220 / 412
第二章 少女期 瘴気編
第二百十九話 これで帰れる
しおりを挟む
「みゅ! 私の勝利!!」
夢から目を覚ました私は、起き上がるやいなやそう叫んで、右手をそっと前に差し出して、手を広げる。
「ち、ちゅう……」
そこには、真っ黒なネズミが、ビクビクと怯えたようにして、辺りを伺っていた。
「ほら、魔王さん。ここが外の世界ですよ? ね? 怖いものなんてないでしょう?」
「ちゅ……ま、まだ分からない。我は、我は……」
「みゅう、なら、もっともっと、色々なものを見て回ろう! 魔王さんは、色々なことを知るべきだよ」
「ちゅー……」
手を前にして、ビクビクと怯えるのは、魔王本人で間違いない。あれから何度も夢に潜って会う内に、この魔王には記憶がなくて、それなのに負の感情に囚われるという不思議な状況に陥っていることに気づき、説得を重ねて外の世界に連れ出したのだ。おかげで、今は、私の周りに瘴気が漂うこともなく、魔王にもきっちり言い含めたおかげで、魔王からも瘴気は発生していない。
(これで、やっと……やっと、イルト様のところに帰れるっ!)
家を出てから三週間。ずっと連絡も取らずにいたため、きっと心配をかけていることだろう。
(もし、私の居場所がなくなるようなことになってたら……イルト様だけでも連れて、新天地で暮らすのも良いかも?)
さすがに、今回の家出は外聞が悪いことくらい理解している。しかし、あの時は本当にそうするしかなかった。そうしなければ、イルト様達は瘴気に呑まれて、下手をすれば殺し合いをしかねないほどの状況だったのだから。
「主様。これで、もう、目的は達したのか?」
「みゅ? そうだけど……何で、落ち込んでるの?」
三週間もの時間があれば、家を建て、家具を揃え、畑を作るくらいは簡単にできる。ちょっとしたログハウスのベッドで、帰る準備は何が必要だろうかと考えていると、ミルラスがとても暗い顔をしていることに気づく。
「う、ぬ……その、主様の目的が達成されたのであれば、妾はお役ごめん、ということなのじゃろう?」
「みゅ? そんなことないけど? ちゃんと一緒に連れていくよ?」
何を言っているのだろうかと思いながら告げれば、途端に、ミルラスはパッと顔を上げる。
「ほ、本当に!?」
「むしろ、置いていくつもりはなかったんだけど……もしかして、ここに残りたいとか?」
そう問えば、ミルラスはブンブンブンと首を横に振る。
「わ、妾は、主様と一緒にいたいのじゃっ」
「なら、決まりだね! これからもよろしくね。ミル」
「うむっ!!」
わだかまりも解消したところで、私は、ミルラスと魔王を交互に見て宣言する。
「それじゃあ、帰るよ!」
魔王をそっと片手で包み、ミルラスの腕を取った私は……久々の我が家へ、転移した。
夢から目を覚ました私は、起き上がるやいなやそう叫んで、右手をそっと前に差し出して、手を広げる。
「ち、ちゅう……」
そこには、真っ黒なネズミが、ビクビクと怯えたようにして、辺りを伺っていた。
「ほら、魔王さん。ここが外の世界ですよ? ね? 怖いものなんてないでしょう?」
「ちゅ……ま、まだ分からない。我は、我は……」
「みゅう、なら、もっともっと、色々なものを見て回ろう! 魔王さんは、色々なことを知るべきだよ」
「ちゅー……」
手を前にして、ビクビクと怯えるのは、魔王本人で間違いない。あれから何度も夢に潜って会う内に、この魔王には記憶がなくて、それなのに負の感情に囚われるという不思議な状況に陥っていることに気づき、説得を重ねて外の世界に連れ出したのだ。おかげで、今は、私の周りに瘴気が漂うこともなく、魔王にもきっちり言い含めたおかげで、魔王からも瘴気は発生していない。
(これで、やっと……やっと、イルト様のところに帰れるっ!)
家を出てから三週間。ずっと連絡も取らずにいたため、きっと心配をかけていることだろう。
(もし、私の居場所がなくなるようなことになってたら……イルト様だけでも連れて、新天地で暮らすのも良いかも?)
さすがに、今回の家出は外聞が悪いことくらい理解している。しかし、あの時は本当にそうするしかなかった。そうしなければ、イルト様達は瘴気に呑まれて、下手をすれば殺し合いをしかねないほどの状況だったのだから。
「主様。これで、もう、目的は達したのか?」
「みゅ? そうだけど……何で、落ち込んでるの?」
三週間もの時間があれば、家を建て、家具を揃え、畑を作るくらいは簡単にできる。ちょっとしたログハウスのベッドで、帰る準備は何が必要だろうかと考えていると、ミルラスがとても暗い顔をしていることに気づく。
「う、ぬ……その、主様の目的が達成されたのであれば、妾はお役ごめん、ということなのじゃろう?」
「みゅ? そんなことないけど? ちゃんと一緒に連れていくよ?」
何を言っているのだろうかと思いながら告げれば、途端に、ミルラスはパッと顔を上げる。
「ほ、本当に!?」
「むしろ、置いていくつもりはなかったんだけど……もしかして、ここに残りたいとか?」
そう問えば、ミルラスはブンブンブンと首を横に振る。
「わ、妾は、主様と一緒にいたいのじゃっ」
「なら、決まりだね! これからもよろしくね。ミル」
「うむっ!!」
わだかまりも解消したところで、私は、ミルラスと魔王を交互に見て宣言する。
「それじゃあ、帰るよ!」
魔王をそっと片手で包み、ミルラスの腕を取った私は……久々の我が家へ、転移した。
2
お気に入りに追加
5,643
あなたにおすすめの小説
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
私の婚約者は6人目の攻略対象者でした
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。
すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。
そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。
確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。
って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?
ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。
そんなクラウディアが幸せになる話。
※本編完結済※番外編更新中
転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました
みなみ抄花
恋愛
睦見 香桜(むつみ かお)は今年で19歳。
日本で普通に生まれ日本で育った少し田舎の町の娘であったが、都内の大学に無事合格し春からは学生寮で新生活がスタートするはず、だった。
引越しの前日、生まれ育った町を離れることに、少し名残惜しさを感じた香桜は、子どもの頃によく遊んだ川まで一人で歩いていた。
そこで子犬が溺れているのが目に入り、助けるためいきなり川に飛び込んでしまう。
香桜は必死の力で子犬を岸にあげるも、そこで力尽きてしまい……
おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
サロン勤めで拘束時間は長く、休みもなかなか取れずに働きに働いた結果。
貯金残高はビックリするほど貯まってたけど、使う時間もないまま転生してた。
そして通勤の電車の中で暇つぶしに、ちょろーっとだけ遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したっぽい?
あんまり内容覚えてないけど…
悪役令嬢がムチムチしてたのだけは許せなかった!
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドを堪能してくださいませ?
********************
初投稿です。
転生侍女シリーズ第一弾。
短編全4話で、投稿予約済みです。
【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~
うり北 うりこ
恋愛
平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。
絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。
今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。
オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、
婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。
※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。
※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。
※途中からダブルヒロインになります。
イラストはMasquer様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる