73 / 121
第五章 お姉様
第七十二話 忍び寄る魔の手
しおりを挟む
ライナードと手紙のやり取りをしながら、ひたすら待ち続けること三日。ライナードによると、まだアメリアさんは目覚めていないらしい。捜査の進展もなく、ただただ無為に時が流れていた。
「魅了って、結構厄介なんだなぁ」
そして、今の俺は、ライナードがどんなことをしているのかを知りたいということで、ライナードが捜しているという魅了使いがどんな存在かを調べていた。
『最初に魅了使いが発見されたのは、ヴァイラン魔国であったとされる。
当時の魔王は、次々に片翼を失い、狂う魔族が現れる現状を憂慮し、大々的な捜査に乗り出した。そして、多くの犠牲を払い、原因が後に『魅了』と名付けられる魔法を使った一人の魔族だということが判明する。
彼は、片翼を得られず、その魔法を無意識に行使していた。後に、その魅了使いは処刑され、魅了の魔法は禁術に指定されることとなる。
なお、この魔法への抵抗の手段としては、闇魔法への耐性が関係していると思われる』
何とも後味の悪い展開によって、魅了使いが処刑されたことまでを読んだ俺は、パタンと本を閉じる。
思うところは、色々とある。ライナードは無事なのだろうかとか、これからまだ、被害が出るんじゃないだろうかとか、アメリアさんが狂ってしまうのは嫌だとか……。
あんまりにも色々な思いが浮かんできたため、俺は近くに居たノーラに、それらのことをぶつけてみる。
「ライナード様は強い闇魔法への耐性をお持ちですので、万が一もあり得ないでしょう。光の魔法で魅了使いを拘束することも、ライナード様なら可能です。そして、被害の方は、今は何とも……アメリア様の件に関しても、まだ分からない状態と言えるでしょう」
そんな返答に、唯一、ライナードは大丈夫だという事実に安心する。他はまだまだ不安だし、何とかしたいという気持ちはあるのだが、きっと、俺が出てもどうにもならないだろう。
「失礼します。ノーラ、リュシリーを見ませんでしたか?」
そろそろライナードの手紙が来る頃だろうかと、転移ポストを眺めていると、ふいに、ドム爺がどこか焦った様子で入ってくる。
(いつもなら、俺に許可を取ってノーラ達と話すのに、珍しい)
リュシリーに何かあったのだろうかとぼんやり考えて、俺は二人のやり取りを見る。
「リュシリーならば、買い出しに出掛けたはずですが……そういえば、まだ戻っていませんね」
「そうなんです。それと、どうも追跡用の魔法具が壊れたらしく、今は場所も分からない状態でして……」
弱りきった様子のドム爺。そして、追跡用の魔法具とやらの存在に、少し引き気味になりながら、俺は口を開く。
「そんなにリュシリーが帰ってくるのが遅くなってるのか?」
「リュシリーが買い出しに出掛けたのは三時間ほど前ですので、さすがに遅いかと。いつもなら一時間以内に帰ってくるはずですので」
そう答えたノーラに、俺は、確かにそれは心配だとうなずく。
(何かトラブルに巻き込まれた、とか?)
「私はとりあえずここで大人しくしてるからさ、ドム爺、捜してきたら?」
「それは……しかし……」
本心では捜しに行きたいであろうドム爺は、それでも職務に忠実な側面が強いのか、俺の提案に渋い顔をする。
「私にはノーラが居るし、もしかしたら、リュシリーはどこかで怪我とかして、動けなくなってるかもしれないだろ? 片翼なんだから、早く捜してやりなよ。ライナードには私から伝えとくからさ」
まだ、片翼がどんな存在なのか、完全に理解したわけではないと思うが、それでも、片翼という存在が、魔族にとってはかけがえのない存在で、失えば狂うほど大切なのだということは理解している。
俺の言葉に、ドム爺はどんな想像をしたのか、顔を真っ青にさせる。
「申し訳ありませんっ。しばらく、外しますっ」
そう言って、ドム爺は素早く身を翻して去っていく。
(今日は、もう一通手紙を書くことになるな)
リュシリーを捜しにドム爺を向かわせたというだけの内容だが、書かないわけにはいかないだろう。きっと、ドム爺はすぐにリュシリーを見つけて帰ってくるはずだから、そんなに大した報告にはならなさそうだったが……。
しかし、ドム爺とリュシリーは、その日の夜になっても帰ってくることはなかった。
「魅了って、結構厄介なんだなぁ」
そして、今の俺は、ライナードがどんなことをしているのかを知りたいということで、ライナードが捜しているという魅了使いがどんな存在かを調べていた。
『最初に魅了使いが発見されたのは、ヴァイラン魔国であったとされる。
当時の魔王は、次々に片翼を失い、狂う魔族が現れる現状を憂慮し、大々的な捜査に乗り出した。そして、多くの犠牲を払い、原因が後に『魅了』と名付けられる魔法を使った一人の魔族だということが判明する。
彼は、片翼を得られず、その魔法を無意識に行使していた。後に、その魅了使いは処刑され、魅了の魔法は禁術に指定されることとなる。
なお、この魔法への抵抗の手段としては、闇魔法への耐性が関係していると思われる』
何とも後味の悪い展開によって、魅了使いが処刑されたことまでを読んだ俺は、パタンと本を閉じる。
思うところは、色々とある。ライナードは無事なのだろうかとか、これからまだ、被害が出るんじゃないだろうかとか、アメリアさんが狂ってしまうのは嫌だとか……。
あんまりにも色々な思いが浮かんできたため、俺は近くに居たノーラに、それらのことをぶつけてみる。
「ライナード様は強い闇魔法への耐性をお持ちですので、万が一もあり得ないでしょう。光の魔法で魅了使いを拘束することも、ライナード様なら可能です。そして、被害の方は、今は何とも……アメリア様の件に関しても、まだ分からない状態と言えるでしょう」
そんな返答に、唯一、ライナードは大丈夫だという事実に安心する。他はまだまだ不安だし、何とかしたいという気持ちはあるのだが、きっと、俺が出てもどうにもならないだろう。
「失礼します。ノーラ、リュシリーを見ませんでしたか?」
そろそろライナードの手紙が来る頃だろうかと、転移ポストを眺めていると、ふいに、ドム爺がどこか焦った様子で入ってくる。
(いつもなら、俺に許可を取ってノーラ達と話すのに、珍しい)
リュシリーに何かあったのだろうかとぼんやり考えて、俺は二人のやり取りを見る。
「リュシリーならば、買い出しに出掛けたはずですが……そういえば、まだ戻っていませんね」
「そうなんです。それと、どうも追跡用の魔法具が壊れたらしく、今は場所も分からない状態でして……」
弱りきった様子のドム爺。そして、追跡用の魔法具とやらの存在に、少し引き気味になりながら、俺は口を開く。
「そんなにリュシリーが帰ってくるのが遅くなってるのか?」
「リュシリーが買い出しに出掛けたのは三時間ほど前ですので、さすがに遅いかと。いつもなら一時間以内に帰ってくるはずですので」
そう答えたノーラに、俺は、確かにそれは心配だとうなずく。
(何かトラブルに巻き込まれた、とか?)
「私はとりあえずここで大人しくしてるからさ、ドム爺、捜してきたら?」
「それは……しかし……」
本心では捜しに行きたいであろうドム爺は、それでも職務に忠実な側面が強いのか、俺の提案に渋い顔をする。
「私にはノーラが居るし、もしかしたら、リュシリーはどこかで怪我とかして、動けなくなってるかもしれないだろ? 片翼なんだから、早く捜してやりなよ。ライナードには私から伝えとくからさ」
まだ、片翼がどんな存在なのか、完全に理解したわけではないと思うが、それでも、片翼という存在が、魔族にとってはかけがえのない存在で、失えば狂うほど大切なのだということは理解している。
俺の言葉に、ドム爺はどんな想像をしたのか、顔を真っ青にさせる。
「申し訳ありませんっ。しばらく、外しますっ」
そう言って、ドム爺は素早く身を翻して去っていく。
(今日は、もう一通手紙を書くことになるな)
リュシリーを捜しにドム爺を向かわせたというだけの内容だが、書かないわけにはいかないだろう。きっと、ドム爺はすぐにリュシリーを見つけて帰ってくるはずだから、そんなに大した報告にはならなさそうだったが……。
しかし、ドム爺とリュシリーは、その日の夜になっても帰ってくることはなかった。
21
お気に入りに追加
2,087
あなたにおすすめの小説
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
まさか、こんな事になるとは思ってもいなかった
あとさん♪
恋愛
学園の卒業記念パーティでその断罪は行われた。
王孫殿下自ら婚約者を断罪し、婚約者である公爵令嬢は地下牢へ移されて——
だがその断罪は国王陛下にとって寝耳に水の出来事だった。彼は怒り、孫である王孫を改めて断罪する。関係者を集めた中で。
誰もが思った。『まさか、こんな事になるなんて』と。
この事件をきっかけに歴史は動いた。
無血革命が起こり、国名が変わった。
平和な時代になり、ひとりの女性が70年前の真実に近づく。
※R15は保険。
※設定はゆるんゆるん。
※異世界のなんちゃってだとお心にお留め置き下さいませm(_ _)m
※本編はオマケ込みで全24話
※番外編『フォーサイス公爵の走馬灯』(全5話)
※『ジョン、という人』(全1話)
※『乙女ゲーム“この恋をアナタと”の真実』(全2話)
※↑蛇足回2021,6,23加筆修正
※外伝『真か偽か』(全1話)
※小説家になろうにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる