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第一章 認めたくないが、異世界です

1.すさまじいイケメンがブサイクらしい

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 状況を整理しよう。

 私は四人の男に囲まれて、寝台の上に座っている。
 身にまとっているのは、麻でできた素朴なワンピースに近いもの。
 寝台は一人暮らしのために量販店で買った安物のベッドと比べるべくもなく、単純なつくりだ。わらの上に木綿のシーツをかけただけで、弾力もなにもあったものではない。
 部屋というよりは小屋である室内は、歴史の教科書で見た古代メソポタミアとか、もしくは中世オスマントルコとか、そのあたりのつくりに近いかな。
 こじんまりとした背の低い机が部屋の隅に置かれている。その上には先ほどからずいぶんその頭身を縮めた蝋燭が、ゆらり揺れている。

 そんな中に場違いなのは、私――よりも、むしろその男たちだろう。

 みんな私の感覚から言えば、絶世の美男たちである。
 訂正しよう。空前絶後の、美男たち。

 堂々とした体躯と澄んだ瞳をしているのに、そろいもそろって見捨てられた子犬のような目で見つめてくる。

「……いま一度、問う」

 なじみのある黒い瞳、黒い髪の青年が、こわれものに触るように聞いてきた。
 長身で、その身体の厚みは完成された男の魅力を存分にかもし出している。その顔にもまた、荒々しい中に力強い美しさがあった。

「われらなどに、その身を触れさせて……くれる、のか」

 その言葉が、ほかの三人の心も代弁しているとすぐにわかった。

「どうせ逃げ出す機会を待ってるのさ」
 実った稲穂の色、うすい茶色の髪を長めに伸ばした男は、そう皮肉げに呟きながらも一縷の望みをその麦色の瞳に抱いている。
 こちらも長身。しなやかな筋肉と、文句のつけようがなく整った面立ちが印象的だ。
 
「それでもいい。刹那の夢でも、俺は」
 短髪の赤髪でもっとも大柄の男は、いかにも包容力のありそうな優しさが全身からにじみ出ている。
 こちらも顔面偏差値は高い。ちょっと尻込みしてしまうような雄々しさを、目じりの柔らかさがカバーしている。その金色の瞳の奥には、ゆるやかに情熱がうずまいている。
 もしこの男が自分の上司だったら、きっと彼に一言ほめられたくてものすごくがんばってしまうかも。 

「……さ、さわっても、いいの。やっぱり嫌だって悲鳴を上げて、土を投げつけたり、しませんか」
 震える声で、おそるおそるというように話しかけてきたのは、まだ高校生にもなってないだろう少年だ。
 緑がかったふわふわの黒髪と、緑の瞳。純朴そうな雰囲気だが、少年から青年に移ろう時期特有の、儚い美しさが破壊力抜群である。

 この、いっそ神の造形物のように美しい男たちが、そろって私にすがっている。
 彼らはあまりに必死で、あまりに哀れだったし、私は私でこの現実に疲れきっていた。

 そう。ここに戻って来るまで、ずいぶんいろんなことがあった。まるで壮大な冒険譚だ。一本二時間くらいの映画がいったいいくつ撮れるだろう? というくらいの。最初は途方にくれたし戸惑ったけれど、今の私は彼らのことを、とても大切に思っている。恋というよりは親愛のそれが、彼らの凍えた心を少しでもほぐせたらいい、とも。

 ひとつだけ、どうにもならないのは。とため息をついて口を開く。

「私はここではない世界から――異世界からきたんです。あなたたちへの偏見は、ないですよ」

 何度、そう話してやっただろう。彼らはいまだにちっとも信じないのだ。
 そう、なぜなら。

「――こんなに醜い、われらでも?」

 四人が口をそろえる。
 そう。美的感覚がまるきり逆の、この異世界。




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