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第一章 傷だらけの剣姫
第九話 最後のゼス(ゼス視点)
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残り、一日。明日になれば、俺は、いつ醒めるか分からない眠りに落ちることとなる。もしもその間に世界が滅びるようなことがあれば、きっと、その時は俺もそのまま滅びるのだろう。
「殿下……どこか、行きたい場所はございますか?」
アルスは、必死に手を尽くしてくれた。少なくとも、ウォルフ王国の国民の全てとは対面したのではないだろうかというほどに、様々なイベントを打ち出し、他国へ出向いたりもした。しかし、結果は、アルスの表情が物語っている。俺に、運命の番は、半身は、現れなかった。
「人が、居ない場所が良いな。ずっと、人に会ってばかりだったから……」
もう、これ以上打てる手はない。と、いうか、何をするにしても、時間が足りないのだ。
「……御意」
うつむいたアルスの表情を見ないようにして、俺達は、外へ出る。
馬を駆って、街の外へ……いや、国の外にまで出る。幸いと言って良いのか、俺達は、国に帰る途中で大雨に見舞われ、どうにか街に入ったものの、到底城へ戻ることはできないだろう場所にまで来ていた。だから、俺達は、容易く国の外に出て……人気がない岩山までやってくる。
「向こうにあるのは、オチ国か……」
「はい。あそこだけは、我々の手が及ばない場所です。もしも、あそこに殿下の半身がいらっしゃれば……」
「いや、それはきっとないだろう。あの場所は、不浄の土地。便宜上、国と呼んではいるが、あそこに住まう者は人であって人ではない」
オチ国。そこは、本来は堕ち国として存在する場所であり、罪人の魂が、浄化を逃れて向かう場所だ。そのため、そこに住まう人間は、外の浄化の空気に耐えることができず、また、罪人達を浄化すべく存在する聖獣達によって、その魂は本来のあり方に戻される。だから、基本的に、彼らはオチ国から出られない。そもそも、ウォルフ王家において、オチ国の者だけは半身となり得ないと古い文献に記されている。
「……まれに、こちら側の者が紛れ込むこともあるようです。それを考えれば、万が一ということも……」
「だが、それを確認することはできない、だろう?」
一応、観測者と呼ばれる存在がこの世界には居る。彼らは、オチ国の罪人が流出しないよう、制限をかけるために各所で聖獣を生み出し、操っている。しかし、彼らは常に移動し続ける上、一国に留まることをしない。そのため、オチ国のことを聞こうにも、彼らと接触すること自体が難題だった。
「私も、観測者を見つけようとはしていたのですが……十年かけても、見つかりませんでしたね」
「……苦労をかけたな」
アルスが、観測者を探し求めて居るのは知っていた。彼らは不思議な存在で、ウォルフ王家の半身がどこに居るのか読み解く力を持っている。もちろん、ドラゴニア王家の秘宝の在り処も知っているし、キトゥン王家の安息の地も知っている。
三国の王家は、それぞれが似たような呪いにかかっており、観測者に尋ねることさえできれば、半身を見つけ、眠りを回避することも、秘宝を見つけ、石化を回避することも、安息の地を見つけ、封印を回避することもできる。ただ、彼らを見つけることは、半身や秘宝、安息の地を見つける以上に困難だとされていたため、見つけられないのは仕方のないことだった。
空は次第に光を失い、夜の闇が訪れようとしている。それは、俺が最後に目にする夜となるかもしれない。そう、思っていると……ふと、甘い香りが漂っていることに気づいた。
「殿下……どこか、行きたい場所はございますか?」
アルスは、必死に手を尽くしてくれた。少なくとも、ウォルフ王国の国民の全てとは対面したのではないだろうかというほどに、様々なイベントを打ち出し、他国へ出向いたりもした。しかし、結果は、アルスの表情が物語っている。俺に、運命の番は、半身は、現れなかった。
「人が、居ない場所が良いな。ずっと、人に会ってばかりだったから……」
もう、これ以上打てる手はない。と、いうか、何をするにしても、時間が足りないのだ。
「……御意」
うつむいたアルスの表情を見ないようにして、俺達は、外へ出る。
馬を駆って、街の外へ……いや、国の外にまで出る。幸いと言って良いのか、俺達は、国に帰る途中で大雨に見舞われ、どうにか街に入ったものの、到底城へ戻ることはできないだろう場所にまで来ていた。だから、俺達は、容易く国の外に出て……人気がない岩山までやってくる。
「向こうにあるのは、オチ国か……」
「はい。あそこだけは、我々の手が及ばない場所です。もしも、あそこに殿下の半身がいらっしゃれば……」
「いや、それはきっとないだろう。あの場所は、不浄の土地。便宜上、国と呼んではいるが、あそこに住まう者は人であって人ではない」
オチ国。そこは、本来は堕ち国として存在する場所であり、罪人の魂が、浄化を逃れて向かう場所だ。そのため、そこに住まう人間は、外の浄化の空気に耐えることができず、また、罪人達を浄化すべく存在する聖獣達によって、その魂は本来のあり方に戻される。だから、基本的に、彼らはオチ国から出られない。そもそも、ウォルフ王家において、オチ国の者だけは半身となり得ないと古い文献に記されている。
「……まれに、こちら側の者が紛れ込むこともあるようです。それを考えれば、万が一ということも……」
「だが、それを確認することはできない、だろう?」
一応、観測者と呼ばれる存在がこの世界には居る。彼らは、オチ国の罪人が流出しないよう、制限をかけるために各所で聖獣を生み出し、操っている。しかし、彼らは常に移動し続ける上、一国に留まることをしない。そのため、オチ国のことを聞こうにも、彼らと接触すること自体が難題だった。
「私も、観測者を見つけようとはしていたのですが……十年かけても、見つかりませんでしたね」
「……苦労をかけたな」
アルスが、観測者を探し求めて居るのは知っていた。彼らは不思議な存在で、ウォルフ王家の半身がどこに居るのか読み解く力を持っている。もちろん、ドラゴニア王家の秘宝の在り処も知っているし、キトゥン王家の安息の地も知っている。
三国の王家は、それぞれが似たような呪いにかかっており、観測者に尋ねることさえできれば、半身を見つけ、眠りを回避することも、秘宝を見つけ、石化を回避することも、安息の地を見つけ、封印を回避することもできる。ただ、彼らを見つけることは、半身や秘宝、安息の地を見つける以上に困難だとされていたため、見つけられないのは仕方のないことだった。
空は次第に光を失い、夜の闇が訪れようとしている。それは、俺が最後に目にする夜となるかもしれない。そう、思っていると……ふと、甘い香りが漂っていることに気づいた。
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