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第二章 異世界で死に物狂いで貯金をします

3.買い物に忍者スタイルの護衛は欠かせないらしいです

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 私たちが留まっている、この砂漠の城塞交易都市は、ククルージャという。

 魔女アレクシスのいるスヌキシュという街の名前はちゃんと覚えていたのに、この都市の名前は最近ようやく覚えた。

 外部からの賊の侵入や、飛び砂の影響を減らすためだろうか、都市のまわりをぐるりと高い壁が取り囲む。
 その内側もまた、迷路のように壁が張り巡らされている。
 道はとにかく狭く、家畜をつれた人とすれ違うには、どちらかが足を止め道を譲らなくてはならない。アパートのような建物が上にせり出し、市場周辺の店の前には所狭しと商品が並べられている。

 テレビの旅番組で見た、どこかの街そのものだ。どこだったろう……モロッコあたりだったような。

 とにかく、買い物するにもなかなか刺激的なところだ。
 気がつくと迷ったあげく、どこかの家の中庭にいたりするのだから。







「今日の買い物に行ってきます」

 そう言って家の裏側、小さな庭を覗けば、ちょうどご主人さまたちが汗を拭って休憩している。
 輝く筋肉、流れる汗、引き締まった頬。
 彼らが醜い? 本当に美醜の価値観、その成り立ちは興味深い。世の中どうなってるんだろう。
 眼福。

「ああ、もうそんな時間でしたかね」

 ナラ・ガルさんが、庭の中心にある日時計に目をやった。
 そう。この、土にずぽっと棒を垂直にぶっさしただけのちんけな装置が、なんとこの世界の時計がわりなのだ。
 その単純すぎる構造は、地面に伸びる影で時間を把握するというものだが、これが意外にもなかなか正確。重宝している。このあたりは曇りや雨なんて日は少ないから、恒常的に使えるのだろう。

「今日は誰の番だったかな」
「ユーリオットですよ。彼なら部屋で、塗り薬を調合してます」

 ナラ・ガルさんの呟きに、月花ユエホワがはきはきと答える。答えながらも彼は、巨大なブーメランの側面をせっせと研いでいる。阿止里あとりさんは背嚢はいのうの中身を取り出して並べ、整理しているところだった。

「そうだったな。ユーリオット!」
「ここにいるだろ。そう叫ぶな」

 気づけばユーリオットさんが、首をこきこき鳴らしながら歩いてきたところだった。

「あの、お仕事の途中でしたら、私ひとりでも行けますし……」

 控えめに進言してみる。
 とたん、四人が動きを止める。じいいいいいっと、私を見てくる。
 その目は、「何言ってるんだろこの子」という不思議な目だ。
 そう。女性は基本的に、一人歩きはあまりしない。昼間なら買い物で一人の女性もたまに見るが、見るからに老婆のような足取りのひとたちだけである。
 ちょっとコンビニ、と短パンTシャツで出かけてた私には、いまだに馴染めない感覚のひとつだ。

「……いい。ほら、行けよ。見てるから」
「はあ」

 では、行ってきます。と家を出る。

 彼らは何度言っても、隣を歩いてはくれない。どころかまるで忍者のように私の護衛をしているので、買い物中の私はまるっきり一人の感覚。
 たまに不安になって後ろを見ても、人ごみの中に彼らの姿は見つけられない。
 もしかしたらついてきてないのかな? と思えば、帰宅してからもぞもぞと話しかけられたりする。
 そういうときの彼らは、普段とは別人のようにおどおどしている。
 うつむきながら、手を握ったり開いたりして、要領を得ないことを言っているのだが、まとめるとだいたいこうだ。

 買い物中に男に話しかけられていただろう、すごくかっこいい男だった。誘われたのか?

 捨てられた子犬のような目で見てくる始末だ。

 いないように見えても、ばっちりついてきてることはわかった。
 ちなみに彼らのいう「すごくかっこいい男」は、頭つるつるの頬の肉だるだるのでっぷりおじさんのことだったので、丁重に否定して差し上げた。


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