悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌

文字の大きさ
上 下
18 / 412
第一章 幼少期編

第十七話 名前

しおりを挟む
 状況を整理しよう。フェンリルの討伐、もしくは説得の試練を受けた。フェンリルを躾て、回復させて、話を聞いた。友達になろうと言えば、下僕にしてほしいと言われた。……うん、謎だ。


『……フェンリルは、強い者に従う習性が強いんだ』


 そんな私に答えをくれたのは、どこか遠い目をしたセイだった。


(……なるほど)


 きっと、躾がキツすぎたのだろう。その自覚は、一応ある。『コツ生』で、鼻ばかり狙ってフェンリルを屈服させると、泡を吹いて倒れたフェンリルの可愛いアイコンが出てくるため、つい調子に乗ってやってしまったが、フェンリルにとっては大事だったに違いない。


「っ、下僕がダメなら、奴隷でもっ」

「めっ、ともだちがいいにょっ(メッ、友達が良いのっ)」


 しばらく黙っていると、何を思ったか焦ったように告げてきたフェンリルに、私は自分の意思表示をしっかりしておく。


「で、でも……」

「……わちゃしにょゆうこと、ちちぇにゃい? (私のいうこと、聞けない?)」


 秘技、上目遣い!
 猫耳プリティー幼女のおねだり攻撃は、きっと効果抜群だと思ってしかけてみれば、フェンリルはブンブンブンッと首を振る。


「聞ける! 聞けるからっ!」

「にゃら、ともだちにゃにょー(なら、友達なのー)」


 友達ならば、この見事な毛並みを、モフモフして、モフモフして、モッフンモッフンすることも可能かもしれない。そう目を輝かせていると、フェンリルは私の前で伏せる。


「名前、ほしい」

「みゅ? にゃまえ、にゃいにょ? (みゅ? 名前、ないの?)」

「ない」


 私としては、フェンリル自身の名前を聞き出そうと思っていたのだが、どうやら名前がそもそもないらしい。後に聞いた話では、異質な子供が生まれたことで、両親からは遠ざけられ、名前などもらえなかったという話だ。その話に、『何だそれっ!』と憤慨して、慌てたフェンリルにモフモフをスリスリされて落ち着くことになるのだが……とにかく、今は名前がないとのことだ。何か、考えなければならない。


「みゅう……みゅうぅぅうっ」


 オッドアイのフェンリル。使う魔法は、氷と炎。どこから名前を捻り出したものかとウンウン悩む私は、じーっとフェンリルの瞳を見続ける。


(右目はルビー、左目はサファイアみたい……って、あれ? そういえば、ルビーとサファイアって同じ鉱物だったような? 名前は……えーっとコランダム? 和名は鋼玉だったはず……よしっ)


「あにゃたにょにゃまえ、『こう』! (あなたの名前、『鋼』)」

「コウ、コウ、か……」


 噛み締めるように何度も『コウ』と繰り返すフェンリルは、嬉しいのか、尻尾がブンブンと揺れている。そして、私の名前も聞いてきたため、『ユミリア』だと教えておく。


「もう、あばれりゅにょ、めっ、よ? (もう、暴れるの、メッ、よ?)」

「ずっと、ユミリアに付いていくから問題ない」


 しかし、そんな鋼の発言に、私は困惑してしまう。


「みゅう……いえに、いれりゃれないにょ(みゅう……家に、入れられないの)」

「小さくなる」

「みちゅかりゅと、こまりゅにょ(見つかると、困るの)」

「隠れるのは得意」

「みゅうぅ?」


 それなら、いけるだろうかと思ってしまった私は、きっと悪くはない。万が一見つかったとしても、小さくなってくれるならフェンリルだとバレることもないはずだ。ただ……。


「しょくりょう、にゃいにょ(食料、ないの)」


 多分、それが大きな問題になるはずだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

私の婚約者は6人目の攻略対象者でした

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。 すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。 そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。 確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。 って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?  ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。 そんなクラウディアが幸せになる話。 ※本編完結済※番外編更新中

転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました

みなみ抄花
恋愛
睦見 香桜(むつみ かお)は今年で19歳。 日本で普通に生まれ日本で育った少し田舎の町の娘であったが、都内の大学に無事合格し春からは学生寮で新生活がスタートするはず、だった。 引越しの前日、生まれ育った町を離れることに、少し名残惜しさを感じた香桜は、子どもの頃によく遊んだ川まで一人で歩いていた。 そこで子犬が溺れているのが目に入り、助けるためいきなり川に飛び込んでしまう。 香桜は必死の力で子犬を岸にあげるも、そこで力尽きてしまい……

おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 サロン勤めで拘束時間は長く、休みもなかなか取れずに働きに働いた結果。 貯金残高はビックリするほど貯まってたけど、使う時間もないまま転生してた。 そして通勤の電車の中で暇つぶしに、ちょろーっとだけ遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したっぽい? あんまり内容覚えてないけど… 悪役令嬢がムチムチしてたのだけは許せなかった! さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドを堪能してくださいませ? ******************** 初投稿です。 転生侍女シリーズ第一弾。 短編全4話で、投稿予約済みです。

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

処理中です...