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第五章 お姉様
第八十九話 襲撃(ライナード視点)
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今日、姉上が目を覚ましたと連絡があった。しかし、未だ錯乱状態らしく、面会はできないと言われ、すごすごと立ち去ることとなった。
(早く、フィロを見つけなければっ)
姉上だけではない。リドルの方も、まだ狂ってはいないものの、狂うのも時間の問題と思えるほどに行動がおかしくなっているらしい。やはり、こちらも面会できず、俺は胸を痛めることしかできなかった。
(カイトの占い通りなら、一週間の間に何かが起こるとも思える結果だったが……)
リリス嬢曰く、自分が関わる事柄で占って、外したことはないというカイトの占い。それがどこまで本当なのかは分からないが、それを信じたい気持ちは強かった。
外の見廻り業務を終えた俺は、貴族としての仕事をこなそうと、一度屋敷に戻る。
(今日も、被害者の手がかりはなし、か……)
ニナの両親の情報もニナから聞き出し、その住居を特定したものの、彼らはすでにそこにはいなかった。そして、ドム爺も、リュシリーも、未だ見つからない。
「ライナード様っ!」
屋敷に戻れば、ノーラが珍しく慌てた様子で走ってくる。
「何があった?」
ただごとではないと、すぐに判断した俺がそう問えば、ノーラは、息を調える間もなくその言葉を発する。
「執事長達がっ」
と、次の瞬間、屋敷の中で爆音が響いた。
「っ、すぐに他の騎士達を連れてこいっ。俺は、中に踏み込むっ」
「ご武運を!」
何が起こっているのかは分からないが、少なくともここにドム爺が居ることは分かった。しかも、恐らくは未だ魅了されたままのドム爺が、だ。
「ドム爺!」
「どこに、ニナ様は、どこに……」
「愛しいあの方は、どこ……?」
破壊された部屋は、カイトの部屋だった。そして、そこでは、ドム爺とリュシリーが虚ろな目でブツブツと呟き続けている。
(激辛君とやらを持っていて良かった)
騎士達に支給された激辛君昇天錠という名前の悪意が籠っているとしか思えない薬は、魅了の解除に使える薬だ。今、俺はそれを三錠ほど持っている。問題は、この二人が易々と薬を飲んでくれるか、ということだった。
「どこに、どこに隠したっ」
ドム爺のその気迫に、俺は顔をしかめながら、光の魔法を発動させる。
「《硬質なる光よ》」
その瞬間、俺の右手には、光の棒が握られていた。本来は、剣なり槍なりを出現させる魔法だが、今回は、これで良い。
「《清涼なる水よ》」
「《吹き荒ぶ風よ》」
ただ、二人が発動した魔法は、こちらを殺しにかかってきているものであった。少しでもかすれば斬れる水の線がいくつも展開し、それに重ねるようにして風の刃が飛び交う。
「《堅牢なる光よ》」
とりあえず、こちらに向かってきている分だけを光の結界で弾いた俺は、そのままドム爺の方へと突っ込む。
「《流れたゆたう水》「《絡まる光よ》」」
ドム爺の詠唱が終わる前に、俺は魔法を発動させ、ドム爺を光の鎖で拘束する。
「《荒れ狂う風よ》」
しかし、その間に、リュシリーの詠唱が完了し、再び屋敷の中で爆音が巻き起こる。リュシリーの風魔法が、屋敷の屋根を吹き飛ばしたのだ。当然、俺もドム爺も吹き飛ばされるが、俺はドム爺を抱えて、どうにか受け身を取る。
(カイトの部屋が……早めに、修理しなければならないな)
せっかくカイトのために揃えた衣装も、今は無惨な有り様で、俺は残念に思いながら、風を操ってこちらに飛んできたリュシリーへと棒を打ち込む。
「っ!」
仕留めたとでも思っていたのか、油断していたらしいリュシリーは、棒を腹に食らって、そのまま吹き飛ぶ。
「すまない。すぐに治療はする」
そう言いながらも、俺はリュシリーも拘束し、二人に激辛君を飲ませて……そのあまりにも強烈な味に、悲痛な叫びを上げる二人から目を逸らすのだった。
(早く、フィロを見つけなければっ)
姉上だけではない。リドルの方も、まだ狂ってはいないものの、狂うのも時間の問題と思えるほどに行動がおかしくなっているらしい。やはり、こちらも面会できず、俺は胸を痛めることしかできなかった。
(カイトの占い通りなら、一週間の間に何かが起こるとも思える結果だったが……)
リリス嬢曰く、自分が関わる事柄で占って、外したことはないというカイトの占い。それがどこまで本当なのかは分からないが、それを信じたい気持ちは強かった。
外の見廻り業務を終えた俺は、貴族としての仕事をこなそうと、一度屋敷に戻る。
(今日も、被害者の手がかりはなし、か……)
ニナの両親の情報もニナから聞き出し、その住居を特定したものの、彼らはすでにそこにはいなかった。そして、ドム爺も、リュシリーも、未だ見つからない。
「ライナード様っ!」
屋敷に戻れば、ノーラが珍しく慌てた様子で走ってくる。
「何があった?」
ただごとではないと、すぐに判断した俺がそう問えば、ノーラは、息を調える間もなくその言葉を発する。
「執事長達がっ」
と、次の瞬間、屋敷の中で爆音が響いた。
「っ、すぐに他の騎士達を連れてこいっ。俺は、中に踏み込むっ」
「ご武運を!」
何が起こっているのかは分からないが、少なくともここにドム爺が居ることは分かった。しかも、恐らくは未だ魅了されたままのドム爺が、だ。
「ドム爺!」
「どこに、ニナ様は、どこに……」
「愛しいあの方は、どこ……?」
破壊された部屋は、カイトの部屋だった。そして、そこでは、ドム爺とリュシリーが虚ろな目でブツブツと呟き続けている。
(激辛君とやらを持っていて良かった)
騎士達に支給された激辛君昇天錠という名前の悪意が籠っているとしか思えない薬は、魅了の解除に使える薬だ。今、俺はそれを三錠ほど持っている。問題は、この二人が易々と薬を飲んでくれるか、ということだった。
「どこに、どこに隠したっ」
ドム爺のその気迫に、俺は顔をしかめながら、光の魔法を発動させる。
「《硬質なる光よ》」
その瞬間、俺の右手には、光の棒が握られていた。本来は、剣なり槍なりを出現させる魔法だが、今回は、これで良い。
「《清涼なる水よ》」
「《吹き荒ぶ風よ》」
ただ、二人が発動した魔法は、こちらを殺しにかかってきているものであった。少しでもかすれば斬れる水の線がいくつも展開し、それに重ねるようにして風の刃が飛び交う。
「《堅牢なる光よ》」
とりあえず、こちらに向かってきている分だけを光の結界で弾いた俺は、そのままドム爺の方へと突っ込む。
「《流れたゆたう水》「《絡まる光よ》」」
ドム爺の詠唱が終わる前に、俺は魔法を発動させ、ドム爺を光の鎖で拘束する。
「《荒れ狂う風よ》」
しかし、その間に、リュシリーの詠唱が完了し、再び屋敷の中で爆音が巻き起こる。リュシリーの風魔法が、屋敷の屋根を吹き飛ばしたのだ。当然、俺もドム爺も吹き飛ばされるが、俺はドム爺を抱えて、どうにか受け身を取る。
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せっかくカイトのために揃えた衣装も、今は無惨な有り様で、俺は残念に思いながら、風を操ってこちらに飛んできたリュシリーへと棒を打ち込む。
「っ!」
仕留めたとでも思っていたのか、油断していたらしいリュシリーは、棒を腹に食らって、そのまま吹き飛ぶ。
「すまない。すぐに治療はする」
そう言いながらも、俺はリュシリーも拘束し、二人に激辛君を飲ませて……そのあまりにも強烈な味に、悲痛な叫びを上げる二人から目を逸らすのだった。
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