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第二章

第三十九話 難しい約束

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 狭い馬車の中。対面に座るセインさんを前に、私は必死に考える。


 どんな、口実ならセインさんを誘える……?


 セインさんも、この国に遊びで来ているわけではない。滞在期間は決まっているだろうし、そもそもが忙しい可能性も高い。いや、セインさん自身の見目の良さや有能さを考えるならば、十分優良物件と言えるし、他の女性方が放っておくとも思えない。
 私なんかよりも、もっと綺麗な女性と付き合っていても不思議はない。そんな女性と比較して、自分はどうだろうと考えると、全く、欠片も自信がない。


 で、でも、私は黒豹の獣人。戦闘能力なら……。


 そう、戦闘能力ならば、自信はある。ただし、それが世の男性に求められる女性の魅力かと問われれば、違うだろうという認識もある。


 ううん、そもそも、私は、可愛くも、ない……。


 傷物令嬢というのは偽りだ。しかし、だからといって私自身が可愛いとは、自分では到底思えなかった。


 お父様達は、可愛いと言ってくれる、けど……。


 身内贔屓。そんな言葉が浮かぶ。


 でも、口実がないと、セインさんを誘えない。そうなったら、もう、会えない……。


 それだけは、絶対に避けなければならなかった。
 魔族の片翼と獣人の運命の番は別物だとされているものの、似たものであることも確かなのだ。もし、私がセインさんの片翼であったのであれば、セインさんが私に性欲を抱いた視線を向けない、というのはあり得ない。黒豹である私ですら、それを抑えるのに必死なのに、愛に生きる種族とまで揶揄される魔族のセインさんが、それを抑えられるとは考え難かった。


 私は、きっと、片翼じゃない……。


 それは、理解できる。胸がとても……引き裂かれそうな程に痛くとも、ちゃんと、理解できる。だから、こそ。


 セインさんの側に、少しでも居るには、片翼ほどではなくとも、好意を抱いてもらわなきゃっ。そうでなきゃ、せめて、友人としての立場を得ないと、永遠に、会えなくなる……。


 もし、セインさんの片翼が見つかったら……いや、そもそも、すでに片翼が存在していたら、片翼の意見が、セインさんの中で一番重要なものとなる。そんな片翼に邪魔だと思われずに、想い続けて、その想いに心が焼け焦げて、苦しんでいても、気づかれない。そんな立場を得られなければ、側には居られないのだと分かっていた。


 好意を隠しつつ、誘う方法……。


 だからこそ、誘い文句は重要になってくる。そうして、必死に考えて言葉を纏めたところで、馬車が静かに停まった。
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