34 / 39
第二章 答えを求めて
第三十三話 きょうだい
しおりを挟む
「どう、して……」
暗がりの中、その声は、とても、とてもか細いものだったが、不自然なくらいに五人の耳にはっきりと届いた。
「どうして、どうして、どうして、どうして」
同じ言葉を、ずっと呪詛のように繰り返す清美。しかし、それと同時に、彼らの頭の中には、誰かの記憶が流れ込んでいた。
母親に虐待される日々と、学校で行われる陰湿ないじめによって、追い詰められる心。しかも、いじめを行っている相手が分からないという不気味さが、さらに少女を、清美を追い込んでいるようだった。そして……。
『キミのキョウダイは、ライゲツのキモダメシにサンカするヨ。キミも、サンカできるヨウニ、テハイしよウ』
そんな言葉を見た直後、五人は全員、膝をついた。
「ねぇ、だれ? だれ? だれ? だれ??」
きっと、この言葉だけを聞いたとしたら、意味など分からなかっただろう。しかし、五人は知ってしまった。清美がどれだけ苦しんでいたのかを、そして、どれだけ、居るかもしれない兄弟姉妹を羨み、憎んでいたのかも……。
いつの間にか、背後の音は止んでいた。しかし、目の前の清美は、虚ろな表情のまま、ずっと、ずっと、同じ問いかけを続けている。
「ね、寧子ちゃんっ! しっかりして!」
「ころしてやる、ころしてやる、コロしてやル、コロシテヤル」
男女のいくつかの声が、清美と混じり合い、憎悪を、殺意を、剝き出しにする。
一人二人ではない、いくつもの憎悪が向けられ、彼らは誰もが尻込みする。ただし……。
「もしかして……いじめられて、死んだ人の呪い……?」
その言葉で、ギョロリと、清美であって清美ではないモノが望月を睨む。
「ヤツラが、ワルイッ!」「ぼくは、しにたく、なかった……」「クルシイ、クルシイィッ」「ナンデナンデナンデナンデ」「しねしねしねしねしね」「たす、けて……」
最後の最後、聞こえた声だけは、きっと清美のものだった。そして……。
「恐らく、清美の兄弟は俺だろう。だが、俺は清美をいじめようと思ったことはないし、そもそも清美が俺の姉か妹だというのも、今初めて、その可能性があると思い至った」
そう声をあげたのは、芦田だった。そして、それと同時に、ピタリと不気味な声が止まる。
「俺の家は、暴力を振るう父と、それに怯える母、そして、俺と体が弱い弟が一人居る」
淡々と語られるそれは、その口調とは裏腹に、随分と重いものだった。
「ぼう、りょく……」
「さっき、清美の記憶にあった父親の姿。あれは、俺の父親だろうと思う。俺は、あんな父親のようにはなりたくなくて、強くなりたかった。柔道を習って、どうにか母と弟を守りたかった」
その言葉の通り、芦田は柔道を必死に習っていて、全国大会にも出場する話が出ていた。ただ、芦田自身は、大会に出るための柔道ではないと、それよりも大切なことがあると言って断ったという話も有名だった。
「俺は子供で、まだ大人のように大きな約束はできない」
虚ろで、全てに絶望した様子だった清美の前へ、芦田は一歩踏み出す。
「それでも、約束させてくれ。俺が、必ず清美を助けるから」
固唾を呑んで見守る四人。
そんな中、ポタリと、清美の頬から雫がこぼれ落ちる。
「あ……」
「俺の家族を傷つけたんなら、誰が相手でも容赦しない。だから、帰ってこい、清美っ」
そう、手を差し伸べた芦田へ、清美はそっと手を取ろうとして……。
『ユ・ル・サ・ナ・イ』
深い深い、闇の奥から、男とも女ともつかない声達が響いてきた。
暗がりの中、その声は、とても、とてもか細いものだったが、不自然なくらいに五人の耳にはっきりと届いた。
「どうして、どうして、どうして、どうして」
同じ言葉を、ずっと呪詛のように繰り返す清美。しかし、それと同時に、彼らの頭の中には、誰かの記憶が流れ込んでいた。
母親に虐待される日々と、学校で行われる陰湿ないじめによって、追い詰められる心。しかも、いじめを行っている相手が分からないという不気味さが、さらに少女を、清美を追い込んでいるようだった。そして……。
『キミのキョウダイは、ライゲツのキモダメシにサンカするヨ。キミも、サンカできるヨウニ、テハイしよウ』
そんな言葉を見た直後、五人は全員、膝をついた。
「ねぇ、だれ? だれ? だれ? だれ??」
きっと、この言葉だけを聞いたとしたら、意味など分からなかっただろう。しかし、五人は知ってしまった。清美がどれだけ苦しんでいたのかを、そして、どれだけ、居るかもしれない兄弟姉妹を羨み、憎んでいたのかも……。
いつの間にか、背後の音は止んでいた。しかし、目の前の清美は、虚ろな表情のまま、ずっと、ずっと、同じ問いかけを続けている。
「ね、寧子ちゃんっ! しっかりして!」
「ころしてやる、ころしてやる、コロしてやル、コロシテヤル」
男女のいくつかの声が、清美と混じり合い、憎悪を、殺意を、剝き出しにする。
一人二人ではない、いくつもの憎悪が向けられ、彼らは誰もが尻込みする。ただし……。
「もしかして……いじめられて、死んだ人の呪い……?」
その言葉で、ギョロリと、清美であって清美ではないモノが望月を睨む。
「ヤツラが、ワルイッ!」「ぼくは、しにたく、なかった……」「クルシイ、クルシイィッ」「ナンデナンデナンデナンデ」「しねしねしねしねしね」「たす、けて……」
最後の最後、聞こえた声だけは、きっと清美のものだった。そして……。
「恐らく、清美の兄弟は俺だろう。だが、俺は清美をいじめようと思ったことはないし、そもそも清美が俺の姉か妹だというのも、今初めて、その可能性があると思い至った」
そう声をあげたのは、芦田だった。そして、それと同時に、ピタリと不気味な声が止まる。
「俺の家は、暴力を振るう父と、それに怯える母、そして、俺と体が弱い弟が一人居る」
淡々と語られるそれは、その口調とは裏腹に、随分と重いものだった。
「ぼう、りょく……」
「さっき、清美の記憶にあった父親の姿。あれは、俺の父親だろうと思う。俺は、あんな父親のようにはなりたくなくて、強くなりたかった。柔道を習って、どうにか母と弟を守りたかった」
その言葉の通り、芦田は柔道を必死に習っていて、全国大会にも出場する話が出ていた。ただ、芦田自身は、大会に出るための柔道ではないと、それよりも大切なことがあると言って断ったという話も有名だった。
「俺は子供で、まだ大人のように大きな約束はできない」
虚ろで、全てに絶望した様子だった清美の前へ、芦田は一歩踏み出す。
「それでも、約束させてくれ。俺が、必ず清美を助けるから」
固唾を呑んで見守る四人。
そんな中、ポタリと、清美の頬から雫がこぼれ落ちる。
「あ……」
「俺の家族を傷つけたんなら、誰が相手でも容赦しない。だから、帰ってこい、清美っ」
そう、手を差し伸べた芦田へ、清美はそっと手を取ろうとして……。
『ユ・ル・サ・ナ・イ』
深い深い、闇の奥から、男とも女ともつかない声達が響いてきた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
【完】ことうの怪物いっか ~夏休みに親子で漂流したのは怪物島!? 吸血鬼と人造人間に育てられた女の子を救出せよ! ~
丹斗大巴
児童書・童話
どきどきヒヤヒヤの夏休み!小学生とその両親が流れ着いたのは、モンスターの住む孤島!?
*☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆*
夏休み、家族で出掛けた先でクルーザーが転覆し、漂流した青山親子の3人。とある島に流れ着くと、古風で顔色の悪い外国人と、大怪我を負ったという気味の悪い執事、そしてあどけない少女が住んでいた。なんと、彼らの正体は吸血鬼と、その吸血鬼に作られた人造人間! 人間の少女を救い出し、無事に島から脱出できるのか……!?
*☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆*
家族のきずなと種を超えた友情の物語。
霊能者、はじめます!
島崎 紗都子
児童書・童話
小学六年生の神埜菜月(こうのなつき)は、ひょんなことから同じクラスで学校一のイケメン鴻巣翔流(こうのすかける)が、霊が視えて祓えて成仏させることができる霊能者だと知る。
最初は冷たい性格の翔流を嫌う菜月であったが、少しずつ翔流の優しさを知り次第に親しくなっていく。だが、翔流と親しくなった途端、菜月の周りで不可思議なことが起こるように。さらに翔流の能力の影響を受け菜月も視える体質に…!
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
おっとりドンの童歌
花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。
意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。
「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。
なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。
「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。
その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。
道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。
その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。
みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。
ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。
ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。
ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?
こちら御神楽学園心霊部!
緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。
灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。
それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。
。
部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。
前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。
通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。
どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。
封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。
決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。
事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。
ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。
都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。
延々と名前を問う不気味な声【名前】。
10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。
イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~
友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。
全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。
子猫マムと雲の都
杉 孝子
児童書・童話
マムが住んでいる世界では、雨が振らなくなったせいで野菜や植物が日照り続きで枯れ始めた。困り果てる人々を見てマムは何とかしたいと思います。
マムがグリムに相談したところ、雨を降らせるには雲の上の世界へ行き、雨の精霊たちにお願いするしかないと聞かされます。雲の都に行くためには空を飛ぶ力が必要だと知り、魔法の羽を持っている鷹のタカコ婆さんを訪ねて一行は冒険の旅に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる