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第一章 幼少期編
第百三十八話 無力(前半イルト、後半ユミリア視点)
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側妃様と会った瞬間、僕は、無力だった。ユミリア嬢を守るために、強くなりたいと常々願ってはいたが、側妃様を前にした途端、身につけたはずの強さは、一欠片も胸の内に存在しなかった。
(いや、そうじゃない。僕は、ずっと、弱いままだったんだ)
確かに、ユミリア嬢に出会ってから、よりいっそう、剣術も、勉強も頑張ってきた。しかし、それで心までが強くなれたわけではなかったのだ。『母親に愛されたい』。ただ、それだけの想いが、側妃様の前で動きを鈍らせることとなった。ただ、それだけの願いが、側妃様からの言葉に怯える自分を生み出した。
(そのせいで、僕は、ユミリア嬢への贈り物を失った)
それは、ユミリア嬢自身というわけではない。しかし、僕にとって大切なものであったのは確かで、僕の心が弱かったばかりに、失ってしまったという事実は変えられない。
(切り捨てなきゃ……邪魔なものは、全部、全部っ)
ユミリア嬢以外、いらない。僕には、ユミリア嬢さえいてくれたら良いのだから。
戦闘能力を、知識を、技術を、全てを磨いて、捧げるのはユミリア嬢だけで良い。他の有象無象は、全て切り捨てて、ユミリア嬢さえ守れればそれで良い。
そう、考えた直後、僕の視界は暗転していた。
(私は、無力だ……)
国王陛下から聞き出した情報では、イルト王子が今朝方、突如として意識を失ったということ、医師を呼んで確認をしたものの、原因不明だと告げられたこと、前世の記憶を持つ私から何か聞いていないだろうかと、お父様を呼びつけて、聞いていないと分かるや否や、私の準備が整うのを待って、迎えに来たことが告げられた。
正直、イルト王子が倒れるなんて描写は知らない。前世の記憶について知っているのが王家側では陛下とイルト王子だけであったために、今回は陛下が迎えに来たそうだが、私の知識にもないと知ると、酷く落胆した様子だった。
「イルト様……」
特別に面会を許された私は、ベッドの中で意識を失ったままのイルト王子の手を取る。
(手、冷たい……)
最初の医師の診断では、身体的に異常は見られないとのことだったが、今は、少しずつ体温が下がってきているとのこと。このまま下がり続ければ、命が危ういとまで言われている。
(考えろっ、考えろっ! 何か、イルト様を救う手立てをっ! イルト様がこうなった原因をっ!)
恐らく、私に面会が許されたのは、もしかしたら、私が知るゲームの知識の中に、何か引っ掛かるものが生まれるかもしれないと思われてのことだろう。だから、私は懸命にゲームの内容を思い出す。
必死に、とにかく、どんな些細なことでも思い出そうと、頭を回転させる。
「ユミリアじょう……イルトは、イルトはっ」
イルト王子を挟んだ私の前には、アルト王子が涙を堪えながら、私が取っているのとは反対のイルト王子の手を握っている。
「アルト王子。どんな些細なことでも構いません。意識を失う前のイルト様に、何か変わったことはありませんでしたか?」
少しでも手がかりがほしい私は、イルト王子を失うかもしれない恐怖に震えそうになる自分を叱咤して、アルト王子へ問いかけた。
(いや、そうじゃない。僕は、ずっと、弱いままだったんだ)
確かに、ユミリア嬢に出会ってから、よりいっそう、剣術も、勉強も頑張ってきた。しかし、それで心までが強くなれたわけではなかったのだ。『母親に愛されたい』。ただ、それだけの想いが、側妃様の前で動きを鈍らせることとなった。ただ、それだけの願いが、側妃様からの言葉に怯える自分を生み出した。
(そのせいで、僕は、ユミリア嬢への贈り物を失った)
それは、ユミリア嬢自身というわけではない。しかし、僕にとって大切なものであったのは確かで、僕の心が弱かったばかりに、失ってしまったという事実は変えられない。
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ユミリア嬢以外、いらない。僕には、ユミリア嬢さえいてくれたら良いのだから。
戦闘能力を、知識を、技術を、全てを磨いて、捧げるのはユミリア嬢だけで良い。他の有象無象は、全て切り捨てて、ユミリア嬢さえ守れればそれで良い。
そう、考えた直後、僕の視界は暗転していた。
(私は、無力だ……)
国王陛下から聞き出した情報では、イルト王子が今朝方、突如として意識を失ったということ、医師を呼んで確認をしたものの、原因不明だと告げられたこと、前世の記憶を持つ私から何か聞いていないだろうかと、お父様を呼びつけて、聞いていないと分かるや否や、私の準備が整うのを待って、迎えに来たことが告げられた。
正直、イルト王子が倒れるなんて描写は知らない。前世の記憶について知っているのが王家側では陛下とイルト王子だけであったために、今回は陛下が迎えに来たそうだが、私の知識にもないと知ると、酷く落胆した様子だった。
「イルト様……」
特別に面会を許された私は、ベッドの中で意識を失ったままのイルト王子の手を取る。
(手、冷たい……)
最初の医師の診断では、身体的に異常は見られないとのことだったが、今は、少しずつ体温が下がってきているとのこと。このまま下がり続ければ、命が危ういとまで言われている。
(考えろっ、考えろっ! 何か、イルト様を救う手立てをっ! イルト様がこうなった原因をっ!)
恐らく、私に面会が許されたのは、もしかしたら、私が知るゲームの知識の中に、何か引っ掛かるものが生まれるかもしれないと思われてのことだろう。だから、私は懸命にゲームの内容を思い出す。
必死に、とにかく、どんな些細なことでも思い出そうと、頭を回転させる。
「ユミリアじょう……イルトは、イルトはっ」
イルト王子を挟んだ私の前には、アルト王子が涙を堪えながら、私が取っているのとは反対のイルト王子の手を握っている。
「アルト王子。どんな些細なことでも構いません。意識を失う前のイルト様に、何か変わったことはありませんでしたか?」
少しでも手がかりがほしい私は、イルト王子を失うかもしれない恐怖に震えそうになる自分を叱咤して、アルト王子へ問いかけた。
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