上 下
37 / 51

37 方針急転換

しおりを挟む


 新年を迎え、俺は七歳になった、
 特に大きな問題もなく時間は流れていくった。
 身長が少しは伸びたか?

 このまま何事もなくここで成長していくのかと、なんとなく思った。
 フランツはどうも俺たちを遠ざけたいようなので、このままエルホルザで過ごすことになるのかもしれない。
 王にならないでいいのは嬉しいが、飼い殺しみたいな生活は望んでいない。
 この状態が続くようなら、どっかで家出を計画しないといけないかもしれない。
 みたいなことをマックスに漏らすと、その時には算段しようと言われた。
 まぁ、そうならないことを祈る。

 と、実際に祈っていたわけではないが、なにやら天に通じたらしい。
 ある日、城から使いが来た。

「ソフィー王妃のご健康状態が大変よろしいと判断されたので、アンハルト宮に戻られるようにとのことです」
「あらっ」

 使いの言葉に、ソフィーはのんびりと驚いてみせた。

「どのお医者様がそんなことを仰ったのかしら?」
「陛下のご命令です!」

 ころころと笑いながら尋ねるのだから、ソフィーもいい性格をしている。
 医者が診断に来たことなんて一度もない。
 それ以前に城から誰かが様子を見に来たこともない。
 あるいはエルホルザの街の代官が、なにか情報を送っていたのだとしても、体裁を保つためのなにかをしたとしてもおかしくないだろうに。

「では、すぐに支度をして城にお戻りください!」
「あら、無理ですよ」
「なっ! なぜですか⁉︎」
「ここにはなにもないのですから。城に戻るにしても馬車もなしにではねぇ」

 たしかになにもない。
 ここに来るために使った馬車は、置いておく場所がないので騎士たちとともに戻している。
 いきなり帰って来いとか言われても、すぐに用意できるものでもない。

「す、すぐにご準備いたします!」

 使者は慌てふためいて出ていった。

「なんなんだ?」
「さあ? でも、私が城にいないとまずいことでも起きたのではないかしら?」
「なにが起きたのやら」
「さあ」

 ともあれ、王都のアンハルト宮に戻ることになったようだ。
 騎士と侍女は素直にこのことに喜んだ。
 やはりこの二人にとっては、主人がこんなところで暮らしているのは嫌だったようだ。
 本人はめっちゃ楽しんでいたんだけどな。

 それからおよそ一週間で迎えが来た。
 俺たちがここに来た時の片道が一週間だったはずなので、これはかなり急いだ結果ではないだろうか。
 帰りもかなりの強行軍で、揺れまくりの馬車ではかなりきつかった。

 ゼルディアとカシャは後からやってくるということになった。
 ゼルは俺の教育係なのだから、付いてくるのは当然だ。
 宮殿暮らしになることを素直に喜んでいる。
 そっちの方が贅沢な暮らしができるだろうしな。
 マナナは俺と一緒に馬車で揺られている。

 そういうわけで、俺たちは王都に戻ってきた。
 宮殿は俺たちがいない間も使用人たちによって管理されていた。

「おかえりなさいませ」

 出迎えた使用人たちは涙を浮かべていた。
 忠誠心が高いなぁと呆れてしまう。
 そんな彼らを見るとソフィーの目も潤んでいた。

 さて、そんな急に帰って来させられて何事が起きたのかと思うが、それはアンハルト宮の者たちも知らなかった。

「そのうち、向こうからなにか言ってくるでしょう」

 ソフィーは気楽だ。
 侍女たちが健康的に日に焼けた俺たちの肌を見て嘆いているのを聞いて笑っている。
 明日から、美肌強化週間を始めようとか言っている。
 いや、それは勘弁してほしいのだが。
 俺もなんだよな?

「うう~」
「マナナ、暴れるなよ」
「う~」
「そんなことはしないか。うんうん、マナナはいい子だからな」
「うう~」

 マナナを宥めていると、周りから視線が刺さる。
 新顔のマナナを見定めているのかと思ったら、違った。

「アル様、言葉遣いが……」
「やはり、お外で暮らしたから」
「すぐに家庭教師を」
「僕なら大丈夫だよ!」

 これはいかんと、すぐに良い子ちゃん演技をした。

「ちょっと、外の言葉を覚えただけだから、こんなのは使い分けられるよ。それに教師ならもういるから」
「そうそう。お父様の紹介でゼルディア様が教育係になってくださったのよ」

 そう言うと、皆が驚いた声を上げた。
 やはり有名人なのか。
 なら、俺がジークだと知ったらもっと驚くのだろうか?
 いや、不必要に言いふらすつもりはないけどな。
 なんか、そういうのってみっともない気がするしな。

 次の日、使者が来て今回の急な呼び戻しの原因がわかった。
 聖女イルファタが里帰りの途中でこの国に立ち寄るのだそうだ。
 ちなみに、俺の昔の仲間のことだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 よろしくお願いいたします。 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

転移ですか!? どうせなら、便利に楽させて! ~役立ち少女の異世界ライフ~

ままるり
ファンタジー
女子高生、美咲瑠璃(みさきるり)は、気がつくと泉の前にたたずんでいた。 あれ? 朝学校に行こうって玄関を出たはずなのに……。 現れた女神は言う。 「あなたは、異世界に飛んできました」 ……え? 帰してください。私、勇者とか聖女とか興味ないですから……。 帰還の方法がないことを知り、女神に願う。 ……分かりました。私はこの世界で生きていきます。 でも、戦いたくないからチカラとかいらない。 『どうせなら便利に楽させて!』 実はチートな自称普通の少女が、周りを幸せに、いや、巻き込みながら成長していく冒険ストーリー。 便利に生きるためなら自重しない。 令嬢の想いも、王女のわがままも、剣と魔法と、現代知識で無自覚に解決!! 「あなたのお役に立てましたか?」 「そうですわね。……でも、あなたやり過ぎですわ……」 ※R15は保険です。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも連載しております。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる

竜頭蛇
ファンタジー
伊藤淳は都内の某所にあるダンジョン配信者事務所のマネージャーをしており、かつて人気配信者を目指していた時の憧憬を抱えつつも、忙しない日々を送っていた。 ある時、ワーカーホリックになりかねていた淳を心配した社長から休暇を取らせられることになり、特に休日に何もすることがなく、暇になった淳は半年先にあるS級ダンジョン『破滅の扉』の配信プロジェクトの下見をすることで時間を潰すことにする. モンスターの攻撃を利用していたウォータースライダーを息抜きで満喫していると、日本発のS級ダンジョン配信という箔に目が眩んだ事務所のNO.1配信者最上ヒカリとそのマネージャーの大口大火と鉢合わせする. その配信で姿を晒すことになった淳は、さまざまな実力者から一目を置かれる様になり、世界に名を轟かす配信者となる.

妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜

橋本 悠
ファンタジー
両親の死、いじめ、NTRなどありとあらゆる`最悪`を経験し、終いにはパーティーメンバーに刺殺された俺は、異世界転生に成功した……と思いきや。 もしかして……また俺かよ!! 人生の最悪を賭けた二周目の俺が始まる……ってもうあんな最悪見たくない!!! さいっっっっこうの人生送ってやるよ!! ────── こちらの作品はカクヨム様でも連載させていただいております。 先取り更新はカクヨム様でございます。是非こちらもよろしくお願いします!

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

魔力量しか取り柄がないぼくが世界最高の魔法使いたちをこき使う話

冬麻
ファンタジー
世界最高の魔法使いたちに弟子になって自分の魔法を覚えてくれと頼まれた神崎無限。 その代わりに様々なことで師匠たちをこき使う魔法学院での日常の物語。 無限の魔力量で全ての魔法を覚えて見せろ! この作品はカクヨム、アルファポリス、ノベルアップ+ にも掲載されています。

チート生産魔法使いによる復讐譚 ~国に散々尽くしてきたのに処分されました。今後は敵対国で存分に腕を振るいます~

クロン
ファンタジー
俺は異世界の一般兵であるリーズという少年に転生した。 だが元々の身体の持ち主の心が生きていたので、俺はずっと彼の視点から世界を見続けることしかできなかった。 リーズは俺の転生特典である生産魔術【クラフター】のチートを持っていて、かつ聖人のような人間だった。 だが……その性格を逆手にとられて、同僚や上司に散々利用された。 あげく罠にはめられて精神が壊れて死んでしまった。 そして身体の所有権が俺に移る。 リーズをはめた者たちは盗んだ手柄で昇進し、そいつらのせいで帝国は暴虐非道で最低な存在となった。 よくも俺と一心同体だったリーズをやってくれたな。 お前たちがリーズを絞って得た繁栄は全部ぶっ壊してやるよ。 お前らが歯牙にもかけないような小国の配下になって、クラフターの力を存分に使わせてもらう! 味方の物資を万全にして、更にドーピングや全兵士にプレートアーマーの配布など……。 絶望的な国力差をチート生産魔術で全てを覆すのだ! そして俺を利用した奴らに復讐を遂げる!

処理中です...