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クリスティーナ・ベルモント

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私はクリスティーナ・ベルモント。

以前は貴族だったが、今は庶民として姉の仕事の補佐をしている。

補佐というか主に姉がやるべき仕事をしている。

現在お金には困っていないが、悩みはある。姉のエリザベスについてだ。

かつては、私たちは仲良く過ごしていた。

しかし、両親が急な病で亡くなった後、姉は変わってしまった。

姉は父の遺産をすべて一人で相続し、自分が貴族としての地位を維持するために使用した。

ちなみに、私には、姉から庶民が一ヶ月暮らせるだけのわずかなお金が渡されただけだった。

姉は両親が亡くなった後も、以前と暮らしぶりを変えず遊んでばかり。

お金は出ていく一方だった。

にもかかわらず、貴族としての仕事はしない。

相続に関わる手続きも、領地の視察も、帳簿の確認も、私に押し付けた。

急に貴族家の仮当主となった世間知らずの姉には、遠い親戚や古い友人が急に金の無心に来るようになった。
姉はそんな人たちにも、警戒心なく近づいてしまう。

私が慌てて私が追い払ったが、姉は「私が皆から愛されるのが許せないのね」なんて頓珍漢なことを言う。

貴族としての仕事が嫌ならば、結婚で婿を迎えるべきだ。

私がそう言うと「私に家のためだけに愛のない政略結婚を強いるつもりなのね」と姉は言う。

美しい姉は結婚相手に対する理想が高く、政略結婚は嫌なのだろう。

私が助言をすればするほど、姉は被害者のような顔をする。

私は、姉に何をしても憎まれるのだと悟った。

それでも、姉に対して何か言わずにはおけなかった。

ただ黙って、ベルモント家が傾くの見ているだけにはできなかった。

私は、ベルモント家の経営の仕事をしながらも、自分がいつか一人でも暮らせるようお金を貯めておくのだった。


***********


最近、姉の機嫌が良い。

仮当主にしかできない領地の視察を後回しにする姉を何とかなだめて外出させたことがあったが、その帰り道に、街で人気の『若き騎士』エドワードに出会ったのだという。

見目だけは良い姉のことだ。街を歩いている時に、エドワードの目に留まったのだろう。

エドワードは悪い噂は聞かないし、貴族家の次男だ。

交際相手としては申し分ないので、私は傍観の姿勢を貫いた。


**********


私が姉の家を訪問する日、姉の隣にはエドワードが寄り添っていた。

結婚の報告かな?私は何事かと様子を伺いつつ、姉に話しかける。

「姉さん、そろそろ仕事の時間よ。それと、隣の方はどなた?」

「ごめんなさい、クリスティーナ。私はあなたの言う通りに政略結婚はできないわ。」

姉は言い切ったあと、満足そうな顔をした。

この姉は、会話になっていないことに気がついているんだろうか?

私はハッとした。
わざわざエドワード様をはべらせているし、姉は何かアクションを起こそうとしている?

姉が私のことを方々で悪く言っているのは知っている。おそらくこのエドワード様にも。

私はあえてエドワード様の前でも、いつも通りの私たちの様子を見せることにした。

不満そうな声を作る。

「姉さんはそれで大丈夫だとでも思っているの?隣の彼に何か言われたの?」

「いいえ。これは私の意思よ。あなたはもうここから出て行ってちょうだい」

姉は少し強い口調で答えた。

私は納得した。姉はエドワード様を寄生先に決めたのだ。

私は両手をあげて喜びたい気持ちを隠すために、はぁと息を吐き出した。

「それなら私はもう出ていくわ。お幸せに。」

私はそういうと、ある程度まとめて合った荷物を持つと、数時間のうちに出ていった。

この時のためにお金は十分に貯めてある。今夜は宿をとり、明日は家を探そう。

仕事のめどもついている。

やっかいな姉はお人好しなエドワード様に任せよう。

私はすっきりとした気分で、足取りも軽く街を歩くのだった。
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