猫狐探偵事務所

銀狐

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 少女も隙間を通ったが、すでにネコはいなかった。
 そして、そこにはまるで別の世界に来たような建物が建っていた。
 今ではもう見られない古びた建物だ。

 建物に近づくと、入り口の横に木でつくられた看板が取り付けられていた。
 そこには黒い文字でこう書かれている。

「ねこ…きつね探偵事務所?」
「猫狐と書いて“ねこん”と読むんだよ」
「わっ!?」

 後ろにいつの間にか一人の男性が立っていた。
 髪はボサボサ、瓶底みたいな眼鏡をかけ、服は少し伸びている。
 年齢は見た感じは若そうで、20から30行くか行かないかぐらいだ。

「ごめんごめん。こんなところに子供が来るのが珍しくてつい……」
「だ、だれ?」
「僕?僕はこの猫狐ねこん探偵事務所の橘一誠たちばな いっせい。君は?」
「私は早川鈴はやかわ すずって言います」
「鈴ちゃんね。小さい子なのにしっかりしているねー」

 礼儀正しいというわけではなく、ただ単に警戒されているだけ。
 いきなり後ろに立たれたせいで少し怖いのだ。

 しかし、一誠はそんなことはお構いなしに質問を続けた。

「どこから来たの?」
「そこの隙間から……」
「あぁ、子供だったから通れたのかな。あそこはネコがよく通る道だから気にしてなかったよ。ちなみにだけど、正しい道は向こう側ね」

 一誠が指をさした方向は神社とは真逆のほうだった。
 古い家の周りは土の地面ばかりだが、指をさした方向を数メートル移動すると、そこはもうアスファルトの地面が続いている。

 この時、鈴は疑問に思った。
 神社の穴こっちが正しい道ではないのなら、何故こっちに探偵事務所の入り口があるのだろうか。
 普通のお店だと道側に入り口がついているはず。

「あの、何で看板がこっちにあるんですか?」
「それはね、最初は探偵事務所がなかったからなんだ。元々僕のおじいちゃんの家だったんだけど、後から裏口と裏口に通じる部屋を探偵事務所にしたんだ」

 それなら前にした方がよかったんじゃないのかな。
 そう思ったが、普段から住んでいる家だったから面倒くさいんだろう。
 鈴はこれ以上、このことについて聞くことはなかった。

「そうだ。よかったら上がっていくかい?チョコレートならあるけど」
「チョコ!食べたい!」
「どうぞどうぞ。それと一緒にもう少しだけ雑談でもしようか」

 知らない人にはついて行ってはいけない。
 分かっているけど、なぜかこの人は大丈夫だと感じた。
 あのネコの行方も気になるが、今はチョコレートで頭がいっぱいだったのだ。
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