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第二章

第三十話 招かれざる客(セイン視点)

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 リコは、本当に美味しそうにプリンを食べる。それを見ているだけで、俺は幸せで胸がいっぱいだったが、そこに、招かれざる客が現れた。


「なんだ? なぜ、お前がこんなところに居る?」


 茶色の狐の獣人は、リコの姿を見るなり、声を荒げる。
 そして、その瞬間、リコの表情が強張ったのを、俺は見逃さなかった。


「っ……」

「どなたでしょうか? いえ、どなたでも構いませんが、女性を突然威圧するなど、男としてどうなのかとは思いますね」

「っ、何だっ、貴様は!」


 優先すべきはリコ。その威圧がリコに向かないよう、矛先を変えるための挑発は、どうやら功を奏したようで、男は俺に向かって吠える。


「私ですか? 私は、ヴァイラン魔国より特別講師として派遣された、セイン・ルナトリアと申します」

「ヴァイラン魔国ぅ? はっ! どうやらリコは、魔族の片翼に関しても知らないらしいなっ! やはりお前は阿婆擦れだっ!」


 何を、どうしたら、そんな結論に至るのか、全くもって理解できない。ただ一つ、分かることがあるとすれば……。


 こいつは、抹殺するっ!


 俺の片翼を侮辱するこの男は、敵だ。さすがにこの場では不味いという理性は働けども、抹殺の未来は、そう遠くない内になりそうだ。


「……あなたには、関係ない。私は、セインさんを、もてなしている、だけ」


 『もてなしているだけ』、という言葉に思うところがないわけではないが、今は、目の前の男の抹殺計画を立てるのに忙しい。


「はっ! どうだかっ! 黒豹の獣人というだけで我が家に擦り寄る阿婆擦れの言うことなんて、たかが知れてる!」

「っ、私は、擦り寄った覚えなんてないっ。それに、もう、あなたとの関係は切れてるはずっ」


 リコと、この男との関係が分からないため、下手に口を挟むことはできない。ただ、何となく、この二人は元々恋人同士だったのではないか、という嫌な予感が駆け巡る。幸いなことに、リコはさほどこの男に想いを寄せている風ではないものの、男の方は未練があるように見える。


「失礼ですが、リコさんと関係のない方なのであれば、これ以上関わらないでいただけますか? 私といたしましても、リコさんを威圧するような方と一緒に居て楽しいとは思えませんので」


 直訳すると、『さっさと失せろ、この野郎!』といったところだろうか。しかし、残念ながら、この男の頭には脳みそが詰まっていないらしかった。


「はぁ? こんな阿婆擦れと居る方が楽しくないでしょう? それに、こいつは俺の婚約者だ。関係がないなんてことはない」


 『婚約者』、などという言葉を、この男から聞くことになるとは思ってもみなかった。しかし、それと同時に納得する。こんな婚約者が居れば、リコも暗い顔になるだろうということを。
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