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33.水魔法99

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「「「………」」」
「………」
「よし!取れたぞ!」
「全然釣れなーい!!」

 今日は森に来て川で釣りをしている。
 エイミーとお姉ちゃん、それにリリスも一緒だ。

 川の少し下流では、ダンフが川の中に入って魚を獲っている。

「アンディ全然釣れないじゃん!」
「おかしいなあ……」

 もうそろそろ釣れてもいいと思うんだが。
 こんなに釣れないものだっけ?

「魔法で獲ったほうが早い」
「それじゃあ釣りの意味がないじゃん……」
「違うことをしたいー!」
「うーん……」

 釣り以外でも構わないけど、森の中で出来ることは限られる。

「そうだ、森の中を散歩でもする?」

 木々は赤みを増して紅葉の季節になっている。
 散歩しつつ見て回るのもいいかもしれない。

「散歩でもいいよ!もうじっとしているの飽きちゃった!」
「じゃあ散歩でもしようか。ダンフー!」
「どうしたー?」
「ちょっと森の中で散歩しているよー!」
「わかったー!魚は任せておけー!」

 何を元気にそんなに魚を獲っているのやら。
 ああ、僕が来たから焼き魚を食べるために頑張っているのかな。

 ダンフは川に残り、僕たち4人で森の中に入っていった。
 葉は少しずつ落ち始め、そこらへんには落ち葉がたくさんあった。

「これだけあるなら焼き芋を食べたかったなあ」
「ヤキイモ?」
「落ち葉を集めて、中に芋を入れて焼くんだよ」
「美味しそう!」

 話をしただけで食べたくなってきちゃった。
 落ち葉や火を付ける手段があっても、肝心な芋がない。

「肝心な芋がないから無理だね」
「それなら私が取ってこようか?」
「あるの?」
「家にだけど。でもすぐに取って来れる」

 リリスも食べたいのか、自ら名乗り出た。

「じゃあお願いしようかな。僕たちはその間に落ち葉を集めておくよ」
「わかった」

 リリスは駆け足で家へと戻っていった。
 そんなに食べたかったのかな?

「リリスが戻ってくる間に落ち葉を集めていようか」
「「わかったー!」」
「手を怪我しないように集めてね」

 さっそく僕たちは落ち葉集めに入った。
 まだ落ち始めてすぐのため、数は言うほど多くはなかった。

「どこに持っていけばいいー?」
「そうだなあ……」

 問題はいざというときのために、水の近くにするべきかだ。
 かと言っても川の近くで焼き芋って、なんか違和感がある。

 理由は前の世界で焼き芋をつくったことがあるけど、その時は山の近くでちゃんとした場所でつくったからだ。
 もちろん落ち葉も使ったが、燃え移らないように石の上でやっていた。

「危ないから川の――」

 いや待てよ?
 この世界では魔法がある。
 いざと言うときには魔法を使えばいいんじゃないかな。

「やっぱりここに集めようか」

 一応念のために木々から少し離れたところに集めることにした。
 後で水の魔法を使えるようにしておこう。

「僕もしっかり集めないと」

 リリスが戻ってくるまでにたくさんの落ち葉を集めないといけない。
 どれぐらい集めればいいのかは忘れたけど、とにかくたくさん集めればいいか。

「あと一緒に枝も集めておこう。それに石を丸くなるように…っと」

 せっかくだし、魚も一緒に焼いてしまおう。
 魚を焼くために固定する石を持ってきた。

 枝は燃やすとき用と魚に刺すよう。
 これはたくさんあったからすぐに集まった。

「よし!後もう少しだ!」

 エイミーもお姉ちゃんも集めるのが早くて山のように集まってきた。

「ん?なんだこれ?」

 集めている最中、何か硬いものが手に当たった。
 気になって取り出してみると、それはどんぐりだった。

「こっちにもあるんだなあ」

 向こうにある食べ物もこっちには大体ある。
 違うとしたら、こっちの方は珍しい生物が多いからお肉の種類が少し多い。
 野菜とかはほとんど同じだけど、出回ってなくて見る機会が少ないものが多い。

「こうした植物も一緒だなんて、いい世界だよなあ」

 こっちも平和でこうして遊んで暮らせている。
 何不自由なく生きられる、本当に贅沢だ。

 僕は拾ったどんぐりを眺めていた。

「何しているの?」
「うわあ!?」

 急に後ろから声がした。

「またリリスか……」
「いつもびっくりしているね」

 いきなり後ろから声をかけられたら誰でもびっくりするよ!

「もう取ってきたの?早かったね」
「楽しみだから急いで持ってきた」

 リリスの手には家から持ってきた芋があった。
 うん、確かに芋だ。

「芋は芋でもジャガイモだね……」
「?」

 説明していないから普段使う方の芋のほうを持ってきちゃうよね。
 こっちだとサツマイモはあるにはあるけど、買いだめするほど使わないからなあ。

 まあこっちでつくっても美味しいのができるだろう。
 ホクホクのジャガイモだからバターが欲しくなりそうだなあ。

「それで何をしていたの?」
「ん?ああ、どんぐりを見ていたんだよ」
「どんぐり?」

 リリスは不思議そうに僕が持っているどんぐりを見始めた。
 あれ?普通にあったから珍しくはないと思うんだけど。

「…アンディ、それに魔力を込めてみて」
「魔力を?このどんぐりに?」
「うん、お試し感覚で」

 なんだろう、そう言われると嫌な予感がしてくる。
 とりあえず、魔力を込めればいいのかな。
 魔力を込めた瞬間、どんぐりはプルプルと動き始めた。

「えっ、なにこれ?」
「キシャアアアッ!」
「わああっ!?」

 どんぐりに口ができると、威嚇するような声を出した。
 びっくりして僕はどんぐりを落としてしまった。
 リリスはそのどんぐりを拾った。

「これはおばけぐり。どんぐりが何かは知らないけど、これは魔力を流すとこうやって威嚇するの」
「大丈夫なの、それ?」
「無害だから大丈夫。威嚇するだけで噛んだりもしないから」

 どんぐりから出てきた口がゆっくりと消えていった。
 魔力を少しだけしか入れていないから、その分だけ動いたのかな?

「面白いでしょう?」
「面白いけど、びっくりしたよ……」

 何から何まで向こうの世界と一緒、というわけではないんだね。
 よく覚えておくよ……。

「リリスー!」
「エイミー、集め終わったの?」
「うん!お芋持ってきた?」
「ほら、たくさん持ってきたよ」

 全部じゃがいもだけどね。

「お姉ちゃんは?」
「カラリアちゃんならダンフを呼びに行ったよー」

 じゃあその時に魚も持ってきてくれるのかな?
 とりあえず先に準備だけでも済ませておこう。

「お姉ちゃんが戻ってきたら火を頼める?」
「いいよ!まかせて!」

 よし、準備は終わった。
 あとは魚の手入れだけだ。

「戻ったよー!」
「たくさん獲ってきたぞ」

 お姉ちゃんとダンフが戻ってきた。
 ダンフの上にお姉ちゃんが乗っており、たくさんの魚を運んできてくれた。

「何をする気なんだ?」
「ダンフには言ってなかったね。せっかくだから焼き芋をやろうと思って」
「『焼き』が付くならうまいのだろう。楽しみだ」

 全部が全部そうとは限らないけど、まあ美味しいという人が多いんじゃないかな。

 さっそく魚の下準備をし、芋を落ち葉の中に入れた。
 たしか焼き芋の場合、ぬらした新聞紙にアルミホイルを巻かなければいけない。
 代用として、薄い結界を一個一個に付けておいた。
 代用というよりこっちの方が便利な気がするけど。

「あとは火をつけて待つだけ!エイミー」
「任せて!ファイアー!!」

 小さな火花が落ち葉に燃え移った。
 後は焼けるまで待つだけ。

「っと、忘れていた。スキルオープン」

 しっかりと火を消すために水魔法も覚えておかないと。
 水魔法というスキルがあるから、これを上げておいてっと。

「これで安心だね」

 焼けるまで待ち、ようやく出来上がったのをみんなで食べた。

「「「「「美味しい!」」」」」

 嘘偽りなく、本当に美味しかった。
 みんなも口に合ったみたい。
 サツマイモの甘味はないが、これはこれで美味しかった。

 魚も負けないほど美味しかった。
 今回も一番喜んでいたのはダンフだったけど。

 結局、水魔法の出番は来ることなく終わった。
 まあそれが一番いいことなんだろうけど。
 せっかくだし、今度どこかで使ってみようかな。
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