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第二章 吸血鬼編

第50話 帰り道 ①

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 シスターさんを背負いながら、朝の荒野を歩いていた。
 後ろからは、メグがついてくる。
 俺の歩く速さは結構速いらしく、メグは小走り気味になっていた。
 とりあえず、歩く速度を緩めてみる。

「だ、だいじょうぶですから」

 メグはそう言うが、結構息が上がっていた。
 そういえば、メグは背が小さい。
 150センチくらいだろうか。
 歩く歩幅も短いので俺より歩数がかさむ分、大変なのかもしれない。

 まあ、急いでいるわけでもないし、無駄話でもしながらゆっくり帰ろうと思った。

「…………」

 しかし、出てこないんだな。
 話題が。
 ちょっとコミュ障も患っているし。
 15歳位の女の子との話題なんて思いつかない。
 共通の話題なんてあるわけないし。
 だいたい15歳って中学生だっただろうか。
 というか、俺が15歳だと勝手に思い込んでいるけど、この子いくつなんだろうか。

「メグっていくつなの?」

「え? 歳ですか?」

 年齢とか聞くのはダメなんだろうか。
 中学生くらいなら聞いても問題ないよね?
 いや、中学生に何かを聞く時点でお巡りさんが飛んで来る気がする。
 中学生には近寄らないほうがいいのだ。
 もはやヤクザより怖い存在と言っても過言ではない。

「16歳ですよ」

 しかし、メグはあっさり答えてくれた。
 しかもニコっと笑いながら。
 16歳というと中学生ではなく高校生だろうか。

「よくもっと子供っぽいって言われるんですけど、意外と大人なんですよ? ごしゅじ……コウさまもおなじくらいですよね?」

 同じくらいなわけない。
 俺は30超えているのだが。
 ただ、ややこしいことに見た目は高校生くらいなのだ。
 その理由を説明するのは面倒くさい。
 しかも、ルーナが他の人に話しちゃダメとか言ってた気がする。

「……そうだな。俺も16歳だ」

 なのでサラッと年齢詐称してみた。

「やっぱり! うわあ、わたし同い年の男の子と話すのってすっごく久しぶりです」

 メグは俺を見上げながら、嬉しそうにしている。
 よく笑う子だなと思った。
 ホントについ昨日まで悲惨な目にあっていたとは思えない。

「わたしちっちゃい頃に、家が貧乏だったので、奴隷商人に売られちゃったんです。その後、お金持ちのおじさんに買ってもらったり、山賊に誘拐されたりしてたんで、同い年の男の子と話すのってなかなかなくて」

 メグはぺらぺらと楽しそうに喋っている。
 ただ、内容がすっごく重い。
 そんなかわいい笑顔で言われると胸が痛くなる。
 なぜってもしも奴隷商人がこんな子を連れてきて、買うか? と言われたら買ってしまう気がするからだ。
 というか、お金持ちのおじさんはメグに何をしたんだろう。
 まだあどけなさすら残るメグを見ていると、そんな事が気になって仕方ない。
 たださすがに聞くのは不味いだろう。

「お金持ちのおじさんにどんなことされたんだ?」

 って、うおおおい!
 以前もあった気がするが、気づいた時には口に出していた。
 腹芸ができない。
 これもコミュ障の一部なのだろうか。

「……そのことは、夜になったらゆっくり紹介します。それとも、いまここでしますか?」

 少し恥ずかしそうにメグは俺を見つめる。
 その瞬間、ドクンと何かが高鳴った。
 言っておくが、俺は断じてロリコンではない。
 完全なお姉さん派だ。
 ただ、今、何かオープン・ザ・ゲートをしてしまいそうになった。
 自分の順応性の高さにびっくりだ。

「ご、ごめんなさい。はしたなかったです。……けがらわしいですか?」

 メグは不安そうにチラチラと俺を見る。

「全然、汚らわしくない!」

 メグが可愛かったので、反射的に答えていた。
 本気で汚らわしいとは思わないが、むしろあざとい。
 メグの喋り方は、全体的にどこか舌足らずな感じがする。
 そこがまたあざとい。

「よかったです!」

 メグは駆け寄ってくると、ぎゅっと俺の服の裾を掴んだ。

「まえ、お金持ちのおじさんに飼われている時に、よくおじさんの奥さんに言われたんです。けがらわしいって。意味はよくわかんないんですけど。きっと悪口だと思うんですよね」

 メグはまたもにこにこしながら、重い事を言い始める。
 うーん。
 そのうちなんとかしないといかんなと思った。
 このままでは、全力で幸せにしてあげたくなってしまう。


 そんなこんなで、メグと会話しながら散歩するようなノリで家路を歩いた。
 ゆっくり歩いたお陰か、最初に比べるとメグも楽そうだ。

 俺はシスターさんを背負って、同時に財宝などが詰まった大きな袋を片手で持っていた。
 メグが何度も袋を持つのを手伝わせてくれと言うので、試しに渡してみたら、持ち上げることすらできなかった。

「……ご主人様に荷物を持たせて、わたしが手ぶらなんて奴隷失格です」

 メグがしょんぼりとそんなことを言う。
 なんかまだ勘違いしている。

「俺はご主人様ではないし、お前は奴隷じゃない」

 なのではっきりと言っておく。
 別に奴隷としてメグを拾ったわけではない。
 うちの近所に家を建ててやるが、その後は自立して貰うつもりだ。

「……そんなことを言ってくれるご主人様ははじめてです。しかも、若くてかっこいいなんて……」

 メグは頬を真っ赤にさせながら、そんな事を言っていた。
 だからご主人様じゃねえって言ってんのに。

 俺が再度、メグを注意しようと――その時だった。

「うわっ」

 地面が急に揺れ始める。
 地震だろうか。
 いや、何かが下から出てくる。

 地面が盛り上がって、黒い虫のような物が這い出てきた。
 大きなハサミに長いトゲのついた尻尾。
 全身は地べたを這うように低くした虫。
 それはまるで――。

「お、大サソリです!」

 メグが怯えながら叫ぶ。

 俺達の目の前に出現したものは、でっかいサソリだった。
 全長、5、6メートルはあるだろうか。

「この辺りで一番危険なモンスターです。すっごくつよいらしいです!」

 確かに強そうだ。
 その時、大サソリはいきなり尻尾を振り下ろしてきた。
 遥か頭上から、黒いトゲ付きの尻尾が落ちてくる。

 咄嗟に持っていた袋を落として、代わりにメグを抱えて、避けた。
 結構、ギリギリのタイミングだった。

 大サソリの尻尾は地面に突き刺さるが、すぐに振り戻される。

 そして、再びの振り下ろし。

 必死に避ける。

 俺はシスターさんを背負って、メグを抱えているので両手が塞がっている。
 このままでは、大サソリの尻尾を避けるのに精一杯で反撃する手段がない。

「わ、わたしなんてその辺に放り投げてください!」

 抱えられたメグがそんな事を言っている。
 しかし、そんな事できるわけない。

 俺は再度サソリの尻尾を避けた。

 尻尾が地面に突き刺さる。

 その瞬間。

 思い切り力を込めて、尻尾を蹴飛ばしてみた。

 ぐしゃり。

 液体が詰まったものが潰れるような音がして、サソリの尻尾が吹き飛ぶ。

 サソリが苦しそうに悶える。

 その隙に、俺はシスターさんとメグを抱えたまま、サソリの顔の近くに潜り込む。

 そのまま、サッカーのシュートを決めるようにサソリの顔を蹴飛ばした。

 サソリの顔は跡形もなく吹き飛んだ。

『30ポイントの経験値を獲得しました。』

 素手であっさり勝利できた。
 筋力ブーストは蹴りにも有効みたいだ。
 というか、このところどんどん脳筋化してきてヤバイ。

「……ごしゅ、コウさますごいです。このサソリはすっごくつよいって山賊たちが言っていたのに」

 メグは抱えられたまま、上目遣いで俺を見つめる。
 その目はキラキラしていた。
 まあ、俺一人に全滅させられるような山賊が強いと言うモンスターなんてたかがしれている。
 経験値的には結構旨かったが。
 というか、サソリを蹴飛ばしたせいで、ズボンの脛の部分にサソリの体液がべったりついている。
 なんか変な臭いがする。
 どうしよう。すごく洗いたい。

 そんな時、背負ったシスターさんが僅かなうめき声をあげるのが聞こえた。
 激しく動いたせいで、起こしてしまったのだろうか。

「…………み、水を」

 シスターさんが苦しそうに言う。
 いつもなら、よし来た! とばかりに、水魔法を使うのだが、今の俺は魔法を使えない。
 というか、水も持たずに荒野を歩くって結構ダメな気がしてきた。

「コウさま、あっちに川がありますよ?」

 メグが指差す方向に目を向けると、たしかにキラキラと陽の光を反射している川が見える。
 そんなに遠くはない。

 というか、メグを抱えたままだったので、地面に下ろしてやった。

 シスターさんは苦しそうに呻いているので、とりあえず川に向かうことにした。
 俺もズボンを洗いたいし。
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