生殺与奪のキルクレヴォ

石八

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第1章

透き通った水の流れる街で

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 突き刺すような日差しと裏腹に優しいのどかな風が草原の草をゆらゆらと揺らす。

 悠真も右へ左へとゆらゆらと揺れる。
 体に力が入らず、少し強めの風が吹くだけでつい倒れそうになってしまう。


「どうして……どうして何も無いんだ……?」

 イルの村を出て既に5時間は過ぎているだろうか?
 太陽も地平線の彼方へ沈みかけ、空が綺麗なオレンジ色に染まっていた。

 おかしい、自分の中では小さな村でも街でもあると踏んでひたすら真っ直ぐ歩いているのに。

 本当にこのまま永遠に続く草原を歩いていくような気がしてならない。

 こんなにも歩いているのに人ひとりすら会うことがない。
 動物なんて空を飛ぶ小さな鳥と地を這う虫しかいない。


 もうすぐ夕暮れになる。

 周りに森は無いためモンスターは現れないと思うがもしかしたら地面からはい出てくるモンスターやゾンビみたいなモンスターが居ても不自然ではない。

 だんだん気温が低くなってくる。
 砂漠みたいに昼は灼熱の如く暑く、夜は凍てつくような寒さとかやめてほしいのだが。


「もし城から脱走しなかったらなぁ……って、なんでこんな事考えてるんだ?」

 今更泣き言言ったって無駄だ。
 今から城に戻り「再びご教授お願いします」なんてそんな恥ずかしいことは出来ない。

 そんな頭を下げてまた笑われるのなら死んだほうがマシだ。


 悠真は何も無い草原の真ん中で座り込む。
 リーンリーンと虫の鳴く音が聞こえる。
 だがそんな音を楽しむほどの余裕なんてない。


「今日のディナーは不味い果物と虫か……はは、何がディナーだよ…………つまんね」

 あまりの空腹にいつもの穏やかな口調が無くなり少しばかり荒くなってしまう。

 自分でも分かるくらい下らないことを言って鼻で笑う。
 適当に近場に居るバッタを見つけて手で鷲掴みする。

 触覚をもぎ、手足を折ってそこら辺へポイッと捨てる。
 頭も変な液体が詰まっているので一回転させて抉りとる。

 正直内蔵とかに寄生虫とか済んでそうだが……まぁ、消化してくれるだろう。


「んぐ……っ、う゛ぅ……」

 一度食べたから二度目は大丈夫だろうと思ったがやっぱりダメだ。

 こんな食べ物? を食べ続けたらいつか悪食になりそうだ。

 でも人間腹が減ったら虫とか草とか食べれるんだな。
 正直毒がなければ木の皮とかでもスナック菓子のように食べれるかもしれない。


 食べる気はしないけど。

 水分は……朝になったらでいいだろう。
 朝露とか出来ると思うしそれを飲めばいいだろう。

 潤せるほどの朝露なんて集めることは出来ないが草の汁を絞って飲むよりも全然マシである。



────────────



 さすがに夜は冷え込む。
 身にしみるほどではないが軽い掛け布団は欲しいくらいだ。

 空は星がたくさん見え、綺麗な月が悠真を照らす。


「そうだ、魔法の訓練とかしてなかったな……それに暗視眼も試してみよう」

 とりあえず暗視眼で魔力を使う可能性があるため火球などの攻撃魔法は後回しだ。


「『暗視眼あんしがん』っと」

 すると昼間のように漆黒の夜空が明るくなり見渡しが良くなる。

 空の黒色は薄紫色のような色になり、昼間よりも遠くまで良く見える。

 30分ほど景色を楽しんでいると魔力が[9/10]に減少した。

 暗視眼を30分ほど使うと魔力が1減るようだ。
 つまり使い続けると10分で1消費になるのかもしれない。



 悠真の予想は大当たりだった。

 最初の1時間ほどは変わらず30分に1減って合計3減ったのだがその次は25分で1の魔力が減ってしまった。

 やはり体への負担か疲労度などが関係しているのか同じ魔法、すなわち魔力を使う能力を使用することによって消費魔力が上昇するのだろう。 

 こういう時ってどこか遠くに悠真を狙うモンスターが居て奇襲に気づけましたとかいう展開に恐れていのだが本当に驚くほど何もいない。

 まるで自分以外の人間が消えてしまったようなそんな孤独感と虚無感が悠真を襲い続ける。

 これ以上1人で過ごしていたら病んでしまい死んでしまうだろう。

 そんなことになりたくない。
 とりあえず悠真は一応モンスターの奇襲に警戒し、疲れた体を休めることにした。







 悠真が目覚めると月が沈みかけ、太陽が見え始める頃だった。

 いくら柔らかい草のカーペットで寝てもやはり身体中が痛くなる。

 全身の疲れは無いのだがまだ歩きすぎたせいで足が痛いし腰痛もする。

 幸いなのは草の上に朝露が溜まっていたことだ。
 喉を潤す程ではないがスッキリとした味わいがする。

 水を飲める喜びをここまで感じるとは思わなかった。


「よし、進むか」

 自分に喝を入れ、悠真は重い足を力強く持ち上げ、再び真っ直ぐ何も無い道のりを進み始めた。






「…………ん? あれは……街か!?」

 猫背になり地面を見ながら歩みを進めていなので気づかなかったのだが、3km先に大きな建物が沢山ある街のようなものがあることに気づいた。

 人がいる様子は遠くなので分からなかったのだが、モンスターから身を守るためか高さ10mほどの白い壁が建てられており、鉄格子のような門が見える。

 遂に人のいる場所に着くと思った瞬間体の底から失われてたような何かが溢れ出てきて自然と足取りが軽くなる。


 すると遠目でも分かるくらい大きな門が開き、そこから馬車が1両飛び出してくる。

 その馬車は凄い速さでこちらへ向かってくるので、馬車の操縦者を止めてどこへ行くのかと聞いた。


「どこへ行くってそりゃイルの村だわな。あの村とこの街は結ばれてるから支援をこちらがするわけさ。そういえばお前さんはイルの村から来たんか?ここまでかなりの距離はあるぞ?」

 なるほど、距離が遠く貧しい村な故に誰も報告する者がいないのだ。

 悠真はその操縦者に「イルの村はオークの手により潰された」と簡潔に言うと血相を変えて馬車から降り、肩を掴んで揺らしてくる。


「お、おい。それは本当なのか? 冗談だとしても笑えないぞ」

 男の形相に怯みつつ、嘘偽りは無い、そして自分はイルの村出身ではなく少しの間面倒を見てもらったことを伝えると落胆したのか膝を地へつけてしまった。


「あそこには俺の兄さんが住んでたんだ……綺麗なお嫁さんをもって子供まで授かったのによ……!」

 つまりこの男は自分の兄の家への配給をするためでこの仕事を自認したのかもしれない。

 そうでなければこんな長い道のりをわざわざ通うことはないだろう。


「面倒を見てもらったってことはお前さんはイルの村に滞在してたってことだよな?」

「そういうことです。僕はイルの村付近の森でさ迷っていたんです。でも村のとある女の子が助けてくれて……そのすぐあとに大食いオークって呼ばれるモンスターが村を潰して……」

「それでよく逃げてこられたね……」

「その女の子以外は全滅して、僕はその子だけでもって思ったんです。でも……力量不足のせいで女の子はオークとともに崖下へと……」

 話せば話す度ユナとことを思い出してしまう。
 腸が煮えくり返り苛立ってくるのと裏腹に、ユナの顔を思い出してし心が締め付けられるように痛くなる。


「それでお前さんはここまで来たのか……見たところ手ぶらだがここまで徒歩で1日はかかる。何も食べずに来たのか?」

 その問に対し首を横に振った。

 草や自生する果物、そして虫を食べてなんとかここまで辿り着いたことを話すと男は馬車の荷台から水の入った瓶を取り出して渡してくれた。


「これでも飲め。もう必要の無い物資でもあるからな……」

 男は馬車に戻り馬を歩かせる。
 どうやらイルの村の惨状を自分の目で見たいらしい。

 仮だが墓を作ったことを伝えると「ありがとうな」と快く感謝をしてくれた。

 悠真は水の入った瓶のコルクを摘み取り外して水を飲む。


「……っ、う、美味い」

 ごく普通のただの水なのだが身体中に染み渡る美味しさだった。

 今まで水なんていくらでもあるからといって粗末にした時もあったのだが今この瞬間水や水を差し出してくれた男に対しての感謝の気持ちが溢れてくる。

 多かった水も半分まで無くなったので再びコルクで蓋をして目の前の街に向かって歩み始めた。






 軽くなった足取りで向かったおかげなのか1時間弱で街の前に到着することが出来た。

 遠くからは分からなかったのだが壁の周りには幅10mほどの池が掘り下げられていた。

 これもモンスター対策か何かなのだろう。


 悠真は街に入るため大きな白い橋を渡る。

 橋から見える池はとても綺麗だった。
 池のそこにはところどころ穴が空いているのを発見したがよく分からない。

 予想だが街の中には水が流れており、街から池、池から街へと巡回しているのだろう。

 その橋の隅に茶色いフードを被った白い髭のおじいさんが池にいる鯉らしき魚に黒色の餌をポイポイ投げていた。

 鯉はその餌を口に含むとぺっと吐き出してどこかへ行ってしまう。

 その様子を見て通りすがりの観光客が静かに笑っていた。


「あの爺さん昨日からずっと餌をやっては鯉に逃げられてるんだぜ」

「そりゃ、あんな黒色の餌なんかナマズも食べねぇよ」

 そんな会話をしていたのは門番らしき2人組だ。

 昨日から鯉に餌を与えていたのか。
 でもそれだったらその餌は食べてもらえないんだし変えるはずなんだけどな。


 そのまま門を潜り街内に入る。
 どうやら通行料だとかは不必要らしく、あからさま怪しいもの以外は普通に通すらしい。

 本当にそんなガバガバな判断で大丈夫なのだろうか。

 街中はとても活気がよく、外にある池同様に綺麗な水があちらこちらで流れていた。

 街の子供たちはその水を手ですくい美味しそうに飲んでいた。

 悠真にはさすがに外の鯉が住んでる池と繋がってる水を飲む気にはなれず、その子供たちを横目見てひたすら大通りを真っ直ぐ進んだ。

 途中で武器屋を見つけた。
 その武器屋の店主はドワーフのような見た目で一生懸命武器を打っていた。

 出来上がった武器を白い液体に浸けて運んでいたのだが体制を崩し派手に転んでいた。

 液体ごと武器が水の中に沈んでしまい、慌てて水の中に飛び込んで武器を探していた。

 その様子を見て客なのかは知らないが大爆笑していた。

 ていうかあの液体、体に害とかないよな?
 あんな液体が流れた街の水なんて飲みたくはないぞ。


「それにしても賑やかで大きい街だな……」

 お金が無いため何も買えないのがとても悔やまれる。

 街の中には色んな露店が並んでおり、焼き鳥屋や果物屋、飲み物屋などさまざまだった。

 1番安いのがリンゴジュースで値段は100クレだ。


 [クレ]とはこの世界の通貨で、日本と同じく1万円は1万クレという感じで覚えやすかった。

 100クレなんて子供でも手に入る値段だが今の悠真は無一文だ。

 ため息を吐きつつ、悠真はどうしようかなとただ街中をフラフラと歩き回っていた。




















如月 悠真

NS→暗視眼 腕力Ⅰ 家事Ⅰ

PS→NOSKILL

US→逆上Ⅰ

SS→殺奪
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