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第2章
出迎えてくれた者
しおりを挟む目の前に広がる風景……いや、芸術と評した方がいいのかもしれない。その芸術に悠真の心は吸い込まれるように夢中になってしまう。白い大樹の聳え立つ丘にはモンスターの気配はなく、色とりどりな花たちが咲き誇り、まるで楽園のようだった。
その楽園に一足先に足を踏み入れたのはフィルだった。手で胸を抑え、感動しているようにも見える。そんなフィルの周りには白い野うさぎや小鳥たちが歓迎するように集まってくる。本能的にフィルがグローリアだと悟っているのだろうか。
「ハルマお兄様ー! レナお姉様ー! 早く来てくださーい!」
子供のようにはしゃいで腕を振るフィルの姿を見て悠真とレナは目を合わせ、「やれやれ」という素振りをしてフィルのあとを追う。フィルに近づくと集まってきてた動物たちは一目散にどこかへ逃げ出してしまった。
やはり人間には警戒心があるのだろう。仕方の無いことなのだが若干残念だと感じてしまうのは気のせいだろうか。
「遠くから見てもそうですが本当に大きいですね……」
レナがそう呟いて白い大樹──白神木の前に足を運ぶ。その白神木は高さ20メートルは軽く超えており、幹の太さは横で2メートルは余裕で超えていた。そんな神秘的な白神木の前に悠真が近づくと急に地面がグラッと揺れ、白神木から白い葉が散っていく。
「じ、地震か……!?」
「いえ……どうやら違うようです……!」
地鳴りが収まり、しばらく辺りを見渡していると白神木を囲むように魔法陣が展開されるのが見えた。その魔法陣が展開されるとそこから各1本ずつ細長い水晶が姿を現す。
その水晶は全て透明で、よく観察すると水晶の中に粒子のような粒がゆっくりと循環していた。
どうやらそれは魔力らしく、レナとフィルはその魔力の流れる水晶に興味津々なのか肩を揃えて観察していた。しかし何が面白いのか分からない悠真はただその水晶の現れた意味を考え始めた。
「歓迎をするための仕掛けにしては意味がなさすぎる……むしろこの場に水晶は邪魔にも見える。一体なんのために……?」
確かに水晶はキレイだ。今まで見てきた宝石の中で一二を争う程であるのは認める。だがこの場においてどうもその水晶の存在は浮いてしまうのだ。誰が、なんのために、どうして仕掛けたのか全く意味が分からなかった。
とりあえず悠真は目の前に現れた水晶に手を付け、魔力を流してみることにした。感じられるのはただの魔力のみ。結果水晶は少しだけ魔力に反応して光るだけでそれ以上の反応は見れることなく終わる。
どうやら向こうも同じようで目の前の水晶に魔力を流しているらしいが光るだけで終わっていた。
「本当にこれだけなのか?」
「いえ、フィルちゃんのお母さんはこの先で待ってると言っていたので必ず関係はあると思いますが」
それはそうなのだがフィルの母親は『白神木の丘の先で待っている』と言っただけで具体性がないのだ。ある謎解きを解いて先へ進むのか、それとも言葉の意味通りこの丘を超えてまだ先にある森を進めばいいのかが不明なのだ。
だが分かることは一つだけある。フィルの母親は『丘の先で待つ』と言っているだけで、『丘の先の〇〇の近くで待つ』とは言っていないのだ。そこから推測するとやはり謎を解けと言うわけだが……全くわけが分からない。
せめて透明ではなく色が分かればいいのだが。
「ん? 色……色……そうか、単純なことじゃないか」
悠真はなぜフィルの母親が石碑を探せと言っていたのか分からなかった。だがその意味が今やっと理解出来たのである。
触れた石碑から数字が浮き出た。つまりその触れた石碑と同じ色の水晶を選べばいいという極めて単純かつ簡単な謎なのだ。だがこれには問題が生じる。目の前にある4つの水晶は全て透明、そしてフィルの母親は『5つの石碑』と言っていたので物理的に水晶の数が1本足りないのだ。
だがこれも一つの貴重な貴重な案だ。悠真は1人で抱え込もうとせずレナとフィルに意見を共有し、みんなでゆっくり考えることにした。
「確かに、ハルマさまの推理は合ってるかと思いますが……色々と惜しいですよね」
「そうですね。フィルもハルマお兄様の考えを聞いて『それだ!』って思ったのですが少しだけ欠けてますよね」
やはり皆考えることは同じ。石碑の数と水晶の数が合致していないこと。石碑から浮き出た数字がなんらかの順番であるのは間違いないのだが水晶が透明のせいで意味の無いことを察していた。
時間はたっぷりある……のだがやはり焦りが見えてしまう。目の前にゴールがあると人の考えは2パターンに分かれてしまうので極めて効率が悪いのだ。
1つの目のパターンはゴールを客観的に見て発想すること。これはゴールが見えたことでその先へ進もうとする向上心が導く自然的思考であり、様々な観点で物を見ることが出来る。
だが対照的にゴールとその鍵が分かるとどうしても主観的になってしまい、足元に落ちている鍵に気付かずただ上を見上げるだけで終わることが多い。これが2つ目のパターンだ。
今悠真たちは絶賛2つ目のパターンの無限回廊に陥ってしまっている。客観的に見れば気付くことも気付けないという悪循環になっているということだ。
「(考えろ……考えろ……客観的になれ……足元まで思考を張り巡らせるんだ)」
そう考え悠真は足元を見る。そこには白い蝶々が1匹。青く染まった花畑の真ん中で呑気に蜜を吸っていた。そして次に周りを見る。周りには考え込んでいるレナとフィルが居て、色とりどりの花々が散らばることなくまとまって咲いていた。
そんな芸術に見蕩れていると、悠真は一つの謎が生まれた。
『なぜ花が散らばることなくまとまって咲いているのだろう』と。
これほどの広大な花畑なら必ずしも色がバラバラになったり、青の中に赤、赤の中に青といったように色が混合してしまう確率は大いに高い。そのはずなのに自分の足元には青い花びらの花しか咲いていない。
これってあまりにも不自然ではないだろうか? そう考えるとこの花畑は自生したものではなく『人工的』に作られたものだと想定できる。
そしてなぜ人工的に作られたのか。それは目印として共通点を作る必要があったから。その共通点とは『石碑』である。あの石碑の色とこの花畑にある色は全て一致してある。そのため、今悠真が行うべき行動はただ一つ──
「色で判断して数字のとおり石碑にやった時と同じように魔力を流せばいい」
つまりそういうことである。早速悠真は『1』である緑色の花畑の中心にある透明な水晶に手を置き魔力を流し込む。すると魔力が反応し、透明な水晶が緑色になったかと思えば水晶の光が地面を伝って丘の中央にある白神木へと伸びていった。
今までとは全く異なる反応。つまりこれで合っているということだ。そうなってしまえばあとはただの作業。自分の記憶とレナのメモを照らし合わせて順々に魔力を流すだけだ。
「次は……青です」
「はい! 分かりました!」
悠真が魔力を流し込む前にフィルが青い花の花畑にある水晶に向かって走り、手を優しくポンと置いた。そして魔力を流し込むと同じような反応を起こし、青い光が地面を伝い、白神木へと伸びた。
その次の色は『赤』である。レナが指示をするとフィルが元気よく返事をして水晶の元へ向かい、ホイホイっと魔力を流す。そして最後は『黄』なので、悠真は先回りをして魔力を流しておいた。
「……なにも起きない?」
結果はただ白神木に赤と青、黄や緑といった4色の光が集まっただけ。それからなにか変化が起きることはなく、ただ太陽が沈んでいくだけであった。
手順を間違えたかと思いレナのメモを見ても間違いはなく、水晶も反応しているので魔力を流すことは間違っていないはず。それなのになぜ変化が全く起きないのだろうか。
「『5つの石碑』と母親に言われましたが水晶は4つだけですよね? 花も4色ですし……石碑に触れたら変化するなんて仕組みはないと思うのですが……」
フィルの言う通りなのである。フィルの母親は『5つの石碑』と教えたそうだが、石碑の数に比例する水晶の数は4。石碑の色と同じになる花の色も4。どう考えても5つ目があるとは思えないのだ。
辺りを探ってもなにもなし。水晶に触れても光るだけで変わった変化はなし。グローリアの子供であるフィルが数字の順に触れても変化はなしと行き詰まってしまった。
解けたと思ってた謎が実は解けていなかった。これは非常に精神的にくるものがある。日も暮れてモンスターが活発になる時間帯になるので今から5つ目の石碑を探しに行くことができない。つまり今日はこれ以上の進展が見込めないということになる。
「赤、青、黄、緑……ほとんど単色系ですよね。紫や橙などの混色ではなさそうですし……かと言って黄緑や桃などの近い色はこの4色を見る限り可能性は低いと思いますし……分かりません」
お手上げなのかレナが喉を唸らせて紙に色々パターンを書いていたが、どれもしっくりこないのか紙をしまって目をつぶってしまった。正直なところ自分も分からない。新たな水晶が出るにしても間隔がおかしくなるためこれ以上の水晶は現れないはずなのだ。
なら何を見逃しているのだろう。確かに5つ目の石碑は見つけていない。でも5つ目を求める時他の4つがあれば自然と求めれるはずなのだ。しかしそんな考えが裏目に出てしまったのか現状行き詰まっている。さて、どうしたものか。
「単色……で思いつくのは白や黒ですね。ですが白や黒の花なんて──あっ!」
ぼそぼそと呟いていたフィルがいきなり声を上げる。その時ビックリして「ヒェッ!?」のような奇声を上げてしまったのだが、どうやらフィルは気づいていないらしい。
「ハルマお兄様! あれですよ! あれ!」
「あれって……白神木のことか?」
「そうです! あの木が5つ目の答えなんですよ!」
フィルが言いたいことを要約するとこうだ。
水晶は順に触れないと魔力を流しても反応しないため、普通は白神木に魔力を流しても何も反応しない。だが順番通りに1~4まで魔力を流すことで光の集まった白神木は『5』の役割になる。上から見ると水晶に囲まれた白神木に光が集まる=白神木に魔力を流す権利が与えられるということ。らしい。
色々突っ込みたいところは多々ある。なぜ鍵が水晶だったのにいきなり木になるのか。なぜ水晶に囲まれた白神木が最後の鍵になるのかなどなど……フィルの推理は筋が通っているようで若干通っていない。強引なこじつけが少なからずあるのだ。
だが可能性としては0ではない。やってみるだけの価値はあるだろう。
「えーと、白神木に触れて……ん? なんだこの手触り」
木の幹に触れているはずなのになぜかスベスベしてて光沢が見える。試しに拳を握って軽く叩いてみると「コンコン」と木から聞こえるはずのない音が聞こえた。
その音を聞いたフィルは水晶の元へ近寄り、悠真と同じ要領で優しく叩き始めた。すると鳴った音は白神木を叩いた時と同じく「コンコン」であった。つまり、この白神木はただの木ではなく水晶で作られたということだ。
「フィ、フィルの思った通りです!」
「……ちょっと外れてただろ」
胸を張って「ムフフ」と笑ってドヤ顔するフィルの額に優しくチョップしながら突っ込みを入れる。だが結果オーライである。これでフィルは母親に出会うという目的を果たせるのだ。
そう、これでフィルは母親と出会って……どうなるのだろう。母親のあとを継いでこの森を見守るのか? それともまた1年後の大満月(ビックムーン)の日までどこか遠い所へ行ってしまうのだろうか?
「ハルマお兄様?」
いつまでも魔力を流さない悠真を不審に思ったのかフィルが心配そうにこちらの目を見てくる。しかしどこか浮かない顔をしている悠真を見て不思議に思うフィルだったが、目的を果たすために悠真よりも先に魔力を白神木へ流した。
すると白神木が魔力と共鳴し、微かに揺れていく。水晶でできた木の幹は赤や青などの石碑の色と同じ色に変化していき、次第に白神木の太い幹に1本の線が入っていく。
その線は綺麗な縦長な長方形を描き、そのまま薄らと消えてしまった。すると目の前になぜか大きな扉が現れる。その扉に手をかけ、ゆっくりと押すと音も立てずすんなりと開き、悠真たちを歓迎した。
出た場所はさっきの丘と同じ色の花が咲き誇る広大な草原。悠真たちが全員通ると扉は自然と閉まり消えていく。辺りを見渡すと先ほどの木々や山々は無くなっており、また新たな森と地平線の彼方まで伸びる草原が悠真たちを出迎えてくれていた。
そしてその花が咲き誇る草原の真ん中に1人腰を座らせて大きな杯で酒を飲む女性が1人。ブロンドというよりも金色に近い色をした髪を腰まで伸ばし、青と白を基調とした薄い生地の女性。そんなお淑やかな風貌に逆らって痴女のように胸を強調しており、少し揺れただけで零れ落ちそうなくらいの服を纏っていた。
その女性の目は金色。唇は妖美で艶めかしく、そしてどこか優しくも恐れてしまう目つき。そう、目の前にいる女性は過去に悠真が会っていた女性だった。
「あ、あなたは……」
グランデスタについて教えてくれ、全治の果実やグローリアについて詳しく教えてくれ、小さな小屋に一人で住み、優しげな結界と同じ魔力を持ったあの女性。
そう、ルミアの姿がそこにあったのだ。
「ようこそ、如月 悠真さん。歓迎しますよ? 私、『親交神』が直々に……ね」
悠真の中で崩れかけていたパズルのピースが全て合わさった瞬間であった──
如月 悠真
NS→暗視眼 腕力Ⅲ 家事Ⅰ 加速Ⅰ 判断力Ⅱ 火属性魔法Ⅰ 広角視覚Ⅰ 大剣術Ⅰ 脚力Ⅰ 短剣術Ⅰ 威嚇
PS→危険察知Ⅰ 火属性耐性Ⅰ
US→逆上Ⅰ 半魔眼 底力
SS→殺奪
レナ
NS→家事Ⅲ 房中術Ⅱ 水属性魔法Ⅰ 光属性魔法Ⅰ
PS→聴覚強化Ⅰ 忍足Ⅰ
US→NO SKILL
SS→NO SKILL
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