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第三章 閉ざされた心

第三十九話 呼び掛け(リリス視点)

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 ドム爺と呼ばれる使用人の魔族について行き、通されたのは和室だった。障子が真新しい様子が少し気になりはしたものの、とりあえず、中に入り、布団の横でじっと座り込むライナードさんへと挨拶してみる。


「お初にお目にかかります。わたくし、ルティアスの片翼のリリス・バルトランと申しますわ」

「わ、私は、ローレル・オブリコ。ジェドの片翼です……わー、本物のライナードさんだぁ……」


 ローレルさんは、どうもライナードさんのことも知っている様子で、目をキラキラと輝かせている。


(続編については、後でしっかりと聞き出しましょうか)


 どうも、続編とやらはこのヴァイラン魔国の面々が関わってくるらしいということくらいしか分からないわたくしは、この用件が終われば、しっかりと問い詰めようと決意する。


「む……ライナード・デリクだ。今日は、来てくれて感謝する」


 ライナードさんは、布団に眠る片翼から目を離すことなくそう告げる。しかも、その声は完全に憔悴しきっており、本来の声を知らなくとも力がないことは明らかだった。


「こちらこそ、大変な時期に押しかけてしまい、申し訳ありませんわ。ですが、もしかしたら力になれるかもしれませんの。少し、彼女の側に行ってもよろしいかしら?」

「む」


 わたくしの言葉に、ライナードさんはヨロヨロと立ち上がり、片翼から少し離れた場所で立ち尽くす。よくよく見てみれば、その目元には酷い隈ができており、その目は虚ろだ。


「リリス、その、カイトちゃんがリリス達と同じ世界から来たとは限らないみたいだけど、どうやって確かめるつもり?」


 わたくしが『カイトちゃん』とやらの場所へ向かおうとすれば、ルティがそう言って呼び止めてくる。


「そう、ですわね。その前にまず、彼女のフルネームを教えてくださらない?」


 ローレルさんの話によれば、聖女として召喚されるのは『カイリ』であって、『カイト』ではないのだそうだ。けれど、わたくしはその二つの名前を聞いて、嫌な予感だけはしていた。


「カイト・リクドウだ」


 わたくしの問いかけに答えたのは、ライナードさんの方だった。その言葉によって、わたくしの嫌な予感はますます強まる。


「そう、カイト・リクドウ……ライナードさん、もしかして、彼女は苺大福が好物だったりしませんか?」

「っ、確かに、好物だが……」


 『なぜそれを知っている?』と探るような視線に、わたくしは、嫌な予感がかなりの確率で的中していることを知る。


「えっ、リリス様、もしかして、この聖女さんとお知り合い?」

「その可能性が高いと、今考えていましたのよ。まぁ、姿形は随分と違いますが……」


 最初に『カイト』の名前を聞いた時は、特に気にしなかった。次に、『カイリ』の名前を聞いた時は、彼の妹が『海里』だったなと思う程度だった。『カイト』のフルネームを聞いた時、『六道海斗』と頭の中で漢字変換がなされて、まさかと思った。苺大福が好物だと知れば……腐れ縁の幼馴染みの顔がくっきりと思い浮かんでしまった。だから……。


「少々騒がしくなりますわ」


 そう言いながら、わたくしはカイトと呼ばれた女性の元へと歩を進め、先程までライナードさんが座っていた座布団へと正座する。そして……。


「六道海斗! シャキッとなさいっ!」


 目を開いたまま、どこも見ていない彼女へ向かって、わたくしは、前世で彼に良く使っていた言葉を投げ掛ける。


「……」


 その一言だけで、カイトの瞳が少しだけ揺らぐ。それを確認したわたくしは、続けて言葉を選ぶ。


「そんなにボケッとしてると、海里ちゃんに悪戯されるわよ!?」


 そう言えば、カイトは何度か瞬きをして、視線をゆっくりと動かし始める。


「っ、カイト!」


 その様子を見て、ライナードさんがわたくしを押し退ける勢いで飛び込んでくる。もちろん、わたくしはライナードさんと接触する前にルティから抱き上げられてそこから離れることになったのだけれど……カイトは……いいえ、『海斗』は、まだ、完全にはこちらに意識を呼び戻せていない状況らしかった。


「ライナードさん、このまま呼び掛けますわよっ」

「っ、分かった!」


 そこからは、わたくしは海斗に関する思い出話を、ライナードさんは、目が覚めたら一緒に色々なことをしようと、それぞれ呼び掛ける。


「あ、あれ? 私、いらなくない?」

「ローレル、今は静かに」

「は、はいっ」


 そんなローレルさんとジェドさんの言葉も無視して、わたくしとライナードさんとで、必死になって呼び掛け続ける。すると……。


「ライナード、莉菜ちゃん?」


 小さい声ながらも、海斗はようやく、反応を示すのだった。
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