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第二章 葛藤

第二十三話 探った結果(リドル視点)

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 自宅へと帰った後、ワタシは改めてライナードと連絡を取って、こちらに来てもらう。


「ようこそ、ライナード」

「む」


 出迎えれば一つうなずくだけの友人に、カイトちゃんが居ないとぶっきらぼうだなと苦笑する。


「それで、今回の成果なんだけど……あの子、色々嘘をついてるわね」

「それは……確かに」


 ワタシとカイトちゃんの会話に同席していたライナードも、さすがにカイトちゃんが嘘をついていることは分かったらしい。


「まず、村の出身だと言っていたけど、あり得ないわ。あの所作もそうだけれど、何より、この国の言葉が分かる時点で、高い教養を持っているとしか考えられない。どこぞの貴族の落とし胤で、本当に村出身だったとしても、あれは幼い頃から教育されてきた者のそれだわ。村で教育を受けるなんてことはなかったはずよ」

「あぁ」


 カイトちゃんの所作は、女性としてそれはそれは美しいものだった。さすがに、ところどころマナーが分からない部分も見受けられたものの、あれだけできれば、貴族としてお茶会の参加くらいできるだろう。それに、とても流暢な魔国語を喋るカイトちゃんが、ただの村出身なわけがない。せめて、町と答えていれば、そうかもしれないと思えたものの、ただの村に、そんな高等教育を受けられる場所も人材もあるわけがなかった。


「まぁ、例外がないわけではないけど、まずあり得ないわ。恐らく、何か隠し事があって、そのせいで嘘をついているんだと思うけれど……」

「同感だ」


 さすがに、何を隠しているのかまでは分からない。しかし、このままではカイトちゃんを帰すにしても、その場所が分からなかった。


「あぁ、後、ライナードに朗報よ。多分、カイトちゃんには想い人なんて居ないわ」

「何?」


 珍しく感情をあらわに、目を大きく見開いた友人を前に、ワタシはニンマリと笑う。


「さすがに、想い人のことを『微妙』と称していたのはおかしいわ」

「? そういうものか?」


 しかし、少しばかりこの友人は鈍いらしい。ワタシは、手っ取り早く自覚できるように、質問を投げ掛けてみる。


「ライナードの想い人、つまりはカイトちゃんと、ワタシの片翼、レティを比べると、どう?」

「カイトが居れば、何もいらない」

「カイトちゃんは微妙だったりしない?」

「断じてあり得ないっ」


 ちょっとした確認の質問なのに、本気になってギロリと睨むライナード。それに少し気圧されながらも、ワタシは『そういうことよ』と告げる。


「『恋は盲目』っていうでしょう? カイトちゃんが、本当にその想い人を想っているのなら、『微妙』なんて言葉、絶対に出てこないわ」


 そう言えば、酷く納得した様子で、ライナードはその険しい顔を元に戻してうなずく。


「なら、カイトに想い人は居ない……なら、なぜ、そんな嘘を……?」

「……ここからは、ライナードに取って辛い予想になるけれど……聞く?」

「……む」


 一応うなずいたライナードに、ワタシはゆっくりと、『あくまでも予想だから』と前置きをして告げる。


「ぶっちゃけると……ライナードが好みじゃなかったっていうのが考えられるわ」

「好みじゃ、ない……」

「もしくは、苦手とか」

「苦手……」

「生理的に受け付けない、とか?」

「…………」


 畳み掛けるように話せば、ライナードは沈黙してしまう。そっとライナードの顔を窺えば、どうやら、放心状態らしい。


「あくまでも、予想よ?」


 しかし、その声は届いていないようで、ライナードはしばらくの間、反応を返すことはなかった。


「あと、これも予想なんだけれど……カイトちゃんって、案外ボーイッシュ?」

「あぁ、それは、確かに」


 どうにか戻ってきたライナードに、ワタシは続けて予想を話す。


「やっぱり……ドレスや小物類に興味がなさそうだったから、そうじゃないかと思ってたわ。……ただ、ちょっと行き過ぎな気もするのよね」

「『行き過ぎ』?」

「えぇ、これはワタシの勘だけれど……カイトちゃん、もしかして、心は男性なんじゃないかしら?」

「心が……? いや、そうだとして、何の問題がある?」


 本気で分からない様子のライナードに、ワタシは悩みながらも話してみる。


「だから……恋愛対象が女性だったりしないかしらってことよ」


 そう言うと、しばらくその言葉を自分の中で反芻していた様子のライナードは、ふいに固まる。


「恋愛対象……女性……」


 どうも、何か心当たりがあったらしい。


「ま、まぁ、そうじゃないことを祈りましょう! ……女性化したライナードなんて、考えるだけでも恐ろしいものね」


 そう言いながらも、完全に固まったライナードを前に、ワタシはただただ不安ばかりが膨れ上がるのだった。
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