聞こえるほど大々的にやってるということは、何かの見世物なのか?

「次の方!どうぞ!!」
電撃ライトニング!」
「おおっと!6000と数字は大きいですが、まだまだ足りません!!」

 大きな水晶に魔法を打ったと思ったら、水晶が魔法を吸収した。
 そして6000という文字が浮かび上がっている。

「あれはなんだ?」
「あれは『魔法力測定水晶』です。魔法を当てて、どれだけ強いか調べる便利アイテムですよ」

 便利アイテムだが、大人が抱き着けるほど大きいから、持ち運ぶにしては大きすぎる。
 話を聞くと、平均値は5000で、高い人でも6000か7000レベル。
 そもそも1万を超える人なんてそうそういない。

 ちなみにだが、1万を超えた場合は賞金が出るみたい。
 金貨100枚と豪華に見えるが、少し低いと思うのは恐らく何人か出ているからだろう。
 まあインチキが無ければいいんだが。

「次に参加する人はこちらへ集まってくださーい!」
「ヒビ!出てみましょう!」
「別にまだ金は残っているし」
「さあさあ!せっかくのお祭りなんですから!!」

 完全にテンションに乗せられているだけじゃないか。
 しょうがなく並んだが、やるのは俺だけ。
 メアリは観客席にいて、こっちに向かって手を振っている。

 …なんでこんなことになったんだ。
 少し甘やかせすぎたか?
 いや、メアリも楽しそうだから目を瞑ろう。
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