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第2章 -side story-
チーム
しおりを挟むリーデで生活して早1週間が過ぎ、2-3の生徒達は皆異世界に慣れ始めて来ていた。最初は文化の違い、価値観の違い、倫理観の違いなどに戸惑っていたものの、和田や蓮花などのリーダーシップのある者のおかげでエルナの予想より遥かに上回る成長を遂げていた。
だがそんな2-3の生徒達の誰しもが慣れていないものがあった。それは奴隷のシステムとモンスターと戦うということである。
この街に来て5日ほど経った日にいつも2-3の生徒達が集まって過ごしている噴水のある大広間に奴隷店が開かれ、お金持ちの男が肌を露出させている奴隷を買うために必死になっていた。
そんな男達と奴隷を見て、誰も「奴隷なんているんだ」という率直な感想ではなく、見るからに嫌そうな目をしてその場を離れていた。無理もない、彼らの住んでいた世界には少なくとも周りに奴隷は存在していないため、見て心が痛くなったそうだ。
そしていくら優秀なSSを持っていようとも戦闘とは無縁の世界に生まれたため血なまぐさいことが無経験であり、しかもまだ子供だ。
剣で肉を断つ感覚が苦手で嘔吐する者、殺した時の断末魔が頭に残って涙を流す者、そもそも生き物相手に剣を振れなくて傷を負ってしまう者が大半だった。だがそれらを乗り越えられなければこの世界で生きていくなんて不可能。心苦しいが耐えてもらうしかないのだ。
「エルナさま、お邪魔します……? なにをしておられるのですか?」
「こんな夜分にお疲れ様、クリード。前、城で話したでしょう? 神の塔を攻略するためのチームを考えていたの」
木製の椅子に腰を下ろしたクリードにエルナは1枚の紙を手渡す。そこには悠真を除く25名のルザインの名前と所持しているSSが丁寧にズラリと書き並べられていた。
─────── チーム割り当て ───────
1.チーム
◎和田 陸斗 《勇者》
○相澤 勇気 《迅速》
・木下 武 《有罪眼》
・伊藤 友希 《意思疎通》
・真田 亜紀 《炎姫》
・岡本 美羽 《範囲型吸引》
・田邊 耀 《光合成》
・紀元 茜 《飛翔》
2.チーム
◎西園寺 蓮花 《魔女》
○林 由奈 《植物使役》
・箒 梨奈 《吸収》
・榎本 海香 《短時間未来視》
・吉井 瑠美 《美化》
・齋藤 宏輝 《風帝》
・戸田 竜也 《魔物使役》
・堀田 歩 《完全追尾》
3.チーム
◎横関 祐也 《未来予知》
○横田 美咲 《必中》
・天野 満 《倍化》
・小林 秋斗 《転移》
・筆宮 中 《念写》
・広元 明 《超遠距離眼》
・加藤 沙也加 《複製》
・蓮華 美佳子 《水姫》
・木下美香 《影操》
──────────────────────
予想以上に出来栄えが良かったのでクリードは何度も読み返していた。その度に「ふむ」や「なるほど……」と無意識に呟いており、その様子がおかしいのかエルナはクスクスと笑っていた。
「二重丸がチームの隊長でただの丸が隊長を支える副隊長ということでしょうか」
「隊長って……これは軍ではないのよ? だからリーダー、サブリーダーって感じね。リーダーに選ばれたのは指揮力があり、人をまとめることのできる者。サブリーダーはクリードの言う通りリーダーを支えれる立場の者。あとは前衛や後衛に強い者、補助を得意とする者をバランス良く集めたつもりよ。修正点はないかしら?」
まさかエルナがそこまで考えているとは知らず、再び紙を見出しては何度も唸り、修正する箇所は無いと伝えるとエルナは満足気に体を伸ばし、大きなあくびをしていた。
気が付けばもう月は真上にあり、いつもエルナが就寝している時刻よりも大幅に遅れていることが分かった。生活習慣が乱れ、不健康になってはいけないとエルナを寝させるため急かすが、この紙を人数分作らないといけないらしくクリードの手を跳ね除けて再びペンを持ってしまった。
だがこれ以上負担をかけるのはいけないと判断したクリードはエルナから薄く積まれた紙と持っていたペンを取り上げ、部屋から出ようとしている。
「ちょっとクリード! 返しなさい!」
「いえ、これ以上続けて体を崩してしまえばルザインの皆様に示しがつかなくなってしまいます。ここは私にお任せ下さい。では」
左胸の前に手を置き、クリードは小さくお辞儀をして部屋を後にする。エルナはすぐさま追いかけようとしたのだが、頑固なクリードに何を言っても意味がないことは分かっているのでため息をして楽な服装になる。
机の上にあったランプを消し、エルナは冷たいベッドに体を預け、静かにその日を終えるのであった。
その頃、クリードはある人物の部屋へ訪ねていた。
「こんな夜分にすまない。サヤカさまは居られるか」
扉をノックし、その部屋に寝泊まりしている加藤 沙也加を呼び出す。すると数秒後に扉が開き、沙也加とその友達である蓮華 美佳子が顔をひょっこりと出してきた。
「あれ? クリードさんじゃん。どうしたんですか?」
「急にすまない。本来は私のような大人がキミのような子に頼むことではないのは承知している。だが少しだけ手を貸してくれないか?」
頭の上にクエスチョンマークを浮かべている沙也加と美佳子にクリードはエルナが時間をかけて制作した『チーム割り当て表』を手渡す。するとクリードの意思を汲み取ったのか「なるほどね」と沙也加は頷く。
「ん~? どういうこと~?」
だが垂れ目でいつも眠たそうに見える美佳子はどういう意味か分かっておらず、ふわふわなカールの髪の毛を揺らして頭を傾けていた。そんな美佳子と対象的に少しつり目の沙也加はその紙の上に手を置き、目を閉じて魔力を流していた。
「《複製》」
沙也加はSSである《複製》を発動し、紙を25人分に増やした。増やし終えたあと少し疲れたのか「ふぅ」と沙也加は一息ついていた。
この《複製》というスキルは魔力ではなく魔力最大値を消費して使用できるスキルなのだ。簡単に言えば魔力が100あったとして、魔力を10消費する魔法を使ったら合計10回使えるのが普通だ。だがこのスキルを使うと持てる魔力の最大量が減るため、100貯まるはずの魔力が90までしか貯まらなくなり、どんなに魔力を貯めても合計9回しか使用出来なくなるのだ。
その減った魔力最大値を取り戻すには複製した物を任意で消す方法と破壊する方法がある。任意で消した場合、消えていた魔力最大値はすぐに元に戻るのだが、複製した物が破壊された場合直ぐには戻らず、ゆっくりと時間をかけて戻るのである。
ちなみにいくら紙にビッシリと文字が書かれていても消費魔力最大値は白紙の紙と変化はない。どれだけ重いか、どれだけ大きいかで大体の消費魔力最大値決まるのだ。
「沙也加ちゃん大丈夫~? お水飲む?」
《水姫》という水属性魔法のスペシャリストである美佳子は心配そうな顔をして沙也加に水を飲ませようとする。その気配りはいいのだが美佳子はとんでもない天然なためいつも奇抜な行動をとってしまう。
今も生成した水をコップではなく手皿を作って沙也加に飲ませようとして「大丈夫だから!」と言われ拒否されていた。そんな美佳子はシュンとしてしまい、「ごめんね~」と沙也加に抱きついている。
大きく実った胸に抱き寄せられる沙也加は若干うんざりしつつも、これが美佳子なのだと昔から知っていたためすでに諦めてされるがままでいた。
「仲が良いのはいいことだ。では私は自室に戻る」
「は~い。お疲れさまです~」
丁寧にお辞儀をするクリードとは裏腹に、美佳子は呑気に手を振って「ばいば~い」と言っていた。その後、眠たくなった美佳子は自室に戻り、すぐに眠りにつく。
部屋に残った沙也加はクリードから紙を受け取ればよかったと若干後悔しつつも、疲れた体を癒すために美佳子同様ベッドに潜って次の日に備えるのであった。
───────────────
次の日の朝、2-3の生徒達は急遽宿にある大部屋に呼び出されていた。なんとかモンスターを倒す耐性をつけようとしていた和田や小林などは周りと違ってキチッと装備をまとっていた。
中には起きたばかりで寝癖が酷いもの、まだ眠いのかあくびを何度も繰り返す者、朝だというのに友達と盛り上がっている者など様々だったが、エルナとクリードが大部屋に入ってくるとすぐに静かになる。
別に過去に怒られたからエルナとクリードが入って「やばい」と感じ、静かになったわけではない。いつも集められる時は基本聞き逃してはならないことなので真面目に耳を傾けているだけだ。
「急にすまない。全員居るか?」
「いえ、横関くんがまだ寝ています」
アニメなどのオタクの割には勉強熱心な横関は夜中まで本を読み漁っていたという。そのせいか未だに熟睡中で、和田が起こしに行っても聞く耳すら持ってくれなかった。
「まぁ、大丈夫だ。これから配る資料と、今後の説明について説明するため終わったら誰かがユウヤさまに伝えるように」
そう言い、早速クリードは資料を配り始めた。資料と言ってもただの『チーム割り当て表』なのだが、2-3の生徒全員(横関は除く)が静かに紙を見つめていた。
「それは今後共に行動するチームをまとめた表だ。全てのチームがバランス良く行くようにエルナさまが考え抜いた結果である。異論は……あまりないと助かるな」
その紙を見て不満を持つ生徒は少なからず10人ほど居た。ある友達と一緒じゃないという理由がほとんどだったが、今自分達がいる異世界は何も考えずに行動したら死んでしまうと皆分かっていたので、エルナやクリードに言い寄るものはいなかった。
だがやはり納得がいかないのか、どこか不満気にしている者も少なからず居た。だが彼らも「仕方ないか……」と呟き、大人しくクリードの話を聞くことにした。
「確かに不平不満は多いと思います。ですがこれが効率的で、尚且つ安全なチーム分けなのです。どうか、お許しを」
貴族であっても年下の女の子に頭を下げられて気持ちのいい者はいなかった。すぐに納得して和田の支持を聞き、とりあえずチームごとに分かれることにしたらしい。
その統率力に驚くクリードだったが、それ以上に誰も文句を言わず速やかに行動するしており、1分もしない内にチームごとに分かれたことに対してなによりも驚いていた。
「クリードさん、これからは主にこのチームで団体行動……ということですね」
「その通りだ。だから休むにしろダンジョンに潜るにしろ全員の意見が一致してからにしてほしい。誰一人欠けてはならない、それがチームであるからだ。そしてダンジョンに潜る順番はチーム1.2.3とローテーションにしてほしい。もしチーム1が休んでもその日は他のチームは潜ってはダメだ。必ず次の日にしてほしい。そして休んだからといって次の日にダンジョンに潜るのも禁止だ」
なにやら覚えるのがめんどくさい話をするクリードだったが、筆宮が《念写》を使用して聞いたことを直接紙に写していたので皆が理解して終えることが出来た。
そして早速和田含むチーム1がダンジョンに潜るか否かを決めていた。最初は反対する者もいたのだが、チームである以上自分のせいで仲間の成長を邪魔してはいけないと考え、なんとか皆の意見が一致し終える。
エルナはこれを狙っていた。確かにモンスターは怖い。下手すれば死んでしまう。だが逃げてしまえば成長できず終わってしまう。そうなってしまえばいくらルザインであろうともこの世界で生き残れないからだ。
だからチームを作り、エルナは各々の『自立心』を高めたかったのだ。結果、早速効果は現れたらしい。
「では解散だ。しつこいようだが今日はチーム2とチーム3はダンジョンに潜ってはいけない。それを守ればあとは自由にしてくれ」
エルナとクリードは大部屋はすぐに出てしまった。その後、和田率いるチーム1はすぐに準備を終え、早速リーデダンジョンへ足を運んでいった。
そんな中、チーム割り当て表と筆宮のまとめた紙を持って未だに熟睡中の横関の元へ向かう者が居た。その名は横田 美咲、横関のことを尊敬している女の子である。
「祐也、入るよ?」
横関からの返答は無かった。いつまでの男子の部屋の前で待っていることが恥ずかしいと感じた美咲は無許可で横関の部屋に入室する。
「ほら、さっさと起きなって」
それでも横関は起きなかった。いつまで呑気に寝ているんだと小さくため息を吐いた美咲は横関を起こすために半ば強引に布団を剥ぐ。
するとそこには汗をかき、青ざめた顔で苦しそうに魘されている横関の姿があった。
「っ! ゆ、祐也!? 大丈夫!?」
熱かと思った美咲はすぐに部屋から飛び出し、宿の人からタオルと水を溜める桶を貰いに行った。
その頃、横関は悪夢を見ていた。そう、《未来予知》が発動していたのだ──
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