上 下
85 / 121
第五章 お姉様

第八十四話 土下座から始まる謁見

しおりを挟む
(どうするっ? 土下座っ、土下座だよなっ?)


 ライナードの後ろに付き従うことしかできない俺は、混乱の真っ只中にあった。そして……。


「来たか」

「申し訳ありませんでしたぁぁぁあっ!」


 魔王陛下の言葉が聞こえた途端、俺は精一杯の土下座を展開する。
 水を打ったように静まり返る謁見の間。俺はもちろんのこと、誰一人として微動だにすることはない。


「……ライナード、説明しろ」

「私にも、何が何だか……?」


 そして、広い謁見の間で繰り出される小声の会話。しかし、小声とはいえ、今は周りが沈黙しているため、やけに大きく聞こえる。


「カ、カイト? 何を謝ってるんだ?」


 本気でわけが分からない、といった様子のライナードの声に、俺はそっと顔を上げかけて……。


(見てるっ、めっちゃ見てるっ!?)


 魔王陛下がこちらを凝視していることに気づき、再び目を伏せる。


「あ、あの、その……私、勇者一行と一緒に居て、その……」


 そこまで言えば、さすがに事態を理解したのか、ライナードと魔王陛下が揃って『あぁ……』と声を出す。


(あれ? 謝ったは良いけど、俺、これからどうなるんだ? ……首ちょんぱとか……い、いや、それは、できれば、勘弁してほしい……)


 と、そんなことを考えている時だった。


「んゆ……」


 ライナードに背負われていたニナが目を覚まして……。


「……カイトおねえちゃん?」


 俺が土下座している場面を目撃してしまったのだ。そして、みるみるうちに、その目に涙を溜めると……。


「……めっ! カイトおねえちゃん、いじめりゅの、めっ!」

「むっ!? い、いや、誰もカイトをいじめては」

「めーっ!!」


 ライナードの頭をぽかぽかと叩くニナは、完全に誤解をしていた。


「ニ、ニナ? 私は別に、いじめられたわけではないんですよ?」

「めーっ! めーっ、なのーっ!」


 慌ててライナードをフォローするものの、ニナが聞いてくれる様子はなく、しばらく、謁見の間は混乱するのだった。







「ふっ、面白いものを見せてもらった」


 ようやく、ニナが俺の言い分に納得してくれたところで、魔王陛下がクツクツと笑っている様子が目に入る。


「あぁ、そうだ。リクドウ嬢。お前に関して咎めるつもりはない。だから、そこまで萎縮する必要はないぞ?」

「えっ?」

(えっ? いや、俺、あなたを殺そうとした一味なんだけど!?)

「大丈夫だ、カイト。カイトの存在はイレギュラーだったが、あの勇者一行の行動は、それなりに想定されていた」

「……そういえば、死んだふり……」


 ライナードにまで諭されて、俺はようやく、魔王陛下が始めから勇者一行の存在を知っていて、死んだふりをしたという事実を思い出す。


「まぁ、そうだな。それには色々と理由はあるが、今は明かせない」

「は、はい」


 そりゃあ、一国の王が死んだふりをするなんて、ただごとではないだろう。ただの一般庶民な俺は、そこまで突っ込むつもりはない。


「それで? ライナード。用件は何だ?」

「はっ、カイト達を受け入れてもらえたことに感謝を」

「あぁ。だが、こちらにも協力してもらうぞ? リクドウ嬢が魅了の力を抑えているという現状が、どのような力によるものか、検証させてもらう」

「御意」

(あぁ、そういえば、俺の側ならニナの力は暴走しないんだよな……検証……実験かぁ……血を採られたりするのかなぁ?)


 どんな検証をするのかは分からないが、魔王陛下のこんな調子を見ていると、そう悪いものではないだろうと思える。


「ぎゅー」


 ちなみに、ニナは寂しくなったのか、今は俺に引っ付いて離れない。


「リクドウ嬢。もし良ければ、俺の妻とも仲良くしてほしい」

「はっ、はいっ!」


 ニナに気を取られている間に、話が進んだらしい。返事をした後に、俺はその言葉の意味を認識して、改めて緊張する。


(魔王陛下の妻といえば……噂の、ユーカ様?)


 同じ日本人に会えるかもしれない予感に、俺はこの部屋に入ってきた時とは別の意味で、ドキドキし始めるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

【完結】婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います

ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」 公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。 本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか? 義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。 不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます! この作品は小説家になろうでも掲載しています

処理中です...