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第一章 幼少期編
第百三十二話 戻らないイルト王子
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「ところで、イルト様、遅いですね」
「いわれてみれば……」
ひとしきり語り合って、満足した私達は、それだけ話をしていても戻ってこないイルト王子のことを心配する。
私達と別れた時のイルト王子の様子からすると、すぐに戻ってくるだろうと踏んでいたのに、まだイルト王子がこちらに来る様子がない。柱時計を見れば、イルト王子と別れて三十分は経っている。
「……アルト王子は、イルト様がどこへ向かったか分かりますか?」
「うん、たぶん、イルトのへやだとおもう……いってみるか?」
「イルト様のお部屋……は、はいっ。行きますっ」
イルト王子の部屋を訪れたことは、今までに何度かあるものの、それでも少しドキドキしてしまう。しかし、今はそれどころではないと意識を切り替えて、アルト王子の言葉に同意すると、早速、席を立って、移動を始めた。
「イルト様の忘れ物って、何だったんでしょう?」
「んー? それは、イルトにちょくせつみせてもらったほーがいーぞ?」
「そうなんですか?」
「うん、ぜったい、それがいいっ」
もしかしたら、相当に重いもので、運ぶのに苦労しているとかではないだろうかとも思ったものの、アルト王子の笑顔を見る限り、そういったことはなさそうだった。
そうして、二階に繋がる階段に差し掛かった時、私は……いや、私達は、ほぼ同時に足を止めた。
『お前がっ、お前が生まれてこなければっ、わたくしはっ!』
『お止めくださいっ、側妃様っ!』
聞こえてきたのは、あの、スーリャ様の声。そして、誰かは分からないが、使用人らしき男性の声。それを頭で理解した瞬間、私は飛び出していた。
「先に行きますっ!」
本来であれば、アルト王子を放置して、階段を駆け上がるなど、淑女として失格だ。いや、それ以前に、不敬だと言われても仕方がない。しかし、今は緊急事態だった。なぜなら、きっと、スーリャ様の側に、イルト王子が居るはずだから。
「たのむっ!」
短く、アルト王子の返事を後ろで聞きながら、私は現在の装備で出せる最高速度で一気にイルト王子の部屋の前まで到着する。
「イルト様っ!!」
ノックなんてしている場合ではない。部屋には鍵がかかっていたようだったが、装備で底上げした身体能力にものを言わせて、無理矢理にこじ開ける。
「っ、不敬な! 誰ですかっ、この小娘はっ!」
そうして、目にしたのは、真っ赤なドリルヘアの女性と、怯えた目をして座り込むイルト王子、そして、頬を赤く腫らして倒れている執事服の男性の姿だった。
「いわれてみれば……」
ひとしきり語り合って、満足した私達は、それだけ話をしていても戻ってこないイルト王子のことを心配する。
私達と別れた時のイルト王子の様子からすると、すぐに戻ってくるだろうと踏んでいたのに、まだイルト王子がこちらに来る様子がない。柱時計を見れば、イルト王子と別れて三十分は経っている。
「……アルト王子は、イルト様がどこへ向かったか分かりますか?」
「うん、たぶん、イルトのへやだとおもう……いってみるか?」
「イルト様のお部屋……は、はいっ。行きますっ」
イルト王子の部屋を訪れたことは、今までに何度かあるものの、それでも少しドキドキしてしまう。しかし、今はそれどころではないと意識を切り替えて、アルト王子の言葉に同意すると、早速、席を立って、移動を始めた。
「イルト様の忘れ物って、何だったんでしょう?」
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「そうなんですか?」
「うん、ぜったい、それがいいっ」
もしかしたら、相当に重いもので、運ぶのに苦労しているとかではないだろうかとも思ったものの、アルト王子の笑顔を見る限り、そういったことはなさそうだった。
そうして、二階に繋がる階段に差し掛かった時、私は……いや、私達は、ほぼ同時に足を止めた。
『お前がっ、お前が生まれてこなければっ、わたくしはっ!』
『お止めくださいっ、側妃様っ!』
聞こえてきたのは、あの、スーリャ様の声。そして、誰かは分からないが、使用人らしき男性の声。それを頭で理解した瞬間、私は飛び出していた。
「先に行きますっ!」
本来であれば、アルト王子を放置して、階段を駆け上がるなど、淑女として失格だ。いや、それ以前に、不敬だと言われても仕方がない。しかし、今は緊急事態だった。なぜなら、きっと、スーリャ様の側に、イルト王子が居るはずだから。
「たのむっ!」
短く、アルト王子の返事を後ろで聞きながら、私は現在の装備で出せる最高速度で一気にイルト王子の部屋の前まで到着する。
「イルト様っ!!」
ノックなんてしている場合ではない。部屋には鍵がかかっていたようだったが、装備で底上げした身体能力にものを言わせて、無理矢理にこじ開ける。
「っ、不敬な! 誰ですかっ、この小娘はっ!」
そうして、目にしたのは、真っ赤なドリルヘアの女性と、怯えた目をして座り込むイルト王子、そして、頬を赤く腫らして倒れている執事服の男性の姿だった。
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