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第5話 圧倒的な戦闘力

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アグニエル王国の南方にある名も無き森にて、今俺は剣を握りしめ、森の主であり指定危険度Bのアースドラゴンに立ち向かっていた。

 指定危険度とは、冒険者に定められた階級と似たようなものであり、危険度Fが最も弱く、E、D、Cと危険度が上がるごとに魔物が強くなるという目安になっている。

 そのため、今俺が相手にしているアースドラゴンは指定危険度が『B』なため、かなり危険で凶悪な魔物なのである。

 しかし──

「──はっ!」

『グギャアッ!?』

 そんな、場合によってはB級冒険者ですら見て見ぬふりをするアースドラゴンを、C級冒険者程度の実力かつ、スヴェンから無能と呼ばれていた俺が圧倒している。

 アースドラゴンは、その肉体を岩でできた鎧のような鱗で守っているため、本来なら刃物で戦うのは愚策とされている。

 しかし、そんなアースドラゴンの鱗を、俺はまるで豆腐を切るかのように簡単に切り裂くことができていた。

 だが決して、俺の持つ剣が業物だとかそういったわけではない。

 一応知り合いの凄腕鍛冶師が打ってくれた剣ではあるものの、この剣の刃ではアースドラゴンの鱗を切り裂くことなんて、普通なら不可能である。

 しかし、それを俺は可能としている。俺は不可能を、可能にすることが出来ているのだ。

「いいわよノア! その調子で、どんどん攻めなさい!」

 遠くから、ステラの応援が聞こえてくる。

 そう。俺がこうして手強いアースドラゴンを圧倒できているのは、他の誰でもない。ステラのおかげなのである。

 アースドラゴンと出会う前、俺はステラと『血の仮契約』というものを交わした。

 その方法は実に煩悩を駆り立てられるものではあったが、俺は今、自分の持つ【ドラゴンテイマー】というスキルの真価を、これでもかとその身で味わっていた。

「分かる……どう動けばいいのかが、相手が次どう動くのかが、簡単に理解できる……!」

 アースドラゴンの僅かな動作で、次相手がどう動き、どう攻撃してくるかかがなんとなく予測できる。

 だがそれが分かったところで、動けなければ意味がない。しかし、俺の体はいつもよりも身軽に、それでいて素早く動けている。

 まるで、思考に体が反射で追い付いているような感じだ。まさに、本能のままに戦っているような感覚に、俺は確かな高揚感を得ていた。

「どうノア、すごいでしょ! これがドラゴンテイマーの力よ!」

「あぁ! これだけすごい力なら、本契約の方にも期待が高まるな!」

「ほ、本契約……ね。ま、まぁ……か、考えてあげないこともないけど……今はまだ、その、えと……」

 どこか急に歯切れの悪くなるステラだが、今はそんなことを追求している余裕はない。

 確かに圧倒はしているものの、相手はアースドラゴンだ。油断をすれば、足元をすくわれてしまう可能性もある。

 そのため、俺はステラから視線を外しつつも、目の前に立ちはだかるアースドラゴンへと肉薄を続けた。

『ガラァァアァァアッ!!』

 だが、アースドラゴンも簡単にやられるほどヤワではない。

 そのため、戦況が不利になったらその場でじたばたと暴れ回ったり、転がり回っていたりと自由に動き回っている。

 人間がしても意味のないような行動も、魔物がすれば十分な脅威になりえることがある。

 俺が転がり回ってもなにも起きないが、アースドラゴンが小さな村の中で転がり回ってしまえば、その村はきっとすぐに壊滅してしまうだろう。

 だが残念なことに、ただ暴れ回るだけでは今の俺に通用しない。

 いくらアースドラゴンのような凶暴な魔物でも、長時間暴れ続ければいつかはスタミナ切れを起こす。

 俺はそのタイミングを狙い、アースドラゴンの動きが鈍くなった瞬間、剣の柄を両手で構えながらアースドラゴンの懐へと潜り込んだ。

「これで、トドメだッ!」

『グギ、ァ──』

 隙を見せたアースドラゴンに放った俺の突きは、大きな胴体を穿ち、心臓を貫いた。

 それにより、急所を一突きされたアースドラゴンは断末魔の悲鳴を上げ、そのまま体を仰け反らせて倒れ込み、動かなくなってしまっていた。

 そして、喧騒に包まれていた森に静寂が訪れる。

 俺は、目の前で横たわるアースドラゴンの亡骸を見つめながらも、剣を鞘に収めてグッと小さくガッツポーズをとった。

「ノア、すごいじゃない! 初めて力を使うにしては、上手く使いこなしているように見えたわ。多分、あなたにはそういう才能があるのよ!」

「ありがとう。だが、これは全部ステラが協力してくれたおかげだ。俺はもう、ステラには頭が上がらないよ」

「ふふん、当然よ。むしろ、私の力を借りて不甲斐ない結果を残したら許さないんだから」

 少し手厳しいことを言うステラではあるが、俺に頼られていることが嬉しいのか、発言とは裏腹に少し照れたような表情を浮かべていた。

 それでいて、ステラは豊かに育った胸をこれでもかと張り、自慢げにドヤ顔を決めている。

 だがステラは意外にも身長が低く、百七十後半はある俺の胸元辺りに顔があるため、誇らしげに胸を張っているその姿が俺の目には非常に可愛らしく映っていた。

「まぁ、とりあえず……これで、ギルド立ち上げの資金は確保したも同然だな」

「そうね。これだけ大きいのだもの。それに、トカゲのくせにドラゴンだなんて名前を語ってるのだから、それこそ金貨百枚くらい貰えないと困るわ」

 若干不満そうではあるものの、ステラもアースドラゴンが高値で売れることを期待しているのか、いつもよりも表情が明るいものになっていた。

 そんなステラを見てほっこりしていると、いつの間にか俺の右手の甲にある痣が元の黒色に戻っており、軽かったはずの剣が少しばかり重くなったような、そんな気がした。

「……なるほど。これで、もう契約の効果が切れるのか。強力ではあるが、持続時間が短いのも少し面倒だな」

「そうね。だから、そのために本契約があるのだけれど……」

「……? なにか、問題でもあるのか?」

「問題というか、その……本契約の儀式は、少し特別なものだから……もう少し親睦を深めてから、ね?」

 頬をほんのりと赤く染め、もじもじとしながら話すステラの姿に、俺の心臓は大きく高鳴っていた。

 仮契約で、あれだけのことをしたのだ。

 もしこれが本契約となれば、ステラの反応を見る限り、きっとかなり過激なものなのかもしれない。

 だが、もしそれが俺の想像しているものと同じだとしたら、確かに親睦を深めてからの方がよさそうだ。

 そんなことを考えながらも、俺はステラと協力をしてアースドラゴンの素材を剥ぎ取れるだけ剥ぎ取り、アグニエル王国へと帰還するのであった──
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