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07 呪法士の独白
しおりを挟む●●呪法士●●
「ははっ! どうやら成功みたいだぜ!」
護衛の男がうるさく喚いている。
まだなにもうまくいっていないというのに、そんなこともわからない。
剣の腕があるというが信用はならないなと、呪法士は思った。
私は、かつて名の知れた呪法士だった。
とある山岳地帯に眠る腐敗の王と契約し、呪いの力を思うままに振るっていた。
呪いの力は表沙汰にはできないような事態で、有効活用されている。
私の力はそういう勢力に重宝され、そして人に言えぬ仕事というのは結果して他人に言えぬ秘密を私に捧げるということでもある。
それらは大量の金貨となって私の前で積まれていった。
だが、そんな栄光の日々もそう長くは続かなかった。
その頃、世は魔族の暴走に悩まされていた。
あの有角種族どもは、角があるだけで自分たちの方が優れていると勘違いした振る舞いをして他の種族から嫌われていき、結果として魔王を名乗る者を中心として魔族軍として結束し、全方位に宣戦布告をした。
なりふり構わぬ捨て身の虐殺行進はいくつかの国を滅ぼした。
だが、滅ぼした国の土地に居座り、城を作ったところで魔族軍の勢いは停滞し、最終的に周辺国家に認められた勇者を中心とした反抗軍によって敗北することになる。
私の失敗は、その勇者に自身の力を振り翳したことだ。
勇者たちはその頃、周辺国家全てに勇者として認めさせ、反抗軍を結成するための活動をしていた。
その際に、とある貴族の触れられたくない秘密に近づいてしまい、敵視されてしまった。
そんな中で私に仕事の依頼が来たのだが、結果として、敗北した。
勇者だけならば、私の敵では無かった。
私の呪いの力で四肢を腐らせ、人生の終わりをミノムシのように過ごすことになっていたはずだ。
だが、奴には獣人の賢者がいた。
聖女もいた。
奴らによって私の呪いは看破され、呪法士たる私の場所を探し出され、腐敗の王との契約を奪われた。
力を失った私はそれから、複数の組織から命を狙われることとなった。
それはそうだ。
私は多くの、他人に知られては困る秘密を握っていたのだから。
しかし幸運にも、私への追っ手は魔族軍の再侵攻によって有耶無耶となった。
魔族軍は私が秘密を握る者の多い国を蹂躙し、私に秘密を握られている多くの者を死者の列に加えていった。
そして私は、再び力を得るための旅に出た。
その旅はかなり長いものとなったが、ついにそれを獲得できた。
死んだ火山の奥に眠る毒霧の王。
この王から発する呪いの力にかかれば、どんな者でも熱病のように体が熱を発し、数日も経たずに内部から焼けて死ぬことになる。
そうなるまでこの場から離れられないことが問題だが……。
「おい、さっさと終わらせて、いっぱい飲みに行こうぜ」
「まだだ。呪いが終わるまで数日はかかる」
「おいおい、頼むぜぇ」
最初に説明したはずだが、そんなことも覚えていない。
全く、愚か者はこれだから。
「もっと気張ってくれてよ。終わらせて酒を飲もう。そうだ、王都の売春宿通りならゲポッ!」
馬鹿らしい話を聞きたくなくて無視していたのだが、いきなり気持ちの悪いゲップのようなものを吐き出した。
なにかと思ってみれば、男が倒れていて、その上に子供が立っていた。
金髪の見目麗しい子供だ。
なぜか、私の標的の一人に似ている気がする。
「お前の呪いか、これは?」
そう言われた瞬間、ゾッとした。
声は違う。
姿は違う。
それなのに、あの日、私のところに辿り着いた、あの勇者の姿を幻視した。
あの勇者ジークフリード。
いや、まさか。
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