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しおりを挟む沈痛な面持ちの奈留くんに風呂に入れてもらって(乾かすまで全部やってくれた)、漫画を貸してもらって、奈留くんの部屋のベッドに寝転びながら読んでいる。
奈留くんは最初に出会った頃並に口数が減ってはいるものの、おれにピッタリくっ付いて離れようとしない。
この人本当に奈留くんか?
俺が気付かないうちに宇宙人と入れ替わったりしてない?
奈留くんは撮られた写真を消す方法がないかネットで調べているみたいだ。
身元特定されてないから今後はち合わせなきゃセーフじゃね? と思ってるおれはそれほど大事だと考えていない。まあ何とでもなるだろ、人生そんなもんだ。
ちなみに借りたのは少女漫画だ。男子同士の恋愛を扱ったやつもあるって言うから勉強したい見して~って言ったら何故か歯をギリギリさせながら出してきてくれた。何その感情表現。
さて、気になるその内容と言えば──うん、何というかすっげー爛れてた。
「女子すげえな……女子の考えるエロってこんな感じなんだ……」
「……そうだね」
「なーなんで空に文字浮かんでんの?」
「それはモノロー……あー、主人公の考えてることを空いたスペースに書いてるの」
「ほえー初めて見た」
「少年漫画にはあんま無いね」
漫画の中では彼氏と一緒に出かけてる姉をいい仲のやつだと勘違いした主人公が雨の中を突っ走っている。
おれにはちょっと理解できなかった。普段あんだけイチャコラしといて何で自分と付き合ってるとこから疑い始めてるんだこの青年は。
しかしおれももしかしたら奈留くんが女子と一緒に仲良くしてたらソワソワするのかもしれない。と、奈留くんとクラスメイトの女子が楽しくお喋りする現場を思い浮かべてみたけど前例からしてイメージ出来なかった。
奈留くんが誰かと喋ってるところ、告白するまで見たことなかったんだよ。
何なら今ですらおれ以外と話してるところ一切見ない。
あとやっぱおれならそのまま突撃して一緒に話したくなりそうだ。うん、わからん。
結局青年がどうなったのかは分からなかった。「もう寝なさい」と隣のオカンに本を取り上げられたからだ。
「おやすみー奈留くん」
「…………ん」
折角隣にいるんだしと自分から距離を詰めた。肩が触れて暖かい。
さっきまでこの男とどえらい事してたんだなあと思うとむず痒いような歯の座りが悪いような気分だ。
奈留くんはどう思ってるんだろう? 申し訳なさは痛いほど伝わって来るけど。多分初めてだよな?
あの動揺ぶりで非童貞だったら困惑するぞおれは。
チラリと奈留くんを盗み見てみる。
奈留くんはガッチガチに硬直していた。
なんだ。お前も今じわじわ来てるのか。
思わずへばりつこうと身体ごと奈留くんに向いたら「顔擦れるでしょ、やめな」と元に戻された。ガーゼまみれでしたねそういや。
治ったらまた一緒に寝てくれないかな。
翌日、一度家に行ってから病院に向かった。身分証持ってなかったからね。
何と奈留くんまで学校を遅刻して付き添ってくれたのだ。マジで誰だこいつ。
おれの家を見た奈留くんは、「え、物置……?」とシンプルに失礼な感想を宣った。二階無いけど一軒家だぞ、十分立派じゃん全く。
まあ学校に遅刻の連絡入れてくれたのもこの失礼な彼氏なので文句は言わないでおいてやる。
左手は骨折してたけど鼻とかは青痣だけで特に折れてはなかった。
昨日はそんなでもなかったけど左目の瞼が腫れて目があかなかったので眼帯を貰った。ちょっとかっこよくない!? とはしゃいでいたら奈留くんに頭を叩かれた。
そうして病院を出て学校に戻ったらもう昼休みだった。
二人で教室に入ると木ノ重がおれに気付いて悲鳴を上げた。
「えっクロやんどうした!?」
「喧嘩しちゃった」
「何やってんだよ……」
吾妻も何だか泣きそうな顔してる。左腕がちょっと仰々しい感じになっちゃったからかな。
おれは奈留くんに手を振ってから吾妻の席まで行った。
「お陰様で昼飯食いっぱぐれた~」
「留目と一緒に来てたよな」
「あいつも昼飯抜きです」
「可哀想に!!」
飯の為に学校に来てると言っても過言じゃない木ノ重が心からの同情を寄越している。
吾妻が買ってきたパンをひとつ分けてくれるらしい。神様!
奈留くんと半分こするわ、と礼を言って離れようとしたら、背中に隙間なく身体を付けてくる奴がいた。
「彼氏と二人で遅刻したんだ? 何? SMプレイでもしてたのか?」
「…………楡」
「あいつそんな性癖なんだ? なあお前とどっちが女になってんの?」
両手を吾妻の机についておれを背後から囲いこんだ楡は、わざと片方の膝をおれの股に擦り付けている。
いつもはこういうおふざけに乗りがちな木ノ重すら「お前マジいい加減にしろよ!」と怒ってくれてる。吾妻の表情からも普段の温厚そうな雰囲気が完全になりを潜めてかなり不快そうだ。
「……楡さあ、お前のねえちゃん彼氏出来たんだってな」
「それが何」
「お前部屋隣なんだろ、声聞こえないの? どんな感じか教えてよ」
「テメェふざけてんじゃねえぞ!」
おもっくそ背中を押された。机が腹に食い込んで痛い。病み上がりだぞ大事にしろ。
「楡が言ったの、こういう事だよ」
「……ッ!」
「もう言わないよな、楡」
「…………っうるさ、」
瞬間、楡は吹き飛んだ。
おれも木ノ重も吾妻も、まばらに居たクラスメイトも全員が息を詰めておれの背後を凝視している。
背の高い眼鏡の男。
不機嫌そうに眉を寄せ、倒れた楡を見下ろす、おれの彼氏。
「……人のもんに許可なく触らないでくれない?」
おれは驚き過ぎてうっかり吾妻から貰ったメロンパンを握り潰した。
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