黒板の怪談

星宮歌

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第一章 肝試しの夜

第一話 学校へ

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「ねぇ、ちょっと、やっぱりやめようよ」


 そう、不安そうに、顔色を青くして言ったのは、メガネをかけたちょっと気弱そうな女の子、清美寧子きよみねいこ
 すでに誰も居ない、放課後の学校。本来は鍵が閉まっているはずの裏門は、最近、鍵が壊れたらしく、先頭を歩く男の子、芦田大地あしだだいちが手で押せば、簡単に開いた。


「何言ってんだよ。皆でやらなきゃ意味ねぇだろ?」


 芦田は、この集団のリーダーであり、堂々とした様子で後ろを振り向きながら清美へと応える。


「キヨちゃん、怖がりだねぇ。僕の手なら、握ってても良いよっ」

「ハッ、あんたの手なんか握ったら、寧子ちゃんの手が汚れるわっ! 寧子ちゃん、変な狼からは私が守るから大丈夫よ」


 穏やかそうな顔で、ナンパ男のようなセリフを言ったのは鹿野田透かのだとおる。清美を庇って鹿野田を睨むのは、杉下七海すぎしたななみだ。


「スーちゃん、おっとこまえーっ! ヒューヒュー!」

「か、格好いい、ね」


 四人の更に後ろに続いて校舎の中へと入るのは、望月優愛もちづきゆあと、中田蓮なかたれん

 この男女六人は、今日、肝試しのために夜の学校へとやってきていた。当然、親には友達の家に泊まる、という内容で誤魔化ごまかしている。


「さてさて、ちゃんと校内に入れたことだし、ルール説明とこの学校に伝わる七不思議の一つを話しちゃおっかなー」

「おっ、良いな、それ。頼むわ、望月」

「りょーかいっ! アッシー」


 小声ながらもハイテンションで話す望月に、芦田は軽く応じる。
 実際のところ、この場で本当に怖がっているように見えるのは清美ただ一人であり、それ以外はそれなりに楽しんでいるように見えたり、興味津津のように見えたりする。


「ではでは、不肖ふしょうながら、この私、望月優愛が諸々もろもろの説明を担当しよう!」


 およそ小学生とは思えない言い回しをしながらも、望月はニンマリと笑って話を始める。


「これは、今から十年くらい前の話なんだけどね?」


 そう、前置きすると、望月は一度全員を見渡して、ゆっくりと話す。


「ある日の授業中、突然、一つのクラスの生徒がほとんど消えるっていう事件が起こったんだ。当時、授業開始のチャイムが鳴った直後で、先生の方は作業が色々とまっていたらしく、ほんの少しだけ、時間にしたら、二、三分くらい遅れて教室に行ったんだけど、そこでようやく、生徒が居ないことに気づいたみたい」


 何となく、ありがちな、しかし、今自分達が居る学校で起こったことだと思えば、ついつい全員が話に集中する。


「先生はきっと慌てたよね? だって、教室は間違ってないし、その前後の授業でも移動教室はなかったらしいから、生徒からのボイコットだって考えられたわけだし」


 普通なら、生徒全員が授業をボイコットするなんて考えもしないことだ。しかし、それを考えてしまうほどに、それは異常だったのだろう。

 望月の話に、誰もがゴクリと固唾を呑む。


「でも、生徒は一人も帰らなかった。誘拐なのか、殺人なのか、何一つ分からないままに時は流れて……一月経った頃に、ふと、学校で異変が表れたの」


 清美は、やはり怖いのか、杉下の手をキュッと掴む。杉下は、そんな清美の手を握り返して、それでも話が気になるのかその場から動こうとはしない。
 芦田や中田は興味津津で、鹿野田はニコニコと笑みを崩すことなく浮べ続けている。


「最初に気づいたのは、生徒が消えた日、教室に来ていた先生。異変は、なぜか、黒板が少し盛り上がってボコボコしている、というものだったの。でも、それは日を追うごとにどんどん酷くなって、とうとう、業者を呼んで原因を探ってもらおうということになった。でも、ね……」


 そこで、望月は声量を落とす。


「そこには、何もなかった。ううん、正確には、子供の顔らしき形をした空洞・・・・・・・・・・・・・が、行方不明になった子供の数だけ確認されて、それでも、そこには何も、残されていなかったの……」


 ヒュッと息を呑んだのは、いったい誰だっただろうか。


「それから、十年。今でも、その部屋は残っているものの、結局、生徒は誰も、戻らなかった」


 しん、と静まり返った校舎。
 夏の暑い季節であるはずなのに、どこか肌寒ささえ感じる。
 誰もが、言葉を発することなくただただ立ち尽くす異様な空間。


「と、いうわけでっ、続きまして、ルール説明に移りまーすっ!」


 しかし、その空気は、望月自身の明るい声によって盛大に壊された。
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