上 下
1 / 97
第一章 認めたくないが、異世界です

1.すさまじいイケメンがブサイクらしい

しおりを挟む
 状況を整理しよう。

 私は四人の男に囲まれて、寝台の上に座っている。
 身にまとっているのは、麻でできた素朴なワンピースに近いもの。
 寝台は一人暮らしのために量販店で買った安物のベッドと比べるべくもなく、単純なつくりだ。わらの上に木綿のシーツをかけただけで、弾力もなにもあったものではない。
 部屋というよりは小屋である室内は、歴史の教科書で見た古代メソポタミアとか、もしくは中世オスマントルコとか、そのあたりのつくりに近いかな。
 こじんまりとした背の低い机が部屋の隅に置かれている。その上には先ほどからずいぶんその頭身を縮めた蝋燭が、ゆらり揺れている。

 そんな中に場違いなのは、私――よりも、むしろその男たちだろう。

 みんな私の感覚から言えば、絶世の美男たちである。
 訂正しよう。空前絶後の、美男たち。

 堂々とした体躯と澄んだ瞳をしているのに、そろいもそろって見捨てられた子犬のような目で見つめてくる。

「……いま一度、問う」

 なじみのある黒い瞳、黒い髪の青年が、こわれものに触るように聞いてきた。
 長身で、その身体の厚みは完成された男の魅力を存分にかもし出している。その顔にもまた、荒々しい中に力強い美しさがあった。

「われらなどに、その身を触れさせて……くれる、のか」

 その言葉が、ほかの三人の心も代弁しているとすぐにわかった。

「どうせ逃げ出す機会を待ってるのさ」
 実った稲穂の色、うすい茶色の髪を長めに伸ばした男は、そう皮肉げに呟きながらも一縷の望みをその麦色の瞳に抱いている。
 こちらも長身。しなやかな筋肉と、文句のつけようがなく整った面立ちが印象的だ。
 
「それでもいい。刹那の夢でも、俺は」
 短髪の赤髪でもっとも大柄の男は、いかにも包容力のありそうな優しさが全身からにじみ出ている。
 こちらも顔面偏差値は高い。ちょっと尻込みしてしまうような雄々しさを、目じりの柔らかさがカバーしている。その金色の瞳の奥には、ゆるやかに情熱がうずまいている。
 もしこの男が自分の上司だったら、きっと彼に一言ほめられたくてものすごくがんばってしまうかも。 

「……さ、さわっても、いいの。やっぱり嫌だって悲鳴を上げて、土を投げつけたり、しませんか」
 震える声で、おそるおそるというように話しかけてきたのは、まだ高校生にもなってないだろう少年だ。
 緑がかったふわふわの黒髪と、緑の瞳。純朴そうな雰囲気だが、少年から青年に移ろう時期特有の、儚い美しさが破壊力抜群である。

 この、いっそ神の造形物のように美しい男たちが、そろって私にすがっている。
 彼らはあまりに必死で、あまりに哀れだったし、私は私でこの現実に疲れきっていた。

 そう。ここに戻って来るまで、ずいぶんいろんなことがあった。まるで壮大な冒険譚だ。一本二時間くらいの映画がいったいいくつ撮れるだろう? というくらいの。最初は途方にくれたし戸惑ったけれど、今の私は彼らのことを、とても大切に思っている。恋というよりは親愛のそれが、彼らの凍えた心を少しでもほぐせたらいい、とも。

 ひとつだけ、どうにもならないのは。とため息をついて口を開く。

「私はここではない世界から――異世界からきたんです。あなたたちへの偏見は、ないですよ」

 何度、そう話してやっただろう。彼らはいまだにちっとも信じないのだ。
 そう、なぜなら。

「――こんなに醜い、われらでも?」

 四人が口をそろえる。
 そう。美的感覚がまるきり逆の、この異世界。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。

sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。 気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。 ※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。 !直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。 ※小説家になろうさんでも投稿しています。

異世界転移した心細さで買ったワンコインの奴隷が信じられない程好みドストライクって、恵まれすぎじゃないですか?

sorato
恋愛
休日出勤に向かう途中であった筈の高橋 菫は、気付けば草原のど真ん中に放置されていた。 わけも分からないまま、偶々出会った奴隷商人から一人の男を購入する。 ※タイトル通りのお話。ご都合主義で細かいことはあまり考えていません。 あっさり日本人顔が最も美しいとされる美醜逆転っぽい世界観です。 ストーリー上、人を安値で売り買いする場面等がありますのでご不快に感じる方は読まないことをお勧めします。 小説家になろうさんでも投稿しています。ゆっくり更新です。

異世界の美醜と私の認識について

佐藤 ちな
恋愛
 ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。  そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。  そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。  不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!  美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。 * 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける

朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。 お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン 絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。 「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」 「えっ!? ええぇぇえええ!!!」 この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

異世界転生先で溺愛されてます!

目玉焼きはソース
恋愛
異世界転生した18歳のエマが転生先で色々なタイプのイケメンたちから溺愛される話。 ・男性のみ美醜逆転した世界 ・一妻多夫制 ・一応R指定にしてます ⚠️一部、差別的表現・暴力的表現が入るかもしれません タグは追加していきます。

【R18】世界一醜い男の奴隷として生きていく

鈴元 香奈
恋愛
憧れていた幼馴染の容赦のない言葉を聞いてしまい逃げ出した杏は、トラックとぶつかると思った途端に気を失ってしまった。 そして、目が覚めた時には見知らぬ森に立っていた。 その森は禁戒の森と呼ばれ、侵入者は死罪となる決まりがあった。 杏は世界一醜い男の性奴隷となるか、死罪となるかの選択を迫られた。 性的表現が含まれています。十八歳未満の方は閲覧をお控えください。 ムーンライトノベルスさんにも投稿しています。

処理中です...