上 下
32 / 41
第1章:知らないことだらけのこの世界

第29話:豹変の理由

しおりを挟む
 部屋に戻った俺は泣いた。声を押し殺して。今日会ったばかりの人にズタボロになるまで貶されたせいで俺のメンタルは限界だった。

「うっうっ‥‥‥もう、やだ‥‥‥うっうっ」


 ある程度泣いて気持ちの整理がついた頃、俺は思った。

『絶対に見返す』と。

 そのためには腕立て伏せをしないといけない。そう思った俺は床に手をついて腕立て伏せを始めたーーが、先程庭でやった通り、1回も出来なかった。

 何故出来ないんだ?俺は練習をやめて原因を考えてみた。

 えーと、腕が曲がらないくらいか。まあ、練習あるのみだな。原因がわかったので練習を再開した。









ーー飽きた。単調な作業すぎるからつまらない。腕立て伏せ以外の筋トレをやろう。

「いーち‥‥‥にーい‥‥‥さーんーー‥‥‥じゅーう!!」

 腕立て伏せとは違って腹筋は10回は出来た。ゆっくりとだが。まあ、数回はズボンを引っ張って起き上がったりなどのズルをしたが‥‥‥1回とカウントしよう。子供の体だし‥‥‥。

 子供といえば、あのクソ野郎は大人‥‥‥だよな。大人が子供をいじめるって‥‥‥大人気ないな‥‥‥。
 そう思ったら、気分がちょっと晴れた。でも、あいつは絶対に見返す‥‥‥そう決めたんだ。

 と言ってもなぁ‥‥‥1回も出来ない奴が何言ってんだ状態なんだよなぁ‥‥‥。せめて、2回‥‥‥いや、1回は出来るようになりたい。

 でもその前にお腹が空いたな‥‥‥昼食にしよう。筋トレは昼食の後でやろう。そうと決まったら食べに行こう。

「きょおは、な~んのりょうりかな~」

ーールンルン気分で下に降りていった俺はドアの側にいる人物に気づかなかった。仮に気づいたとしても、そこには誰もいないから気にも留めなかっただろう‥‥‥。




♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢





ーーバークス視点

 ガルドの旦那に呼ばれて執務室に行ってみれば、子供を鍛えろだぁ?それ、遠回しに『お守りをしろ』といっているのと同じだろ‥‥‥。

 だが、話を聞いた後だとお守りよりも別の理由があるのがわかった。その理由は襲われても返り討ちにできるほど鍛えろというものだ。
 正直、短期間で襲われても返り討ちに出来るレベルまで鍛えるのは難しい。それを伝えると、返り討ちは無理でも捕まらずに逃げることが出来たらいいというレベルまでに鍛えろと言ってきた。

 そのレベルまでなら短期間で鍛えられるだろうが‥‥‥随分とレベルが落ちたな。まあ、いいか。

 そんで今、そのシズナっていう坊主に会っているが‥‥‥なんでこの家計は美男美女、美少年が多いんだ?まだ幼いせいか、少し中性的な顔立ちだが、大人になれば美男になるな。

 取り敢えず挨拶しておくか。敬語で。

「私はユニ・バークスと申します。以後お見知り置きを」

 俺が敬語で挨拶したのを見た旦那が目で文句を言ってくるのを無視して俺は坊主を連れて外に出た。

 外に出たはいいが‥‥‥どこに連れて行こうか悩むな‥‥‥確か庭に大きな広場があったな。あそこなら誰にもーー庭師は除くーー迷惑を掛けないだろ。

 旦那の私兵になってから暫くの間、指名依頼を受けていなくて久し振りに敬語を使ったから肩が凝ったな。やっぱり敬語使うのやめよ。

 ん?なんだ?坊主が怯えているぞ。

「いえ、その‥‥‥口調が‥‥‥」

 あ、口調が変わったことに怯えていたのか。そこまで考えなかったな‥‥‥子供の相手なんてしたことねーし。

 ま、気を取り直して剣術の指南を始めるか‥‥‥お金を貰っているんだ、働かねーとな。
 剣術の指南のために木剣を渡したが、握ることはおろか持つこともできないほど重いみたいだ。

 まいったなぁ‥‥‥筋力をつけるために腕立て伏せでもさせるか。俺は見本として腕立て伏せをした。暫くの間、坊主は見ていたがやがて自分からやりだした。1回が。

 どうやったら出来るようになるんだ‥‥‥と考えた結果、怒らせることにした。『怒り』っていうのはすげーからな。普段出来ないことも怒っているときは出来るようになったりするしな。

 というわけで俺は徹底的に坊主の失敗を嘲笑った。予想通り、俺に嘲笑われた坊主は怒った。よし、んじゃあー次は目標を定めてやるか。

「お前と同じ5歳のやつら、最低でも10回は出来るぞ~」

 と言ったが、実際は5回も出来たらいい方だ。‥‥‥流石に2倍は厳しいよな‥‥‥ミスったな。

「やってやる!!絶対に20回以上出来るようになってやるッッッ!!」

 よし、成功だ。しかし坊主はこの後俺の予想外の行動を取った。逃げたのだ。自分の部屋に向かって。

「ちょ、おいッ!待て!!」

 ‥‥‥ダメだ。俺の言葉が聞こえてない。仕方がない。念のため、【隠密】を発動させて追いかけるか。【隠密】というのは相手に察知されないように気配を消すスキルだ。よっぽどの実力差が無い限り、まず見破ることは出来ない。

 さて‥‥‥追いかけて追い越して俺が先に部屋に入ったあと、坊主が入って来た。暫くの間佇んでから床に座った。そして声を押し殺して

 脆い、脆すぎる。やる気にさせるどころか逆に心を折ってしまった‥‥‥。まさか心が折れるとは思わなかった‥‥‥どうしよう。

 ‥‥‥明日、謝っとくか‥‥‥。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

処理中です...