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40 聖女の難題

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「ええ、死んでなかったのう」

 イルファタにすごく残念な顔をされた。

「むしろ、聖女のくせに気付かなかったのかよ」
「あんたを気に入っていたのは小太陽の女神ソラリスでしょ。私が仕えているのは水の女神ナイアラだから」

 ちなみに、俺に究極魔法を授けた女神を戦女神と呼んでいたが、これと小太陽の女神というのは同一の神のことを指す。
 小太陽と戦を司る女神ソラリスが正解だ。

「それにしても気付かないとはなぁ」
「ええい、うるさい」

 完全に聖女長の姿が砕けてしまったイルファタ……イーファは盛大にため息を吐いた。

「まぁ、これは不幸中の幸いというものなのでしょうね」
「やっぱ、なんか問題が起きてたのか」
「ええ、そうよ」

 そもそも、イーファが里帰りというのがおかしい。
 こいつの家族は、もうシャールダーンには誰もいないはずだ。

「結婚とかしてないよな?」
「してないわよ。子供もいない」

 俺の言いたいことがわかったのか、嫌な顔をされた。
 まぁ、こいつの過去話はこれぐらいにしておいて、今の話をする。

「それで?」
「ことの発端は、あんたが魔王城に引きこもってからのことよ」

 イーファが語る。

 勇者ジークが魔王を倒し、帝国西部で起きていた人と魔族の争いは終止符が打たれた。
 勇者は魔王の復活を監視するために魔王城に篭った後に、その事件は起きた。
 邪神というものがいる。
 神の名前が付いているが、神と比べてどれほど強いのかはわからない。
 そういえば、ゼルは亜神と呼ばれているんだったか?
 神が多いな。
 それはともかく。
 境界世界に存在する不確定存在というものがある。
 以前に邪神像でなにやらしていた男が使った影鮫の魔法。
 あそこで出ていた影鮫というのが、それだ。
 世界と世界の間には、すべての形が定まらない混沌とした空間が存在するといわれている。
 影鮫などの一部の魔法はその境界世界の不確定存在を召喚し、形を与えて使役する。
 強力だし、魔法によってはある程度応用の効く動きをしたりもするので便利ではある。
 ではあると言ったが、俺が使うわけではない。
 仲間の中で使うのはゼルだ。
 足りない手数を補うときなんかには便利なんだよ。

 そんな便利な魔法なのだから、使っていたのはゼルだけではない。
 魔力の個人保有量が自慢の魔族が使わないわけがない。
 戦力の増強のために使いまくっていた。
 そんな不確定存在は、本来、召喚した魔法使いが死んだり、魔法の継続が不可能となれば消滅する。
 不確定存在は魔法によってその形を固定されているだけなので、形を失って消滅するのが普通だ。
 だが、どうやら召喚された不確定存在そのものは、この世界残っているらしい。
 多くは時間とともに魔力へと分解されていくのだが、中には形を得る場合がある。
 それらの多くは魔獣の亜種として倒されているのだが、中には強力な力を得るモノもある。
 そして今回は、魔族が戦争のために使いまくり召喚しまくっていたため、形を得たそれは周囲に残っている不確定存在をも取り込み、強大な存在となった。
 それが邪神なのだという。

「そいつが出現した時、マックスは戦争中だし、ゼルは行方不明だしで、対処は私が先頭に立たなくちゃいけなかったのよ」

 と恨みがマシげにゼルを睨むが、もちろん知らん振りされていた。

「ともかく、帝国の力とかも借りて、なんとかそいつは封印したのよ。それで、問題はここから」

 そう言ってイーファが再び大きなため息を吐いた。

「邪神は複数の剣に分解して封印し、西部諸国の王家に預けていたのだけど、この国に預けていた剣が行方不明になっているというのよ」
「あら」

 ソフィーが驚く。
 そして俺は心当たりがあった。
 もしかしてと思って自室に移動し、隠しておいた剣を引っ張り出して来る。

「これのことか?」
「バカなの⁉︎」

 割と真面目にキレられた。
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