30 / 412
第一章 幼少期編
第二十九話 守るべきもの(ローラン視点)
しおりを挟む
竜人の国を追放された俺を温かく迎え入れてくれたのは、竜人達が下等生物だと差別していた人間だった。
当時、まだ十歳のガキだった俺は、優しい人間達に囲まれて、幸せだった。だから、その二年後、魔王の脅威が迫った国に、少しでも貢献できないかと勇者に志願したのは当然のことだった。
人間でも竜人でも、まだ子供といえる十二歳。それでも、俺の力は類をみないほど強力なもので、俺は晴れて、国に認められる勇者として、魔王討伐の旅に出発したのだ。
(まさか、人間が裏切るなんて、あの頃は思ってもみなかったからな……)
何もかもが順調だったはずなのに、いったい、俺はどこで選択を間違ったのだろうかと、今でも考えてしまう。
俺に施された封印は、実にいやらしいものだった。当時、仲間であった聖女は、どうやら俺のことが好きだったらしい。そして、同じく仲間であった魔導師は、その聖女のことが好きで……俺が国を追われる身となった途端、魔導師は執拗に俺を殺そうとしてきた。しかし、結局封印という形になってしまったのは、ひとえに、やつが俺を苦しめたかったからなのだろう。
(ご丁寧に、魔の実をばら蒔いていったからなぁ……)
俺の封印は、俺の意識までは封じてくれなかった。魔族に襲撃され、荒れ果てた大地。そこへ、俺は身動きを封じられ、意識だけを残され、ずっと、ずっと、芽吹いた魔の実の栄養として存在していた。魔力が徐々に奪われる恐怖。元の肉体のままではすぐに死んでしまうと、防衛本能から幼い姿になったものの、それは苦痛を長引かせる結果にしかならないはずだった。自殺することも許されず、ただただ、ゆっくり、じわじわと、自分が死んでいくのを感じるしかない。そんな、発狂ものの恐怖を味わう中……ユミリアが来たのだ。
(天使かと、思った……)
あまりにも愛らしいその姿に、俺は、もしかしたら気づかないうちに死んでしまって、天国に来たのかと思った。もちろんそれは、蒼月狼と星妖精を見ることによって否定されたが。
(蒼月狼に星妖精を従える幼女って何だよっ。本当に、殺されるかと思ったぞ!?)
ユミリアは気づいていなかったが、あの二人は確実に、俺へ殺気を飛ばしていた。さすがの俺も、あの二人を相手に戦って生き残れるなんて思えない。
そうして、いつの間にか意識を失っていた俺は、事情を話して……なぜか、ユミリアに泣かれていた。
「ふぇっ、ぐずっ……」
「あ、あぁっ、もう、泣くなって……」
体は小さいが、割としっかりしていることから考えると、ユミリアは五歳くらいなのだろうか? 竜人の子供はもちろん、人間の子供ともあまり関わってこなかったため、そこら辺の認識が甘い自覚はある。そして、子供と関わってこなかったということは、当然、泣かれた時の対処法なんかも知らないということで、俺は盛大に慌てる。しかし……。
(俺のために、泣いてくれる子、か……)
竜人の国では差別され、人間の国では強いから大丈夫だと、俺に配慮する人間など居なかったように思える。人間達は優しくもあったが、俺の内面に踏み込んでくることはなかった。それは、俺自身が強くあろうとしていたから当然なのかもしれないが、それでも、寂しくなかったわけではない。
(何だか……暖かい、な……)
胸に灯った小さな明かり。それは、きっと俺がずっと求めてやまなかったもの……。
「みゅうぅっ、いちゃいにょいちゃいにょとんでゆけーっ(みゅうぅっ、痛いの痛いの飛んでゆけーっ)」
何の呪文かは不明だが、そんな言葉をかけてくれたユミリアに、俺は自然と笑みがこぼれる。
(あぁ、本当に、暖かい)
この幼い少女は、自分が何をしたのか、分かっていないのだろう。ぐずぐずと泣きながら、俺の服を必死で握るこの少女を、俺はどうしても守りたくなった。
(蒼月狼や星妖精と比べれば足下にも及ばないかもしれない。それでも……)
側に居たい。だから、俺は、ユミリアをそっと抱き締めて、力を取り戻す決意をする。今度こそ、自分を諦めたりしない。今度は、ユミリアのために、この力を使うのだから。
俺と同じ黒髪を、さらりと撫でて、俺は、ユミリアをしっかりとなだめるのだった。
当時、まだ十歳のガキだった俺は、優しい人間達に囲まれて、幸せだった。だから、その二年後、魔王の脅威が迫った国に、少しでも貢献できないかと勇者に志願したのは当然のことだった。
人間でも竜人でも、まだ子供といえる十二歳。それでも、俺の力は類をみないほど強力なもので、俺は晴れて、国に認められる勇者として、魔王討伐の旅に出発したのだ。
(まさか、人間が裏切るなんて、あの頃は思ってもみなかったからな……)
何もかもが順調だったはずなのに、いったい、俺はどこで選択を間違ったのだろうかと、今でも考えてしまう。
俺に施された封印は、実にいやらしいものだった。当時、仲間であった聖女は、どうやら俺のことが好きだったらしい。そして、同じく仲間であった魔導師は、その聖女のことが好きで……俺が国を追われる身となった途端、魔導師は執拗に俺を殺そうとしてきた。しかし、結局封印という形になってしまったのは、ひとえに、やつが俺を苦しめたかったからなのだろう。
(ご丁寧に、魔の実をばら蒔いていったからなぁ……)
俺の封印は、俺の意識までは封じてくれなかった。魔族に襲撃され、荒れ果てた大地。そこへ、俺は身動きを封じられ、意識だけを残され、ずっと、ずっと、芽吹いた魔の実の栄養として存在していた。魔力が徐々に奪われる恐怖。元の肉体のままではすぐに死んでしまうと、防衛本能から幼い姿になったものの、それは苦痛を長引かせる結果にしかならないはずだった。自殺することも許されず、ただただ、ゆっくり、じわじわと、自分が死んでいくのを感じるしかない。そんな、発狂ものの恐怖を味わう中……ユミリアが来たのだ。
(天使かと、思った……)
あまりにも愛らしいその姿に、俺は、もしかしたら気づかないうちに死んでしまって、天国に来たのかと思った。もちろんそれは、蒼月狼と星妖精を見ることによって否定されたが。
(蒼月狼に星妖精を従える幼女って何だよっ。本当に、殺されるかと思ったぞ!?)
ユミリアは気づいていなかったが、あの二人は確実に、俺へ殺気を飛ばしていた。さすがの俺も、あの二人を相手に戦って生き残れるなんて思えない。
そうして、いつの間にか意識を失っていた俺は、事情を話して……なぜか、ユミリアに泣かれていた。
「ふぇっ、ぐずっ……」
「あ、あぁっ、もう、泣くなって……」
体は小さいが、割としっかりしていることから考えると、ユミリアは五歳くらいなのだろうか? 竜人の子供はもちろん、人間の子供ともあまり関わってこなかったため、そこら辺の認識が甘い自覚はある。そして、子供と関わってこなかったということは、当然、泣かれた時の対処法なんかも知らないということで、俺は盛大に慌てる。しかし……。
(俺のために、泣いてくれる子、か……)
竜人の国では差別され、人間の国では強いから大丈夫だと、俺に配慮する人間など居なかったように思える。人間達は優しくもあったが、俺の内面に踏み込んでくることはなかった。それは、俺自身が強くあろうとしていたから当然なのかもしれないが、それでも、寂しくなかったわけではない。
(何だか……暖かい、な……)
胸に灯った小さな明かり。それは、きっと俺がずっと求めてやまなかったもの……。
「みゅうぅっ、いちゃいにょいちゃいにょとんでゆけーっ(みゅうぅっ、痛いの痛いの飛んでゆけーっ)」
何の呪文かは不明だが、そんな言葉をかけてくれたユミリアに、俺は自然と笑みがこぼれる。
(あぁ、本当に、暖かい)
この幼い少女は、自分が何をしたのか、分かっていないのだろう。ぐずぐずと泣きながら、俺の服を必死で握るこの少女を、俺はどうしても守りたくなった。
(蒼月狼や星妖精と比べれば足下にも及ばないかもしれない。それでも……)
側に居たい。だから、俺は、ユミリアをそっと抱き締めて、力を取り戻す決意をする。今度こそ、自分を諦めたりしない。今度は、ユミリアのために、この力を使うのだから。
俺と同じ黒髪を、さらりと撫でて、俺は、ユミリアをしっかりとなだめるのだった。
93
お気に入りに追加
5,643
あなたにおすすめの小説
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
私の婚約者は6人目の攻略対象者でした
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。
すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。
そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。
確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。
って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?
ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。
そんなクラウディアが幸せになる話。
※本編完結済※番外編更新中
転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました
みなみ抄花
恋愛
睦見 香桜(むつみ かお)は今年で19歳。
日本で普通に生まれ日本で育った少し田舎の町の娘であったが、都内の大学に無事合格し春からは学生寮で新生活がスタートするはず、だった。
引越しの前日、生まれ育った町を離れることに、少し名残惜しさを感じた香桜は、子どもの頃によく遊んだ川まで一人で歩いていた。
そこで子犬が溺れているのが目に入り、助けるためいきなり川に飛び込んでしまう。
香桜は必死の力で子犬を岸にあげるも、そこで力尽きてしまい……
おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
サロン勤めで拘束時間は長く、休みもなかなか取れずに働きに働いた結果。
貯金残高はビックリするほど貯まってたけど、使う時間もないまま転生してた。
そして通勤の電車の中で暇つぶしに、ちょろーっとだけ遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したっぽい?
あんまり内容覚えてないけど…
悪役令嬢がムチムチしてたのだけは許せなかった!
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドを堪能してくださいませ?
********************
初投稿です。
転生侍女シリーズ第一弾。
短編全4話で、投稿予約済みです。
【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~
うり北 うりこ
恋愛
平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。
絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。
今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。
オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、
婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。
※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。
※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。
※途中からダブルヒロインになります。
イラストはMasquer様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる