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第五章 お姉様
第八十話 判明
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リリスさんとローレルさんが魅了使いに関する情報を持ってきたということで、ライナードはさっさと退席をしていく。
「カイトおねえちゃん、これ、おいしーの。あげゆっ」
「うん、ありがとう」
手で掴んだポテチを俺の口に運んでくるニナは、かなり可愛い。だから、こんな可愛い子を虐待した奴の気が知れなかった。
そうして、しばらくポテチを頬張って、ノーラが持ってきたお手拭きでしっかりと手を拭いたあと、ゴロゴロとしていたニナは……いつの間にか、スヤスヤと眠っていた。
「カイトお嬢様、ニナ様をベッドにお運びしましょうか?」
「うん、そうだな。さすがに、女の子一人を抱える力は私にはないからな」
ノーラに運ばれていくニナを見つめていると、ふいに、障子戸が勢い良く開け放たれる。
「っ、ノーラ! 今すぐその子をカイトの側に」
「っ、承知いたしました!」
障子戸を開けたのはライナードで、俺から離れていくノーラとニナを目にした瞬間、血相を変えて叫ぶ。
「ラ、ライナード?」
「んにゅう?」
わけの分からない指示を出したライナードは、俺の側にニナが運ばれたのを見て、ホッと息を漏らす。
「うゆぅ?」
「あっ……起こしちゃいましたね」
「う? カイトおねえちゃんっ!」
ライナードが大声を出したせいで、ニナを起こしてしまったと気付き、俺はライナードを軽く睨もうとするものの、その前にニナに抱きつかれる。
「カイトおねえちゃんっ、カイトおねえちゃんっ」
必死に抱きついてくるニナの様子に、俺は首をかしげながらも、オズオズと頭を撫でてやる。
「えへへ……」
(うん、可愛い)
そんなことを思っていると、バタバタと別の足音が聞こえてくる。
「速いですわよ。ライナードさん」
「はぁっ、何で、いきなり……」
どうやら、こちらに来たのはリリスさんとローレルさんだったらしい。ただし、ローレルさんは俺の方を見た瞬間、なぜか硬直する。
「ニナで、間違いないか?」
「た、しかに……そんな名前でした、ねぇ……」
「ローレル?」
ライナードの問いかけも、ローレルさんの反応も、意味が分からない。ただ、リリスさんもそれは同じらしく、仲間が居た、とちょっと思ってしまう。
「えぇっと、ですね? カイトちゃん? そこのニナちゃんは、魅了使いなんです」
「ふぅん…………え?」
ローレルさんの言葉で、俺とノーラ、そして、リリスさんの視線が一斉にニナへと注がれる。
「うゆ?」
しかし、ニナは自分が魅了使いだという自覚は、どう考えてもなさそうだった。
「どういう、こと?」
そうして、ライナードに事の詳細を尋ねれば、ローレルさんの記憶にあるゲームの内容を聞かされて、絶句することとなる。
「ニナが……処刑……」
「もちろん、そんなことはさせない」
ゲーム内の、あまりにも救いのない結末に、ショックを受けていると、ライナードは力強くそう断言してくれる。
「確か、このイベントがきっかけで、ヒロインが傷ついて、その心の傷を癒していくってストーリーだったと……思います」
自信なさげにそう言うローレルさん。
(いやいやいや、ニナを処刑なんて、絶対にさせないからなっ!?)
未だに会話の内容が分かっていないらしいニナは、まだ眠いのか、グリグリと俺の肩に頭を擦り付けてくる。
「五歳児にはとても見えませんが……成長促進魔法なんて、惨いことをしますわね」
「う? ……ぴっ」
寝惚けた目で、こちらにそっと近寄ってきたリリスさんを見たニナは、奇妙な悲鳴を上げて、モゾモゾと俺の後ろに隠れてしまう。
「「「…………」」」
それを目撃した俺達の間には、痛いほどの沈黙が流れる。
「え、えっと……リリスさん? ニナは、今、ちょっと人間不信になってるというか……」
「え、えぇ、分かっていますわ。不用意に近づいたわたくしが悪かったのですわ」
そう言いながらも、どこか残念そうにするリリスさんは、きっと、ニナと仲良くなりたいのだろう。ただ、俺の後ろで、俺に必死にしがみついて震えているニナに無理はさせられない。
「とりあえず、海斗の側ならその子も安全ですわ。わたくし達は、しばらくライナードと一緒に対策を考えて……あぁ、後、ルティをこちらに寄越して、ニナちゃんのことを診てもらうのも必要ですわね……とにかく、海斗はニナちゃんの側を離れないようにしていてくださいまし。後、警備も厳重にするのですわよ?」
「わ、分かった」
「む」
ハキハキと指示を出すリリスさんに従って、俺は、ニナの側に寄り添い、ライナード達は退出するのだった。
「カイトおねえちゃん、これ、おいしーの。あげゆっ」
「うん、ありがとう」
手で掴んだポテチを俺の口に運んでくるニナは、かなり可愛い。だから、こんな可愛い子を虐待した奴の気が知れなかった。
そうして、しばらくポテチを頬張って、ノーラが持ってきたお手拭きでしっかりと手を拭いたあと、ゴロゴロとしていたニナは……いつの間にか、スヤスヤと眠っていた。
「カイトお嬢様、ニナ様をベッドにお運びしましょうか?」
「うん、そうだな。さすがに、女の子一人を抱える力は私にはないからな」
ノーラに運ばれていくニナを見つめていると、ふいに、障子戸が勢い良く開け放たれる。
「っ、ノーラ! 今すぐその子をカイトの側に」
「っ、承知いたしました!」
障子戸を開けたのはライナードで、俺から離れていくノーラとニナを目にした瞬間、血相を変えて叫ぶ。
「ラ、ライナード?」
「んにゅう?」
わけの分からない指示を出したライナードは、俺の側にニナが運ばれたのを見て、ホッと息を漏らす。
「うゆぅ?」
「あっ……起こしちゃいましたね」
「う? カイトおねえちゃんっ!」
ライナードが大声を出したせいで、ニナを起こしてしまったと気付き、俺はライナードを軽く睨もうとするものの、その前にニナに抱きつかれる。
「カイトおねえちゃんっ、カイトおねえちゃんっ」
必死に抱きついてくるニナの様子に、俺は首をかしげながらも、オズオズと頭を撫でてやる。
「えへへ……」
(うん、可愛い)
そんなことを思っていると、バタバタと別の足音が聞こえてくる。
「速いですわよ。ライナードさん」
「はぁっ、何で、いきなり……」
どうやら、こちらに来たのはリリスさんとローレルさんだったらしい。ただし、ローレルさんは俺の方を見た瞬間、なぜか硬直する。
「ニナで、間違いないか?」
「た、しかに……そんな名前でした、ねぇ……」
「ローレル?」
ライナードの問いかけも、ローレルさんの反応も、意味が分からない。ただ、リリスさんもそれは同じらしく、仲間が居た、とちょっと思ってしまう。
「えぇっと、ですね? カイトちゃん? そこのニナちゃんは、魅了使いなんです」
「ふぅん…………え?」
ローレルさんの言葉で、俺とノーラ、そして、リリスさんの視線が一斉にニナへと注がれる。
「うゆ?」
しかし、ニナは自分が魅了使いだという自覚は、どう考えてもなさそうだった。
「どういう、こと?」
そうして、ライナードに事の詳細を尋ねれば、ローレルさんの記憶にあるゲームの内容を聞かされて、絶句することとなる。
「ニナが……処刑……」
「もちろん、そんなことはさせない」
ゲーム内の、あまりにも救いのない結末に、ショックを受けていると、ライナードは力強くそう断言してくれる。
「確か、このイベントがきっかけで、ヒロインが傷ついて、その心の傷を癒していくってストーリーだったと……思います」
自信なさげにそう言うローレルさん。
(いやいやいや、ニナを処刑なんて、絶対にさせないからなっ!?)
未だに会話の内容が分かっていないらしいニナは、まだ眠いのか、グリグリと俺の肩に頭を擦り付けてくる。
「五歳児にはとても見えませんが……成長促進魔法なんて、惨いことをしますわね」
「う? ……ぴっ」
寝惚けた目で、こちらにそっと近寄ってきたリリスさんを見たニナは、奇妙な悲鳴を上げて、モゾモゾと俺の後ろに隠れてしまう。
「「「…………」」」
それを目撃した俺達の間には、痛いほどの沈黙が流れる。
「え、えっと……リリスさん? ニナは、今、ちょっと人間不信になってるというか……」
「え、えぇ、分かっていますわ。不用意に近づいたわたくしが悪かったのですわ」
そう言いながらも、どこか残念そうにするリリスさんは、きっと、ニナと仲良くなりたいのだろう。ただ、俺の後ろで、俺に必死にしがみついて震えているニナに無理はさせられない。
「とりあえず、海斗の側ならその子も安全ですわ。わたくし達は、しばらくライナードと一緒に対策を考えて……あぁ、後、ルティをこちらに寄越して、ニナちゃんのことを診てもらうのも必要ですわね……とにかく、海斗はニナちゃんの側を離れないようにしていてくださいまし。後、警備も厳重にするのですわよ?」
「わ、分かった」
「む」
ハキハキと指示を出すリリスさんに従って、俺は、ニナの側に寄り添い、ライナード達は退出するのだった。
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