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元Sランクの俺、酒の席に呼ばれる

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 ティエリナ家の居間でリアーナが作った豪勢な食事を済ませたリルネスタ達は、ティエリナに案内されて風呂場へと向かっていった。

 どうやらティエリナ家には近くの活火山の地下で眠っている源泉から引っ張ってきた湯が張られているらしく、室内風呂だけでなく星が見える露天風呂もあるらしい。

 温泉、そして露天風呂と聞いてリルネスタやカラリアはテンションが上がっており、ライネリアやローザも温泉が楽しみなのか、珍しく率先して動いていた。

 一方、居間に残ったレンの手元にはリアーナに注がれた酒があり、グザンは既に酒瓶を一本飲み干してしまっていた。

「さぁ、飲んでくれ」

「いや、その……自分はまだ……」

「これはいい酒なんだ。それに、わたしは共に酒を飲む者がほしかったのだ。リアーナは酒が飲めないからな」

「…………いただきます」

 グザンの剣幕に圧倒され、レンは注がれた酒を一気に飲み干す。

 その瞬間、喉から腹の奥にかけて焼けるような熱さが広がるが、次第にそれは心地よいものになり、レンはぷはぁっと酒気の混じった息を吐いていた。

「ほほぅ、中々いい飲みっぷりじゃないか」

「なんだか、体が熱いです」

「これはグランニールで作られている火酒だからな。ほれ、もっと飲みがいい」

 グザンが声をかけると、リアーナは再びレンの持つ湯呑みに酒を注いでいく。

 先程よりも明らかに量が多い気もするが、レンは早くこの場から逃げ出したい一心でもう一度酒を一気に飲み干した。

「あらあら、お強いのですね」

「ふむ、面白い。リアーナ、席を外せ。ここからは男同士の話になる」

「はい、かしこまりました」

 グザンに従い、リアーナは一礼をしてから立ち上がり、襖を開けて去ってしまう。

 そしてその場で取り残されたレンはグザン直々に酌をしてもらい、飲まざるを得ない状況になってしまっていた。

 なので今度はレンがグザンの湯呑みに酒を注ぐと、グザンは面白いものを見たような目でニヤリと笑い、レンも唖然としてしまうほどの勢いで飲み干してしまった。

「ときに、レンよ」

「は、はい」

「わたしの娘、ティエリナだが……」

「……はい」

 いったいなにを聞かれるのだろうと、レンは息を飲んで静かにグザンが口を開くのを待つ。

 だがグザンは中々口を開こうとしない。
 よく見るとグザンの顔はほんのりと赤みを帯びており、酔っているのかと思われたが、それにしては挙動がどことなくおかしかった。

「女性として、磨きがかかってると思わんかね……?」

「…………はい?」

 前に話した時のようにまた関係性を聞かれると思いきっていたレンは肩透かしを食らったときのように体勢を崩してしまう。

 どうやらグザンの顔が赤み帯びていたのは酔っていたからではなく、照れてしまっているかららしく、照れ隠しなのか今度は直接酒瓶に口をつけ、半分以上残っていたはずの酒を水のように流し込んでいた。

「この家で生まれ、この国で育ち、最初は男勝り気味であったのだ。しかし、今ではあんなに女の子らしくなっているではないか!」

「は、はぁ……」

「生まれたとき、目元がわたしと似ていてどう成長するのかと思っていたが、今では昔のリアーナのようになっている。娘の成長というものは、早いものなのだな……」

 興奮した様子で語り始めたと思えば、今度はしみじみと話し出して涙を浮かべて腕で拭っていた。

 レンは心の中で面倒に巻き込まれてしまうと思いつつも、自分から席を外してしまうのは失礼に値するので、話を聞きつつも相槌を打ち続けていた。

 だがそんなレンに見かねてグザンはレンの湯呑みに酒をこれでもかと注いでしまう。

 なのでレンは断ろうとしたのだがグザンは聞く耳を持たず、仕方ないのでレンはその注がれた酒に口をつける。

 するとその酒は先程よりも度数が高いのかレンはむせ込んでしまい、たった一口で目の前に霧がかかったように視界がボヤけてしまっていた。

「そう言えば、ティエリナはキミの専属受付嬢と聞いた。ありえないと思うが、ティエリナに色目を使ってないだろうな?」

「使ってませんよ。それに、ティエリナとはあくまで仕事上の関係なので、安心してください」

「そうか、なら安心だな。最初ティエリナがキミを連れてきたとき、つい斬りかかってしまいそうになってしまった。だが、想い人ではなく仕事上の関係ならば、仕方がないな」

 さり気なく恐ろしいことを言い出すグザンにレンはゾッとしつつも、頭が回らなくなっていることに気付く。

 まるで空に浮かんでいるような感覚なのだが、今のレンにそんな感覚を楽しんでいる余裕はなく、注がれた酒をどう処理するべきか頭を悩ませていた。

「……キミのような友人が出来てくれて、わたしは嬉しい。ティエリナは昔、大事な友人を2人無くしてしまってね。今みたいに笑顔なのは、キミや、キミの仲間のおかげだろう」

「…………ネルさんのことですか」

「知っていたか。あの時は大変だった。冒険者は辞めてしまったが、今では立派に世に出て仕事をしている。わたしはそれが嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて…………」

 湯呑みを持ったままグザンがバタンと倒れ込んでしまうと、突然襖が開き、まるで知っていたかのようにリアーナが微笑みながら足を踏み入れてくる。

 そして倒れ込んだグザンと、机の上に置かれた空き瓶の数を数えてニッコリとレンに笑顔を向けていた。

「この人、実はお酒に弱いんです。話し相手になって下さり、ありがとうございます」

「……いえいえ、自分も、話が出来てよかったです…………」

 緊張の糸が切れたせいかレンの体にも酒が回り切ったのか、フラフラとしながらその場に膝をついて倒れ込んでしまう。

 そんなレンを見ながらリアーナは『あらあら』と頬に手を添えながら微笑み、グザンを隣の部屋に敷かれた布団に寝かせた後にレンの体を支え、レンを客室へと連れていくのであった。



────────



「──うーん……頭が痛てぇ…………」

 未だぼんやりとした意識の中、レンは目を覚ます。

 どうやらいつの間にか自分の部屋に運ばれていたらしく、服も普段着からゆったりとした黒と青色の浴衣に着せ替えられていた。

 そして体を起こすと心地よい風が体を包み、障子の戸が開いているため暗い部屋に月明かりが差し込んでいたため、部屋の中が暗すぎて身動きが取れないということはなく、レンは重くなった体を起こして廊下へと向かう。

 すると廊下を出て真っ直ぐ進んだ先にはティエリナとカラリアが縁側に座っており、その視線の先にはローザが庭の真ん中で月明かりを浴びながらティエリナ達と問答を繰り返していた。

「……こんな夜中になにやってるんだ?」

「あ、レンさん! お母さんから聞きましたよ、お父さんとお酒を飲んだ挙句、酔い潰れたって」

「いやまぁ、その通りなのだが……断るに断れなくてな」

「はぁ……前もレンさんはジダースさんと飲み比べをして倒れちゃったんですから、もう少し量を控えるなど、自分でも気を付けてください」

 開口一番説教を聞かされるレンであったが、説教を垂れるティエリナは怒りながらも心配しているということがレンには伝わってきたので、言い訳などせず素直に相槌を打つ。

 だがそんな長く続くと思われた説教も、傍から見ていたカラリアが『なんだか、熟年夫婦みたいだねぇ』とニヤニヤしながらティエリナに耳打ちしたことにより、ティエリナの意識がレンからカラリアに向けられ、説教が切り上げられる。

 そしていつも通り注意をされるカラリアを苦笑いを浮かべながら見守るレンであったが、カラリアがティエリナにはバレないようにウィンクをしたので、レンは軽くこうべを垂れてカラリアに感謝を伝えていた。

「ところで、2人はローザとなにを話してたんだ?」

「それは──」

『なぁに。少しばかりの昔話じゃよ』

 ティエリナが答える前にローザが答えてしまうので、ティエリナはどこか困り顔になり、レンに視線を向けたと思いきや2回ほど細かく頷いていた。

 そこにレンが『昔話?』と問うと、ローザはティエリナの横で足を組みながら座り、空に浮かぶ星々を眺めだした。

『この者達を救ったのは妾じゃ。そこで、妾は再度感謝の言葉を打ち明けられたのじゃ。じゃが、妾とて縄張りに侵入する可能性があったディオマインを撃退しただけ故、感謝される筋合いはないと伝えていたところじゃよ』

「なるほどな。ま、例えローザの行動がただ自分の縄張りを守るための行動だったとしても、結果的にはティエリナやカラリアを救ったんだ。それに感謝はどれだけ受け取っても、ローザ側に不利益はないだろ?」

『あはは! やはり、お主は食えぬ男よ』

「食われるつもりなんてないからな。俺を食べても腹の足しにならないだろ?」

 ローザが皮肉を込めながらレンに語りかけるが、それに対しレンはローザの言葉を茶化しながら鼻を鳴らす。

 そんなレンを気に入ったのかローザはもう一度笑い声を上げ、髪をすくい上げながら再び月明かりを浴びるべく庭の真ん中へと向かって行ってしまった。

 風に靡く角度によっては紫に見えなくもない黒い髪が竜の尾のようにうねり、全身に月明かりが当たるように動くローザはどこか舞を舞っているように見えた。

 そんな婉美なローザに見蕩れているのか、カラリアは頬杖をつきながらため息を吐き、静かにローザを見つめていた。

「……まさか、あのとき助けてくれた竜と話せるなんてね。やっぱり、この世界って不思議だね」

「そうね。こんな不思議な世界だからこそローザさんと出会うことができた。でも、それって私達がレンさんと出会わなかったら一生起こることのなかったことだと思います」

「これが偶然なのか運命なのかは分からないけど、少なくともボク達はローザさんと同じくらい、レンさんに感謝してるつもりだよ」

「…………そうか」

 面と向かって褒められることに慣れていないので、レンは自分の耳が熱くなっていくのを感じつつも、目を逸らしてしまう。

 そんなレンが面白いのかティエリナとカラリアは肩を寄せあって笑みを浮かべ、カラリアが『もしかして、照れてるの?』とレンを煽ることで、レンも否定するために咄嗟に反応する。

 だがその焦りようが面白おかしいらしく、今度はティエリナとカラリアがレンから顔を逸らしてクスクスと笑い声を上げる。

 レンはそんな2人を眺めて『勘弁してくれよ……』とまいったように呟くレンであったが、その表情は物寂しい月明かりのように明るく、髪を撫でるそよ風のように暖かいものであった。
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