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第一章 囚われの身
第十五話 和解の方法
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なぜか呼ばれていた医師の診察を受け終えると、再びドム爺がやってきて、俺の想い人に関しての質問をしてきた。
(ど、どうしよう。想い人なんて居ないぞ?)
ひたすら悩んだ結果、俺は高すぎると思われる理想像を語ることにする。料理、裁縫、掃除、洗濯が完璧で、優しくて穏やかで……ついでに、ドム爺からの質問で思いついたお金持ち設定もつけ足しておく。これできっと、ライナードとは似ても似つかないと判断してくれるはず……だった。
(これは、どういうことだ?)
しかし、そう思っていた俺の前にやってきたのは、ライナードが作ったという手料理の数々。良い香りのする野菜スープやら、彩り鮮やかに盛り付けられた小鉢がいくつか、メインはガッツリサイズのデミグラスソースがかかったハンバーグで、今もまだ、ジュージューと音を立てて焼けているようだ。
ぐぅっと俺の腹の虫が鳴く様子を聞いた俺付きだという侍女達は、全ての準備を整えると、すぐに退出していく。
「……美味そう……」
ちょうど昼時という時間で、何もしていなかったものの、お腹は空く。
「い、いただきます」
カトラリーは、ナイフとフォーク、スプーン、それと、箸が置かれていて、俺は迷わず箸を取る。朝食の時には箸なんて置かれていなくて、ちょっと苦戦しながら食べたものの、どうやら今回はつけてくれたらしい。
ほうれん草のお浸しらしきものを口に運べば、醤油の香りがフワッと香る。ハンバーグは肉汁がたっぷりで、『はふっ』と言いながら食べると、口の中が幸せに包まれる。野菜スープは出汁がしっかりとってあり、野菜そのものも柔らかく、口の中で溶けるようだった。
「うまっ」
あまりの美味しさに黙々と食べ続けて……はたと気づく。
(いやいやいや、俺、まずはライナードと和解しなきゃならないだろうっ!?)
ライナードがこれらの料理を作ったというのは……残念ながら、あの強面では想像がつかない。しかし、それでも俺を思って料理を持ってきてくれたことは確かだ。俺は、ライナードを傷つけたにもかかわらず……。
「……とりあえず、ライナードに会わないことには何も始まらないよな?」
そう、とりあえずは、この食事のお礼を言うことから始めるべきだ。そして……言い過ぎてしまったことを謝る……のは、やはり何か違う気がするので、友達として仲良くしましょうくらいが良いだろうか?
(いや、でもそれって、傷口に塩を塗り込んでないか?)
好きな相手に、あなたは論外ですが、友達としてなら大丈夫と言われて喜べるかといえば、むしろダメージを与える気がする。俺は、けっして追撃したいわけではないのだ。
「……なら、触れない方向でいくか?」
触れない、すなわち、モヤモヤしたままでの放置。それは、何とも居心地が悪いものではあったが、俺がついた嘘は簡単に解決できるものではない。
(ライナードが信頼できると分かれば、本当のことを話すのもありだけど……)
さすがに、まだ出会って二日目ではそんな打ち明け話をする気にはなれない。
「……よしっ、そうと決まれば、会いに行くか!」
結局のところ、今、解決できない問題は放置するしかない。だから、俺はそれを頭の片隅に入れつつも、ライナードとしっかり向き合うべきなのだ。
「どれもこれも美味かったけど、ハンバーグは絶品だったな」
どうしたらあんなに美味しいハンバーグができるのかは知らないが、店で出ていても納得のハンバーグだった。もし、日本の店で同じハンバーグを食べていたら、きっと俺はその店の常連になっていたことだろう。
用事がある時に鳴らすよう言われていたベルを鳴らすと、すぐに先程の侍女達が来る。
彼女達の名前は、ノーラとリュシリーで、二人とも表情を変えずにテキパキと作業をするものだから、ちょっと声がかけづらい感じではあった。しかも、身嗜みを整える時は、何だか良く分からない気迫のようなものがあって……少し怖い。
そんな彼女達の片付けが終わるや否や、俺はライナードのところに行きたい旨を伝えてみる。すると、黄色の髪に青い瞳、青い角を持つノーラは、ピクリと眉を動かしたかと思うと、ピンクの髪に緑の瞳、白い角を持つリュシリーへと目配せして、おもむろに俺と向き合う。
「では、ご案内させていただきます」
「よ、よろしくお願いします」
無表情が怖いながらも何とかそれだけを告げれば、ノーラは『こちらです』と言って俺を案内し始めた。
(よ、よしっ、ライナードと仲良くなるぞ!)
ついた嘘は取り消せないが、ライナードと仲良くなるのは、きっと必要なことだ。
(自分の気持ちを諦めて、俺を想い人のところに送り届けようとまでしてるんだもんな)
そこまでするライナードが悪人でないことくらい分かる。だから、残念ながら伴侶になることはできないものの、良い関係を築ければ良いとは思えた。
ただ、俺はこの時、まだ予想していなかった。傷ついたライナードが、これからどんな行動に出るかを……。
(ど、どうしよう。想い人なんて居ないぞ?)
ひたすら悩んだ結果、俺は高すぎると思われる理想像を語ることにする。料理、裁縫、掃除、洗濯が完璧で、優しくて穏やかで……ついでに、ドム爺からの質問で思いついたお金持ち設定もつけ足しておく。これできっと、ライナードとは似ても似つかないと判断してくれるはず……だった。
(これは、どういうことだ?)
しかし、そう思っていた俺の前にやってきたのは、ライナードが作ったという手料理の数々。良い香りのする野菜スープやら、彩り鮮やかに盛り付けられた小鉢がいくつか、メインはガッツリサイズのデミグラスソースがかかったハンバーグで、今もまだ、ジュージューと音を立てて焼けているようだ。
ぐぅっと俺の腹の虫が鳴く様子を聞いた俺付きだという侍女達は、全ての準備を整えると、すぐに退出していく。
「……美味そう……」
ちょうど昼時という時間で、何もしていなかったものの、お腹は空く。
「い、いただきます」
カトラリーは、ナイフとフォーク、スプーン、それと、箸が置かれていて、俺は迷わず箸を取る。朝食の時には箸なんて置かれていなくて、ちょっと苦戦しながら食べたものの、どうやら今回はつけてくれたらしい。
ほうれん草のお浸しらしきものを口に運べば、醤油の香りがフワッと香る。ハンバーグは肉汁がたっぷりで、『はふっ』と言いながら食べると、口の中が幸せに包まれる。野菜スープは出汁がしっかりとってあり、野菜そのものも柔らかく、口の中で溶けるようだった。
「うまっ」
あまりの美味しさに黙々と食べ続けて……はたと気づく。
(いやいやいや、俺、まずはライナードと和解しなきゃならないだろうっ!?)
ライナードがこれらの料理を作ったというのは……残念ながら、あの強面では想像がつかない。しかし、それでも俺を思って料理を持ってきてくれたことは確かだ。俺は、ライナードを傷つけたにもかかわらず……。
「……とりあえず、ライナードに会わないことには何も始まらないよな?」
そう、とりあえずは、この食事のお礼を言うことから始めるべきだ。そして……言い過ぎてしまったことを謝る……のは、やはり何か違う気がするので、友達として仲良くしましょうくらいが良いだろうか?
(いや、でもそれって、傷口に塩を塗り込んでないか?)
好きな相手に、あなたは論外ですが、友達としてなら大丈夫と言われて喜べるかといえば、むしろダメージを与える気がする。俺は、けっして追撃したいわけではないのだ。
「……なら、触れない方向でいくか?」
触れない、すなわち、モヤモヤしたままでの放置。それは、何とも居心地が悪いものではあったが、俺がついた嘘は簡単に解決できるものではない。
(ライナードが信頼できると分かれば、本当のことを話すのもありだけど……)
さすがに、まだ出会って二日目ではそんな打ち明け話をする気にはなれない。
「……よしっ、そうと決まれば、会いに行くか!」
結局のところ、今、解決できない問題は放置するしかない。だから、俺はそれを頭の片隅に入れつつも、ライナードとしっかり向き合うべきなのだ。
「どれもこれも美味かったけど、ハンバーグは絶品だったな」
どうしたらあんなに美味しいハンバーグができるのかは知らないが、店で出ていても納得のハンバーグだった。もし、日本の店で同じハンバーグを食べていたら、きっと俺はその店の常連になっていたことだろう。
用事がある時に鳴らすよう言われていたベルを鳴らすと、すぐに先程の侍女達が来る。
彼女達の名前は、ノーラとリュシリーで、二人とも表情を変えずにテキパキと作業をするものだから、ちょっと声がかけづらい感じではあった。しかも、身嗜みを整える時は、何だか良く分からない気迫のようなものがあって……少し怖い。
そんな彼女達の片付けが終わるや否や、俺はライナードのところに行きたい旨を伝えてみる。すると、黄色の髪に青い瞳、青い角を持つノーラは、ピクリと眉を動かしたかと思うと、ピンクの髪に緑の瞳、白い角を持つリュシリーへと目配せして、おもむろに俺と向き合う。
「では、ご案内させていただきます」
「よ、よろしくお願いします」
無表情が怖いながらも何とかそれだけを告げれば、ノーラは『こちらです』と言って俺を案内し始めた。
(よ、よしっ、ライナードと仲良くなるぞ!)
ついた嘘は取り消せないが、ライナードと仲良くなるのは、きっと必要なことだ。
(自分の気持ちを諦めて、俺を想い人のところに送り届けようとまでしてるんだもんな)
そこまでするライナードが悪人でないことくらい分かる。だから、残念ながら伴侶になることはできないものの、良い関係を築ければ良いとは思えた。
ただ、俺はこの時、まだ予想していなかった。傷ついたライナードが、これからどんな行動に出るかを……。
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