上 下
37 / 99

元Sランクの俺、クエストメンバーを誘う

しおりを挟む






 ユークとシスティと再会し、今現在レン達は賑やかなギルドの中でも比較的静かなギルド職員の休憩室付近にある机を四人で囲っていた。

 だがまず最初に腹ごしらえを済ませたいらしく、ユークとシスティは通りかかったギルド職員を捕まえて料理の注文をする。

 その流れに乗ってレンとリルネスタも別々の料理を注文し、結果、本題に入る前にちょっとした食事会のようなものが始まってしまう。

 そしていつ話題を切り出そうかとレンが頭を悩ませていると、まるでそんなレンの意思を汲み取ったかのようにユークはスプーンを持つ手を止め、口を拭いてからレンに向き直った。

「で、用事と言ったがいったいどんな用事にゃん?」

「…………それ、本当に続けてるのか」

「帰っていいかにゃん?」

 真面目な顔して語尾に『にゃん』を付けるユークにツッコミを入れると、呆れたようなため息を吐いてユークは荷物を持って椅子から立とうとする。

 だがレンが慌てて止めようとすると、ユークはしてやったりと笑って『冗談だにゃん』と若干楽しそうに呟いていた。

「……とりあえず、本題に入ろうと思う。これはユークだけじゃなくてシスティさんも関係あるからしっかり聞いてほしい」

「そうなんですか? あっ、私のことはシスティとお呼びください」

「分かった、じゃあ遠慮なく呼ばせていただく。それで、今回ユークとシスティを呼んだのはとあるクエストを手伝ってほしいからだ」

 クエストという単語を聞き、その場の空気が和やかなものから張り詰めたものに変わる。

 冒険者にとって、クエストに関しての話は真面目に聞かないと痛い目を見るのは常識であり、たった一つなにかを聞き逃したことで命を落とすことがあるからこそ、このようにお互い真剣になるのだ。

「こういうのはあまり言いたくないのだが……僕より強いレンがこの僕とシスティに頼むことなんてあるのか?」

「そう言うと思ってちゃんとクエスト用紙は持ってきた。ちなみに、これは指名依頼だ」

「……なるほど、つまりただのEランククエストじゃないということか」

 下顎に指を置き、正しい考察するユークであったが、途中で自分に課せられた罰を思い出し、どこか悔しそうにしてレンに銀貨を二枚差し出す。

 そんな律儀な行動に苦笑いを浮かべつつも、レンは銀貨とクエスト用紙を交換するようにユークに差し出し、置かれた銀貨二枚をポケットに突っ込んでいた。

「ヴァーナライト鉱石の納品だけど、実質オールイーターを討伐、もしくは捕獲する必要があるのか。いや、問題は人数を最大の四人にしろってところかにゃん」

「さすがだ。そう、確かにオールイーターは脅威だが、問題はこのクエストは四人で向かわなきゃいけないというところだ。つまり、言いたいことは分かるだろ?」

「あぁ、つまり僕達の協力を仰ぎたいんだにゃん?」

「ご名答、そのとおりだ」

 やはりBランク冒険者なだけあって、話が早い。

 クエスト用紙をパッと見て討伐すべきモンスターをすぐに理解できる知識。そしてなぜ自分達に頼ってきたのか、話の根本をすぐさま見つけ出す判断力。

 どれをとってもユークには既にAランクに匹敵するほどの実力や経験が兼ね備えられていた。

「システィ、これを見てどう思う?」

「私? そうね……確かに難しそうだけど、報酬が金貨5枚って魅力的よね。でも割に合わないくらい高いからちょっと警戒しちゃうかも」

「だ、そうだ。レンが良ければ依頼主を教えてくれないかにゃん?」

 そう言い、ユークは銀貨を一枚レンに差し出して話を続ける。

 きっとシスティと会話するときは語尾に『にゃん』を付けたくないのだろう。裏ではちゃんと言ってるか確認しようがないので判断出来ないが、レンはツッコミを入れることなく素直に受け取る。

 そしてレンがカラリアの名前を出し、信用できる人物であると簡易的に説明し終えると、ユークとシスティは顔を見合わせて首を縦に振っていた。

「僕達はこのクエストに喜んで協力させてもらうにゃん」

「ほ、本当か!? 助かった、ありがとう」

「ユークさん、システィさん、ありがとうございますっ!」

 レンが頭を下げてお礼を言い、それを見て少し遅れてリルネスタも頭を下げてお礼を言う。

「ははっ、頭を上げてほしいな。むしろ感謝したいのはこっちの方だにゃん」

「そうですね。金貨5枚……と言っても、分けるので実際はそれより少なくなりますが、5枚で銀貨500枚分の報酬があるので、これは受けるべきですね」

「そうか、なら良かった。ちなみに報酬は俺達が3枚、そっちが2枚にするつもりなのだが……異論はあるか?」

 そう伝えると、システィが真っ先に手を挙げる。
 そしてレンに告げられた異論は、驚くことに『それだと多すぎる』という不満であった。

 今回のように、別々のパーティが組んでクエストに向かうことは珍しくない。

 その場合、大体クエストを見つけた者がいるパーティが報酬のうち三分の二を受け取り、もう片方が残りを貰うというのが普通である。

 だが、システィはそれに対し不満を抱いた。
 しかしいったいなにが不満なのか、レンには理解出来なかった。

「今回のクエストは前もってチームを組んだわけではありませんし、しかも指名依頼です。なので報酬はそちらが金貨4、私達が金貨1枚の方が妥当だと思います」

「そうだな、システィの言うとおりだ」

 レンに銀貨を差し出しつつ、ユークはシスティの意見を肯定する。

 だがそれをすぐに否定するのはレンではなく、なんとリルネスタであった。

「これはユークさんとシスティさんがいないとダメなんです! ということは、協力してくれなかったら金貨5枚を受け取ることはできないんです! えーと、だから……っ」

「このクエストを受けるには、ユークとシスティの協力が必要になる。だから協力がないとクエストを受けられないから、そもそも達成出来ずに報酬を貰えない。だろ?」

「そう! レン、ありがと! だから報酬はちゃんと半分に分けた方が良いと思います!」

 まとまっていないリルネスタの意見をレンが代弁し、その後リルネスタが自分の考えた結論を出す。

「だとしても、クエストを持ってきてくれたからこその報酬なのでそんなに貰えません!」

 リルネスタの意見に対し、システィは真正面から反論する。

「そんなの関係ありません! お互い危険なクエストに向かうんですから、報酬は平等であるべきですっ!」

 だが珍しくリルネスタは自分の意見を曲げることなく主張し、負けじと反論してくるシスティに対抗する。

 こう見えて、意外とリルネスタは頑固なのだ。なのでレンが諦めた様子で眺めていると、どうやら頑固なのはシスティも同じらしく、ユークもレンと同じ表情をしていた。

「よし、分かった。報酬の件はいったん終わりにしよう。クエストが終わってからゆっくり話し合うとしよう。なっ?」

「レンの言うとおりだな。二人共、とりあえず落ち着こうか」

 レンが間に入って流れをぶった切り、ユークが二人を宥めることで報酬の話は保留になる。

 そしてレンは自分の目の前にいつの間にか置かれていた銀貨を見て、少しばかり引き気味な顔を浮かべる。

 一応確認をするためユークの方を向くが、ユークは無言で頷いてグッドサインを見せてくるだけでなにも言葉を発することはなかった。

「……えーと、そうだな。ユークとシスティは空いてる時間とかあるか? その時間に合わせて俺達も時間を調節してこのクエストに赴きたいのだが」

「そうだな。ヴァーナライト鉱石は重いから、とりあえず馬車が必要になる。そしてその馬車を停泊するために近くの村を通る必要がある。それに僕達も色々準備があるから……とりあえず、6日後またここで話さないか? 実はこれからクエストに行くんだ」

 そう言い、ユークはレンにクエスト用紙を見せる。

 そこには場所の指定はなく、ただCランク指定の《ディアマントベアー》から取れる毛皮を二匹分納品するという内容が書かれていた。

「ディアマントベアーは遠い地に生息してね、今日の夜向かうつもりなんだが、帰ってくるのは5日後なんだ。さすがに連日は厳しいから、1日は休ませてほしい」

「なるほどな。じゃあ馬車の手配は俺が済ませておく。その間、別にクエストを受注してもいいんだよな?」

「あぁ、それは構わない。とりあえず6日後ここに集合してくれれば文句はない。システィはどうだ?」

「私は構わないですが……それ、なにしてるんですか?」

「ん? あぁ、真面目な話してるのに語尾に『にゃん』を付けるのは失礼だから、言わなかった分銀貨を渡してるんだ」

「それは分かるのですが……いえ、なんでもないです」

 きっとシスティが気になったのは銀貨の渡し方だろう。

 最初は素直に銀貨を差し出していたのに、段々と慣れてきたのか気付かれないように差し出すようになった。

 そして今は三枚の銀貨を指で弾き、レンのポーチの上に落とすという謎の技を披露していた。

「その、気になるんだが……俺が言うのもあれだが、そんなに銀貨を渡して大丈夫なのか? 正直持てなくなってきてるんだが」

「大丈夫、ギルドには金貨をたくさん預けてあるし、銀貨も腐るほどある。だから気にしなくていいんだ」

 と言いつつも、ユークは銀貨を指で弾き、ポーチの上に乗った銀貨の上に銀貨を落とすという神業を見せる。

 それにはレンだけでなく、リルネスタもシスティもどこか微妙な表情をしながら得意気にしているユークを見つめていた。

「まぁ、そういうことだ。じゃあ僕達は準備があるから行くにゃん」

「あ、あぁ。分かった。わざわざありがとな」

「いえいえ、困った時はお互い様ですよ。レンさん、リルネスタさん。また今度」

「うんっ! またね! ユークさん、システィさん!」

 軽く手を振り、レンとリルネスタはユーク達と別れる。

 そしてリルネスタと共にギルドカウンターに向かい、ティエリナに食事代を払い終えた後、二人は適当なクエストを選んでクエストに向かうことにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。 ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。 身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。 そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。 フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。 一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

スキルが全ての世界で無能力者と蔑まれた俺が、《殺奪》のスキルを駆使して世界最強になるまで 〜堕天使の美少女と共に十の塔を巡る冒険譚〜

石八
ファンタジー
スキルが全ての世界で、主人公──レイは、スキルを持たない無能力者であった。 そのせいでレイは周りから蔑まされ、挙句の果てにはパーティーメンバーに見限られ、パーティーを追放させられる。 そんなレイの元にある依頼が届き、その依頼を達成するべくレイは世界に十本ある塔の一本である始まりの塔に挑む。 そこで待っていた魔物に危うく殺されかけるレイだが、なんとかその魔物の討伐に成功する。 そして、そこでレイの中に眠っていた《殺奪》という『スキルを持つ者を殺すとそのスキルを自分のものにできる』という最強のスキルが開花し、レイは始まりの塔で数多のスキルを手にしていく。 この物語は、そんな《殺奪》のスキルによって最強へと駆け上がるレイと、始まりの塔の最上階で出会った謎の堕天使の美少女が力を合わせて十本の塔を巡る冒険譚である。

スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!

KeyBow
ファンタジー
 日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】  変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。  【アホが見ーる馬のけーつ♪  スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】  はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。  出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!  行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。  悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!  一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...