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第六章 異世界は異世界でも、平穏な異世界がいいです
12.未来からの旅立ち、そして最後の
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その後は、まるで誰かによって巻かれたねじが勝手に回っていくみたいに、するするとものごとが進んでいった。
月花が言ったとおり、毒ガスの処置方法を告げる老年の男性と、今後の播とカムグエンの付き合い方を話す壮年の使者が来た。
老年の男性は、医療に従事する人独特の目をしていた。象のようにやさしい草食動物の瞳を持ち、月花が与えたに違いない解毒方法を丁寧に伝え、幸いにもガスでの死者はカムグエン側に出ずにすんだ。
壮年の使者はばりばり軍事の畑の人だと一目でわかる顔つきだったが、ことのほか辛抱強く話し合いの席に着いた。
そもそもこれは播による一方的な侵略で、カムグエンは何一つ望んではいない。
だからカムグエンの長(湖の塔で叫んでいた人だ)は、今後一切の関わりを排除することで区切りとしたがった。
播は石炭の入手経路を求めて食い下がったが、やがて諦めた。
私はことの顛末をケトさんから聞いて、なんとも言えない心地になった。
日本で育った私は、これを機にカムグエンは石炭を輸出して、播から医療や仕事を得たりすることもいいことなのではと勝手に思ったりしたのだ。
しかしそれはカムグエンの人たちは望まない。彼らは彼らで独立し、うまくやってきているのだ。
今後、播がなにかにつけてちょっかいを出してくることが一番怖いが、きっと月花がうまくやるのだろう。
驚くべきことはその月花が、突然失踪したことだ。播の死者が白狐ではなかったことに驚いたカムグエンの人たちが尋ねれば、播の調停者は言い渋ったが、攻め込んだ負い目もあってか簡潔に伝えた。月花は今後の播の身の振舞い方を書き連ね、双方にとっていくつか有益な情報をと助言を与えたのちに忽然と姿を消したのだという。播からすれば、ほとんど指揮権を持っていたとはいえ月花も傭兵だったので、別に手を尽くして探さなくてもいいのだろうが。
カムグエンの人たちは複雑な気持ちでそれを受け止めた。
使者としての月花。開戦まで宣言した月花。けれど最後は、別人のような言葉を残して煙のように消えたのだ。
私自身、月花の失踪には衝撃を受けたけれど、戦闘で傷ついた人たちの手当てだとか、炊き出し、痛んだ舟の修理などで日々は忙しなく過ぎていってしまった。
私はヒルダのせいですっかり伝承の少女だと認識されてしまい、どこに行ってもにこにこと微笑みかけられてしまう。
包帯を巻くのも下手だし、こっちの料理もつくれない。ましてや竹の植物を扱ってものを直すなんてこともできないから、私はひたすら洗濯係としてがんばった。
ちなみにここの洗濯は、竹でぎざぎざになるように板を作って、そこでごしごしこするタイプ。昔でいう洗濯板だ。洗剤はなんと森の木を燃やした灰から作るのだが、汚れがよく落ちる灰になる植物とそうでないものがあるようで、とても興味深い。
洗濯板の使い方ひとつ取っても慣れなくて、ヒルダにはさんざんからかわれたが、ごはんを食べさせてもらっているのだ。何かはしなければならない。
そんなふうに、一息ついた真夜中だった。
私は慣れない洗濯でくたくたで、ぐっすり寝込んでいた。
御使いと呼ばれて、額に乗った前髪をそっとずらされたのがわかった。
マライカじゃないと反射的に答えようとして、その声の主に思い至って眠気が吹き飛んだ。頭をもたげて暗闇に目を凝らし、すぐそばで膝をついている彼に少しだけ笑った。
「会いに行くって言ったのに」
「あなたの言葉なんて、信用してませんから」
なるほど。私はもっともだとうなずいてしまう。いったい私にどんな信用があるというのだろう。
だから僕が会いに来たんです。そう言って月花は微笑んだ。
※
そして私たちは再び、月花が乗ってきた小舟の上にいる。
「あなたには難しいのでは? やはり僕が」
「いやもうちょっとだから。あとちょっとでこつがわかる気がするわけで」
以前と違うのは、櫂を握るのが私だってところだ。これは私が手を挙げて、ぜひにとやりたがったせい。
カムグエンの舟は長い竹で湖の底を押して進むから、慣れるまですごく大変だけど、播の舟は公園のボートと同じ仕組みだ。
両手に短い櫂を持って後ろ向きに進むやつ。なんだか楽しそうだったので、せがんでやらせてもらっていたのだ。
「水面にくぐらせるように差し込んで。そう、それから垂直になるように立てて、腰から上の身体全体で引くんです」
「こう? あっ、いいかんじ」
月花は昔と変わらずアドバイスがとても上手で、私はたちまち速度を上げた。
星明かりを反射した水面を割るようにして舟は進んでいく。頬を撫でる湿った風にも、もう慣れっこだ。
気持ちよくて思わず目を伏せてから、あらためて正面を見れば、みどりの瞳とかち合った。
ずっとつけていた仮面をはずした彼は、まだどこか緊張を残しているが、それでもしゃんと背筋を伸ばしている。以前と変わらないふわふわの黒い髪に、奇跡のように完璧な輪郭。鼻筋から唇の厚さに至るまで、丹念に作り上げられた彫像のよう。前とは違うのは、中性的な美が完全な男性のものに変化したころだろう。背もすっかり伸び、やや頼りなげだった薄さは厚みのある身体として堂々たるもので、どこからどう見てもたくましい青年でしかない。先に大人の月花に会っていたら、幼い彼と出会っても気づけなかったかもとさえ思う。その中でも特に目を引くのは、やはりみどりのガラスの瞳だ。戸惑うように目を伏せられれば、きれいな瞼がそっと下りてもくる。
だが今その瞳に浮かんでいるのは、苦悩と開放感が半々だろうか。私が言葉を探っていると、聡明な月花は私が知りたがったことを先に口にした。
カムグエンと播のことだ。石炭はすでに枯渇しかけていると播に報告書を作ったので、当面は播がカムグエンに執着する理由をなくしたという。所詮は傭兵である自分の言葉を、播の議会が信じるかどうかはわからないが、それでも今回の遠征には反対意見も多かったので大丈夫だろうと。
それからと月花は続けた。
「ウオンリュのことですが。もしもあなたが聞きたいなら、お話します」
私は月花の顔を見て、水面を見て、星を見上げて、再び月花に視線を戻した。ゆっくり首を横に振る。月花が話したいならとだけ返せば、彼は静かに微笑むだけだった。
どういうやりとりがあったのかはわからない。でもその微笑みには悔いはなかったので、私はこれでよかったのだと安心する。
ところで、と月花が口を開く。
「あなたは僕の名前を知っている」
「うん」
「僕は知らない。これって不公平ではないですか」
私はぱちぱちと瞬きをして、そういえばそうだったと思いながら髪を手ぐしで梳かした。
「そうだね、確かにそうだ」
一緒に暮らしていたことを忘れているんだから、名前だって覚えていないはずだ。月花は私の様子を見てちょっとむっとしたように続ける。
「僕の記憶にないのもそうですが、幼いころを一方的に知られているのもなんだか理不尽です」
「う、うん、そうだよね。ええと、遅れてごめんなさい。私は縁子っていうの」
名乗れば月花はかすかに口を動かして名前を読んだ。ユカリコ、と出会ったころと同じアクセントで。
月花はどうして私が一緒に暮らしていたかを知りたがったけど、私は首を振った。私自身、どうして私がこの世界に来ることになったのかを説明できないでいるし、そこにはたまやアレクシスの事情が絡んでくる。他人が関わることを私の一存で話すことははばかられた。
いつか話せるときがきたら話すよと目を見ながら言えば、ゆっくりと頷いてくれた。
遠くで魚の跳ねる音が聞こえて、私は湖岸のほうへ目を動かす。濃い森はそれこそが異界のようにひしめきあっている。異世界って、意外と身近にあったりするのかな。真夜中の学校とか、明け方の神社とかだって、なんだか別世界に思えたりするし。
そんなことを考えていると、手元からそっと櫂を取り上げられたので視線を戻す。どうするのかなと思えば、漕ぎ出すわけでもなく舟の中に櫂を置いた。
考えていたんです。その口調はとても真摯だったから、私は月花の表情を見過ごさないようにしっかりとその顔を見つめる。
「自分を大切にするという話。好きなことを、自分でそばに置くと」
「うん」
「考えてみたけど、それは悪くないことに思えました。何もしないよりはよっぽどいいって。でも想像してみると、どこか足りないし満たされないと感じた」
足りないって何が。そっと尋ねると月花はどう言葉にしようか悩むように口を引き結んだ。
あなたがです。そう言った。
「想像したんです。あたたかいところで、勉学に励みながら山苺の砂糖漬けをつまむ。好きなものをこれでもかと集めた場面。でも足りない。そしてあなたが近くにいればいいのにと思った。そうすればほとんど完璧なまでの、満ち足りた空間になる。僕は僕の意思で、あなたをそばにおきたいと思う」
言葉をたどたどしく重ねる月花に圧倒されて、私はただ瞬いた。
月花は狭い小舟の上を器用に動いてじりじりと私に近づく。逡巡するような間のあとで、思い切ったように私を引き寄せた。
舟とは言っても、私からすれば丸太を削っただけの原始的なものだ。油断をすればそれこそオセロよりも簡単にひっくり返る。バランスを取るのに必死の私は身を硬くしたが、体育座りをしている月花の足の間に導かれるまま、彼の腕に囲われた。きっと誰かを抱きしめるなんてはじめての腕は、まるでトランプタワーにでも触るかのような手つきだ。そのまますっぽりと包まれてしまえば、もとはひとつだったみたいに居心地がいい。
逆でもいい。いや、逆のほうがいいかなと囁いた。
「あなたは僕をそばに置くべきです。いつでも、どこでも、肌身離さず」
「月花、待って、でもそれって」
首に月花の顔が埋められている。その肌の体温がじわじわと広がって私は焦った。月花はウオンリュへの絶望と決別のあとで、私を代わりにしてしまったのかと思ったのだ。今度は私の望むものを満たして、私から保護されたいのかと。
でも月花はそう考えた私を見抜いたように鋭く続ける。
「ウオンリュへの心向きとは異なるものです。彼には慈しまれたいと思って動いたけど、あなたに対しては――なんて言ったらいいのかな。ぜんぶが反対なんです。僕が、あなたを慈しみたいんだ。誰になんと言われようと関係ない。僕が醜いだとか罪子だとか謗られようと、もう僕の耳には届かない。あなたの、ユカリコの言葉だけが意味を持つ」
いつもは柔らかな月花の口調が強まった。そんな自分に気づいて、それを恥じるように目を伏せた。
背中に回された腕に力がこめられる。少年だったときは私が腕をまわせば抱きしめられたけど、今の成長した彼の背にはとても手が回らない。
全身で感情を伝えられて胸がいっぱいになった。月花はいまようやく、自分を一番優先して行動できるようになったのだ。
月花の名前を呼べば、ゆっくりと顔が上げられた。至近距離で見詰め合うと、天の祝福のように美しい顔が不安げに揺れている。
お皿を割ってしまった子どものように上目遣いで見つめてくる。普段は賢い月花の考えていることなんて何もわからないけど、このときばかりは私も彼の望むことがわかったので、手を伸ばして月花の頭を引き寄せた。
そっとその黒髪を撫で付ける。額と額をすり合わせて頭をやわらかく抱え込む。
それからもう一度その瞳を覗き込んで、いまだ拒絶に怯えるみどりの瞳を宥めて、そのまぶたに口付けた。
驚きに見開かれるのを無視して、今度は反対側のまぶたにも、そして目じりにも。かつて月花が大雨の日に私にそうしたように。これからの月花が幸せでいられるようにと、ありったけの祈りを込めた。
月花はしばらく呆然としたあとで、こらえきれないというふうに顔をくしゃりとゆがめた。そして私たちの間に、わずかな隙間もあってはならないというように私を強く抱きしめなおして、私の首筋に口付けた。あたたかな唇の感触に身体を跳ねさせると、拒絶されたと思ったのか視線で伺ってくる。私はちょっと困ったけど、拒絶と取られたくなかったので微笑んでみた。
月花はほっとしたように眉を下げ、私の手を持ち上げてその指先にもキスをした。それから私の手のひらを、極上の布地を当てるかのように自分の頬に触れさせた。あたたかな月花の頬の体温が手のひらから伝わる。それは徐々に熱を帯びてひどく熱くなり、そしてそこにありえないほどの熱が集まっていく。
私はあっと思う。身に覚えのある種類の熱だった。
まさかと思った直後にほとばしる真っ白な閃光。放たれる熱。
驚いたように唇を離した月花の目の前に、透明に赤みがかった雫の形の天珠が浮かんでいる。
巾着の中のたまが呆然と呟いた。
(なんと、見事な……)
私も見とれた。今までに目にした天珠は、本当にどれも美しかったけれど、この雫の形の輝きはひときわ強い。夜明けの太陽を氷の玉に閉じ込めたような煌めきで、どこか懐かしくもあった。私が呆気にとられているうちに、それはまたふっと消えた。たまが手に入れたのだ。直後、たまは驚きと興奮を混ぜた声を上げた。
(縁子、喜べ縁子! おそらく必要な天珠はあとひとつだ)
あと一つ? それでおしまいなのか。
それを集めれば、日本へ、拓斗のもとへ、帰れるの?
「今のはいったい」
夢心地な月花の呟きに、私ははっと我に返った。月花は戸惑ったように天珠が浮かんでいたあたりを見つめているが、そこにはもう何も残されていない。
私は今までの流れを思い出して嫌な予感がしていた。だってたまは、天珠を手に入れたとなるやすぐさま予知を使って転移させてきたのだ。
いつそうなってもいいように、月花にお別れを言わなければ。
だがそう思うと同時に、今の月花をひとり残していかなければならないことに例えようのない悲しみを感じた。歩き始めた月花と、もう少し一緒にいたかった。
「月花、あの」
名前を呼んで、でも何をどう伝えたらいいかわからなくて言葉に詰まる。月花はそんな私を見て、なに? というように微笑んだ。
この微笑みを向けられてうれしくない人がいるはずがないと、そう反射的に思ったほどの血の通った、心底からのあたたかな微笑みだった。その瞳にはとても言葉にはしきれない、ありとあらゆるものが浮かんでいて、もし与えられても私には返しきれない感情だったけど、月花がそういう気持ちを持てていることがとてもうれしかった。
ひとりでに言葉が溢れた。
「月花はもう大丈夫。私はちょっといなくなるけど、絶対にまた会えるから。自分のやりたいことを何よりも大切にして過ごしてほしい」
私がいなくても。
月花は私の言葉を不吉なものとして、不安げに瞬いた。腰に回された腕が、離さないというように食い込んでくる。私は約束するように笑顔を作る。
「うそだ。ユカリコはもう僕のところに帰ってこないつもりでいる。ひどい裏切りでは? 僕を信じさせて、そして捨てていくだなんて」
「捨て……。いや、被害妄想が過ぎるのでは」
「許しません。行かせない。その足を切り落として差し上げましょうか? それとも行き先も見えないように両目を抉ってしまおうか」
かっ、過激すぎる! 犯罪宣言である。
この賢くやさしい、でもときに苛烈で極端な人は、どうしたら納得してくれるだとうと考えて、私はふとしたことを思いつく。
「じゃあお金貸してください」
「は?」
「播のお金、持ってない?」
播はカムグエンとは違って、お金があったはずだ。私の突然のせびりに驚いた月花だったけど、疑い深そうに彼の巾着から青銅っぽい硬貨を出した。ぜんぜん丸くない、いびつな硬貨だ。誰かの横顔っぽいものが刻印してあるが、質が悪すぎて男か女かすらもわからない。まあ、お金はお金だ。
「私は借りたお金はぜったいに返すから。信じて」
月花は私の瞳を、ひどい裏切り者を見るように、あるいは迷子の子どものように見つめて、おもちゃを取られた子猫みたいに鼻を鳴らした。そして惜しむように私を抱えなおして、頬をこすりつけた。
「足りません。とうてい足りない――けど僕の望むものを、ユカリコも与えてくれるなら」
「な、なんだろう」
本気で身一つしか持っていない。日本でだって、債券も株も持っていないよ。
ちょっと身構えれば、月花は黙って、というように顔を近づけた。私は目を見開いたまま彼の伏せられた睫に見とれて、その後で唇の端、頬のあたりに柔らかな熱を感じた。
唇をかすった気もする。こちらを見上げてくる月花の瞳には、背筋が震えるようなそういう熱がありありと浮かんでいて、私は少女でもないくせに恥ずかしさと混乱でただただ目を瞬かせた。どうして男の人って、突然こういう目になっちゃうときがあるんだろう?
そして案の定、たまの声が頭に響く。
(魔力は正直、足りないが……縁子。あとひとつだ――準備はいいな)
ぜんぜんよくないけどやむをえない。たまの声は静かに興奮していて、そして転移は訪れた。
さいごにかち合うみどりの瞳。そんな顔をしないで、という私の声は届いただろうか。
大丈夫、絶対に会いに行くよ。だってほら、私は月花たちから借金までしてるんだ。耳をそろえて返すまでは、日本にも帰れない!
覚悟を決めて、吐き気のするような転移の感覚に身をゆだねた。
※
落下したのは、草の上だ。
転移ってのは何度経験したって慣れることはない。今回は肩こりをものすごく進化させたような上半身の硬直まで感じる。たまのへたくそめと呟いて、ここはいったいどこだろうと腰を撫でながら周りを見渡せば、一面に広がる草原と数十頭の羊とが目に飛び込んだ。
吹き抜ける風はカムグエンのものとはうってかわって乾燥して冷ややかだった。ひざまでの草をさやさやと揺らし、空の色はひどく薄い。山あいの高原地帯なのだろうか。
私の闖入に気づいた羊たちは神経質そうに耳を動かしながらも、口を動かしながら遠巻きに私を見ている。彼らが草を噛む、こつこつというカスタネットのような音が聞こえた。
「たま、だれもいないよ」
私は地面を確かめるようにゆっくりと立ち上がる。なだらかな丘陵といくつかの木々、それから羊。あるのはそれだけだった。
たまは押し黙っている。私はここから上った木の奥に、浮いた色があるのに気づいた。ここに不似合いな赤色だ。
なんだろうと登っていくと、それが人の頭だと気づく。短く刈り上げた、燃えるような赤色の髪の長身の男。足元の石をじっと見つめている。
「ナラ・ガルさん、なの……?」
私が呟けば彼はこちらを向いた。その瞳ははじめ、ひどく渇いて疲労をありありとのせていたが、徐々に限界まで見開かれた。
「――縁子……?」
そして彼は私の名前を呼んだ。
彼の手にあった花が落下して、舞った黄色い花弁が視界をよぎって、正しいアクセントで呼ばれた自分の名前を、私はただ懐かしく思った。
月花が言ったとおり、毒ガスの処置方法を告げる老年の男性と、今後の播とカムグエンの付き合い方を話す壮年の使者が来た。
老年の男性は、医療に従事する人独特の目をしていた。象のようにやさしい草食動物の瞳を持ち、月花が与えたに違いない解毒方法を丁寧に伝え、幸いにもガスでの死者はカムグエン側に出ずにすんだ。
壮年の使者はばりばり軍事の畑の人だと一目でわかる顔つきだったが、ことのほか辛抱強く話し合いの席に着いた。
そもそもこれは播による一方的な侵略で、カムグエンは何一つ望んではいない。
だからカムグエンの長(湖の塔で叫んでいた人だ)は、今後一切の関わりを排除することで区切りとしたがった。
播は石炭の入手経路を求めて食い下がったが、やがて諦めた。
私はことの顛末をケトさんから聞いて、なんとも言えない心地になった。
日本で育った私は、これを機にカムグエンは石炭を輸出して、播から医療や仕事を得たりすることもいいことなのではと勝手に思ったりしたのだ。
しかしそれはカムグエンの人たちは望まない。彼らは彼らで独立し、うまくやってきているのだ。
今後、播がなにかにつけてちょっかいを出してくることが一番怖いが、きっと月花がうまくやるのだろう。
驚くべきことはその月花が、突然失踪したことだ。播の死者が白狐ではなかったことに驚いたカムグエンの人たちが尋ねれば、播の調停者は言い渋ったが、攻め込んだ負い目もあってか簡潔に伝えた。月花は今後の播の身の振舞い方を書き連ね、双方にとっていくつか有益な情報をと助言を与えたのちに忽然と姿を消したのだという。播からすれば、ほとんど指揮権を持っていたとはいえ月花も傭兵だったので、別に手を尽くして探さなくてもいいのだろうが。
カムグエンの人たちは複雑な気持ちでそれを受け止めた。
使者としての月花。開戦まで宣言した月花。けれど最後は、別人のような言葉を残して煙のように消えたのだ。
私自身、月花の失踪には衝撃を受けたけれど、戦闘で傷ついた人たちの手当てだとか、炊き出し、痛んだ舟の修理などで日々は忙しなく過ぎていってしまった。
私はヒルダのせいですっかり伝承の少女だと認識されてしまい、どこに行ってもにこにこと微笑みかけられてしまう。
包帯を巻くのも下手だし、こっちの料理もつくれない。ましてや竹の植物を扱ってものを直すなんてこともできないから、私はひたすら洗濯係としてがんばった。
ちなみにここの洗濯は、竹でぎざぎざになるように板を作って、そこでごしごしこするタイプ。昔でいう洗濯板だ。洗剤はなんと森の木を燃やした灰から作るのだが、汚れがよく落ちる灰になる植物とそうでないものがあるようで、とても興味深い。
洗濯板の使い方ひとつ取っても慣れなくて、ヒルダにはさんざんからかわれたが、ごはんを食べさせてもらっているのだ。何かはしなければならない。
そんなふうに、一息ついた真夜中だった。
私は慣れない洗濯でくたくたで、ぐっすり寝込んでいた。
御使いと呼ばれて、額に乗った前髪をそっとずらされたのがわかった。
マライカじゃないと反射的に答えようとして、その声の主に思い至って眠気が吹き飛んだ。頭をもたげて暗闇に目を凝らし、すぐそばで膝をついている彼に少しだけ笑った。
「会いに行くって言ったのに」
「あなたの言葉なんて、信用してませんから」
なるほど。私はもっともだとうなずいてしまう。いったい私にどんな信用があるというのだろう。
だから僕が会いに来たんです。そう言って月花は微笑んだ。
※
そして私たちは再び、月花が乗ってきた小舟の上にいる。
「あなたには難しいのでは? やはり僕が」
「いやもうちょっとだから。あとちょっとでこつがわかる気がするわけで」
以前と違うのは、櫂を握るのが私だってところだ。これは私が手を挙げて、ぜひにとやりたがったせい。
カムグエンの舟は長い竹で湖の底を押して進むから、慣れるまですごく大変だけど、播の舟は公園のボートと同じ仕組みだ。
両手に短い櫂を持って後ろ向きに進むやつ。なんだか楽しそうだったので、せがんでやらせてもらっていたのだ。
「水面にくぐらせるように差し込んで。そう、それから垂直になるように立てて、腰から上の身体全体で引くんです」
「こう? あっ、いいかんじ」
月花は昔と変わらずアドバイスがとても上手で、私はたちまち速度を上げた。
星明かりを反射した水面を割るようにして舟は進んでいく。頬を撫でる湿った風にも、もう慣れっこだ。
気持ちよくて思わず目を伏せてから、あらためて正面を見れば、みどりの瞳とかち合った。
ずっとつけていた仮面をはずした彼は、まだどこか緊張を残しているが、それでもしゃんと背筋を伸ばしている。以前と変わらないふわふわの黒い髪に、奇跡のように完璧な輪郭。鼻筋から唇の厚さに至るまで、丹念に作り上げられた彫像のよう。前とは違うのは、中性的な美が完全な男性のものに変化したころだろう。背もすっかり伸び、やや頼りなげだった薄さは厚みのある身体として堂々たるもので、どこからどう見てもたくましい青年でしかない。先に大人の月花に会っていたら、幼い彼と出会っても気づけなかったかもとさえ思う。その中でも特に目を引くのは、やはりみどりのガラスの瞳だ。戸惑うように目を伏せられれば、きれいな瞼がそっと下りてもくる。
だが今その瞳に浮かんでいるのは、苦悩と開放感が半々だろうか。私が言葉を探っていると、聡明な月花は私が知りたがったことを先に口にした。
カムグエンと播のことだ。石炭はすでに枯渇しかけていると播に報告書を作ったので、当面は播がカムグエンに執着する理由をなくしたという。所詮は傭兵である自分の言葉を、播の議会が信じるかどうかはわからないが、それでも今回の遠征には反対意見も多かったので大丈夫だろうと。
それからと月花は続けた。
「ウオンリュのことですが。もしもあなたが聞きたいなら、お話します」
私は月花の顔を見て、水面を見て、星を見上げて、再び月花に視線を戻した。ゆっくり首を横に振る。月花が話したいならとだけ返せば、彼は静かに微笑むだけだった。
どういうやりとりがあったのかはわからない。でもその微笑みには悔いはなかったので、私はこれでよかったのだと安心する。
ところで、と月花が口を開く。
「あなたは僕の名前を知っている」
「うん」
「僕は知らない。これって不公平ではないですか」
私はぱちぱちと瞬きをして、そういえばそうだったと思いながら髪を手ぐしで梳かした。
「そうだね、確かにそうだ」
一緒に暮らしていたことを忘れているんだから、名前だって覚えていないはずだ。月花は私の様子を見てちょっとむっとしたように続ける。
「僕の記憶にないのもそうですが、幼いころを一方的に知られているのもなんだか理不尽です」
「う、うん、そうだよね。ええと、遅れてごめんなさい。私は縁子っていうの」
名乗れば月花はかすかに口を動かして名前を読んだ。ユカリコ、と出会ったころと同じアクセントで。
月花はどうして私が一緒に暮らしていたかを知りたがったけど、私は首を振った。私自身、どうして私がこの世界に来ることになったのかを説明できないでいるし、そこにはたまやアレクシスの事情が絡んでくる。他人が関わることを私の一存で話すことははばかられた。
いつか話せるときがきたら話すよと目を見ながら言えば、ゆっくりと頷いてくれた。
遠くで魚の跳ねる音が聞こえて、私は湖岸のほうへ目を動かす。濃い森はそれこそが異界のようにひしめきあっている。異世界って、意外と身近にあったりするのかな。真夜中の学校とか、明け方の神社とかだって、なんだか別世界に思えたりするし。
そんなことを考えていると、手元からそっと櫂を取り上げられたので視線を戻す。どうするのかなと思えば、漕ぎ出すわけでもなく舟の中に櫂を置いた。
考えていたんです。その口調はとても真摯だったから、私は月花の表情を見過ごさないようにしっかりとその顔を見つめる。
「自分を大切にするという話。好きなことを、自分でそばに置くと」
「うん」
「考えてみたけど、それは悪くないことに思えました。何もしないよりはよっぽどいいって。でも想像してみると、どこか足りないし満たされないと感じた」
足りないって何が。そっと尋ねると月花はどう言葉にしようか悩むように口を引き結んだ。
あなたがです。そう言った。
「想像したんです。あたたかいところで、勉学に励みながら山苺の砂糖漬けをつまむ。好きなものをこれでもかと集めた場面。でも足りない。そしてあなたが近くにいればいいのにと思った。そうすればほとんど完璧なまでの、満ち足りた空間になる。僕は僕の意思で、あなたをそばにおきたいと思う」
言葉をたどたどしく重ねる月花に圧倒されて、私はただ瞬いた。
月花は狭い小舟の上を器用に動いてじりじりと私に近づく。逡巡するような間のあとで、思い切ったように私を引き寄せた。
舟とは言っても、私からすれば丸太を削っただけの原始的なものだ。油断をすればそれこそオセロよりも簡単にひっくり返る。バランスを取るのに必死の私は身を硬くしたが、体育座りをしている月花の足の間に導かれるまま、彼の腕に囲われた。きっと誰かを抱きしめるなんてはじめての腕は、まるでトランプタワーにでも触るかのような手つきだ。そのまますっぽりと包まれてしまえば、もとはひとつだったみたいに居心地がいい。
逆でもいい。いや、逆のほうがいいかなと囁いた。
「あなたは僕をそばに置くべきです。いつでも、どこでも、肌身離さず」
「月花、待って、でもそれって」
首に月花の顔が埋められている。その肌の体温がじわじわと広がって私は焦った。月花はウオンリュへの絶望と決別のあとで、私を代わりにしてしまったのかと思ったのだ。今度は私の望むものを満たして、私から保護されたいのかと。
でも月花はそう考えた私を見抜いたように鋭く続ける。
「ウオンリュへの心向きとは異なるものです。彼には慈しまれたいと思って動いたけど、あなたに対しては――なんて言ったらいいのかな。ぜんぶが反対なんです。僕が、あなたを慈しみたいんだ。誰になんと言われようと関係ない。僕が醜いだとか罪子だとか謗られようと、もう僕の耳には届かない。あなたの、ユカリコの言葉だけが意味を持つ」
いつもは柔らかな月花の口調が強まった。そんな自分に気づいて、それを恥じるように目を伏せた。
背中に回された腕に力がこめられる。少年だったときは私が腕をまわせば抱きしめられたけど、今の成長した彼の背にはとても手が回らない。
全身で感情を伝えられて胸がいっぱいになった。月花はいまようやく、自分を一番優先して行動できるようになったのだ。
月花の名前を呼べば、ゆっくりと顔が上げられた。至近距離で見詰め合うと、天の祝福のように美しい顔が不安げに揺れている。
お皿を割ってしまった子どものように上目遣いで見つめてくる。普段は賢い月花の考えていることなんて何もわからないけど、このときばかりは私も彼の望むことがわかったので、手を伸ばして月花の頭を引き寄せた。
そっとその黒髪を撫で付ける。額と額をすり合わせて頭をやわらかく抱え込む。
それからもう一度その瞳を覗き込んで、いまだ拒絶に怯えるみどりの瞳を宥めて、そのまぶたに口付けた。
驚きに見開かれるのを無視して、今度は反対側のまぶたにも、そして目じりにも。かつて月花が大雨の日に私にそうしたように。これからの月花が幸せでいられるようにと、ありったけの祈りを込めた。
月花はしばらく呆然としたあとで、こらえきれないというふうに顔をくしゃりとゆがめた。そして私たちの間に、わずかな隙間もあってはならないというように私を強く抱きしめなおして、私の首筋に口付けた。あたたかな唇の感触に身体を跳ねさせると、拒絶されたと思ったのか視線で伺ってくる。私はちょっと困ったけど、拒絶と取られたくなかったので微笑んでみた。
月花はほっとしたように眉を下げ、私の手を持ち上げてその指先にもキスをした。それから私の手のひらを、極上の布地を当てるかのように自分の頬に触れさせた。あたたかな月花の頬の体温が手のひらから伝わる。それは徐々に熱を帯びてひどく熱くなり、そしてそこにありえないほどの熱が集まっていく。
私はあっと思う。身に覚えのある種類の熱だった。
まさかと思った直後にほとばしる真っ白な閃光。放たれる熱。
驚いたように唇を離した月花の目の前に、透明に赤みがかった雫の形の天珠が浮かんでいる。
巾着の中のたまが呆然と呟いた。
(なんと、見事な……)
私も見とれた。今までに目にした天珠は、本当にどれも美しかったけれど、この雫の形の輝きはひときわ強い。夜明けの太陽を氷の玉に閉じ込めたような煌めきで、どこか懐かしくもあった。私が呆気にとられているうちに、それはまたふっと消えた。たまが手に入れたのだ。直後、たまは驚きと興奮を混ぜた声を上げた。
(縁子、喜べ縁子! おそらく必要な天珠はあとひとつだ)
あと一つ? それでおしまいなのか。
それを集めれば、日本へ、拓斗のもとへ、帰れるの?
「今のはいったい」
夢心地な月花の呟きに、私ははっと我に返った。月花は戸惑ったように天珠が浮かんでいたあたりを見つめているが、そこにはもう何も残されていない。
私は今までの流れを思い出して嫌な予感がしていた。だってたまは、天珠を手に入れたとなるやすぐさま予知を使って転移させてきたのだ。
いつそうなってもいいように、月花にお別れを言わなければ。
だがそう思うと同時に、今の月花をひとり残していかなければならないことに例えようのない悲しみを感じた。歩き始めた月花と、もう少し一緒にいたかった。
「月花、あの」
名前を呼んで、でも何をどう伝えたらいいかわからなくて言葉に詰まる。月花はそんな私を見て、なに? というように微笑んだ。
この微笑みを向けられてうれしくない人がいるはずがないと、そう反射的に思ったほどの血の通った、心底からのあたたかな微笑みだった。その瞳にはとても言葉にはしきれない、ありとあらゆるものが浮かんでいて、もし与えられても私には返しきれない感情だったけど、月花がそういう気持ちを持てていることがとてもうれしかった。
ひとりでに言葉が溢れた。
「月花はもう大丈夫。私はちょっといなくなるけど、絶対にまた会えるから。自分のやりたいことを何よりも大切にして過ごしてほしい」
私がいなくても。
月花は私の言葉を不吉なものとして、不安げに瞬いた。腰に回された腕が、離さないというように食い込んでくる。私は約束するように笑顔を作る。
「うそだ。ユカリコはもう僕のところに帰ってこないつもりでいる。ひどい裏切りでは? 僕を信じさせて、そして捨てていくだなんて」
「捨て……。いや、被害妄想が過ぎるのでは」
「許しません。行かせない。その足を切り落として差し上げましょうか? それとも行き先も見えないように両目を抉ってしまおうか」
かっ、過激すぎる! 犯罪宣言である。
この賢くやさしい、でもときに苛烈で極端な人は、どうしたら納得してくれるだとうと考えて、私はふとしたことを思いつく。
「じゃあお金貸してください」
「は?」
「播のお金、持ってない?」
播はカムグエンとは違って、お金があったはずだ。私の突然のせびりに驚いた月花だったけど、疑い深そうに彼の巾着から青銅っぽい硬貨を出した。ぜんぜん丸くない、いびつな硬貨だ。誰かの横顔っぽいものが刻印してあるが、質が悪すぎて男か女かすらもわからない。まあ、お金はお金だ。
「私は借りたお金はぜったいに返すから。信じて」
月花は私の瞳を、ひどい裏切り者を見るように、あるいは迷子の子どものように見つめて、おもちゃを取られた子猫みたいに鼻を鳴らした。そして惜しむように私を抱えなおして、頬をこすりつけた。
「足りません。とうてい足りない――けど僕の望むものを、ユカリコも与えてくれるなら」
「な、なんだろう」
本気で身一つしか持っていない。日本でだって、債券も株も持っていないよ。
ちょっと身構えれば、月花は黙って、というように顔を近づけた。私は目を見開いたまま彼の伏せられた睫に見とれて、その後で唇の端、頬のあたりに柔らかな熱を感じた。
唇をかすった気もする。こちらを見上げてくる月花の瞳には、背筋が震えるようなそういう熱がありありと浮かんでいて、私は少女でもないくせに恥ずかしさと混乱でただただ目を瞬かせた。どうして男の人って、突然こういう目になっちゃうときがあるんだろう?
そして案の定、たまの声が頭に響く。
(魔力は正直、足りないが……縁子。あとひとつだ――準備はいいな)
ぜんぜんよくないけどやむをえない。たまの声は静かに興奮していて、そして転移は訪れた。
さいごにかち合うみどりの瞳。そんな顔をしないで、という私の声は届いただろうか。
大丈夫、絶対に会いに行くよ。だってほら、私は月花たちから借金までしてるんだ。耳をそろえて返すまでは、日本にも帰れない!
覚悟を決めて、吐き気のするような転移の感覚に身をゆだねた。
※
落下したのは、草の上だ。
転移ってのは何度経験したって慣れることはない。今回は肩こりをものすごく進化させたような上半身の硬直まで感じる。たまのへたくそめと呟いて、ここはいったいどこだろうと腰を撫でながら周りを見渡せば、一面に広がる草原と数十頭の羊とが目に飛び込んだ。
吹き抜ける風はカムグエンのものとはうってかわって乾燥して冷ややかだった。ひざまでの草をさやさやと揺らし、空の色はひどく薄い。山あいの高原地帯なのだろうか。
私の闖入に気づいた羊たちは神経質そうに耳を動かしながらも、口を動かしながら遠巻きに私を見ている。彼らが草を噛む、こつこつというカスタネットのような音が聞こえた。
「たま、だれもいないよ」
私は地面を確かめるようにゆっくりと立ち上がる。なだらかな丘陵といくつかの木々、それから羊。あるのはそれだけだった。
たまは押し黙っている。私はここから上った木の奥に、浮いた色があるのに気づいた。ここに不似合いな赤色だ。
なんだろうと登っていくと、それが人の頭だと気づく。短く刈り上げた、燃えるような赤色の髪の長身の男。足元の石をじっと見つめている。
「ナラ・ガルさん、なの……?」
私が呟けば彼はこちらを向いた。その瞳ははじめ、ひどく渇いて疲労をありありとのせていたが、徐々に限界まで見開かれた。
「――縁子……?」
そして彼は私の名前を呼んだ。
彼の手にあった花が落下して、舞った黄色い花弁が視界をよぎって、正しいアクセントで呼ばれた自分の名前を、私はただ懐かしく思った。
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