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第二章

第十九話 十五歳

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 季節は何度も巡り、私は、十五歳になっていた。
 ゼラフと婚約して十年。当初はすぐにでも破棄されるだろうと思われていたその婚約は、現在も続いていた。そして……。


「行ってきます」

「リコ、無理はしないようにな?」

「誰かに絡まれたら、わたくし達に報告してね?」

「はい」


 十年前と変わらない温かさを持つ両親に、それぞれ言葉をかけてもらいながら、私は学園へ通っていた。当然、その学園で専攻しているのは騎士科。将来、騎士団に入団したい者が所属する学科であり、一日の半分は体作りや訓練だ。
 ちなみに、婚約者のゼラフは領政科に所属しているらしいが、建物が全く違う場所に存在しているため、顔を合わせることは皆無だった。


 もっと、もっと、強くなるっ。


 すでに、同じ騎士科のメンバーには負けることなどない。しかし、それでも私は、鍛錬を怠るつもりはなかった。


「今日こそ、勝つ……」


 未だに届かぬ壁。それがあまりにも身近だからこそ、私は必死に鍛錬していた。

 元騎士団長、ダン・バルトリア。私は未だ、ダンお祖父様には一度も勝ててはいなかったのだ。
 特別講師として騎士科に在席しているダンお祖父様は、いつでも在校生の挑戦を受けてくれる。だからこそ、私は毎日のようにダンお祖父様に挑戦を続けていた。


「リコ・バルトリア! 今日こそお前に勝ぁつっ!!」


 ちなみに、ダンお祖父様に挑戦する前の関門として、私は同じ騎士科のメンバーに認識されており、こんな風に挑戦されることも度々ある。


「ん……放課後、受ける」

「よっしゃあ! 次は、簡単には負けないからなっ!!」


 今日挑戦してきたのも、そんなメンバーの一人であり、ケイン・ポロックという名前の犬の獣人だ。
 小柄な私よりは、多少大きいか、という程度の身長しかない彼は、私に何度も何度も挑んできていて、良き友でもある。
 他にも何度も挑んでくる者は居るし、むしろ挑んで来ない者なんて居ない有様ではあるものの、私の体は一つだし、私もダンお祖父様に挑戦したい、ということで、一日に受ける挑戦の数は五回まで、としている。そして、挑戦の予約は受け付けず、当日、直接申し込んだ者に、先着順でという制度も作って……いや、あまりにも挑戦の数が多くて困惑する私の代わりに、ダンお祖父様が作ってくれて、今の平穏がある。


「それにしても、リコは強いよなぁ。やっぱり、ダン先生の扱きを小さい頃から受けてたのが原因か?」

「ん……多分?」

「そっかぁ、なら、リコが受けてた年数、俺も扱いてもらえたら、リコに並ぶってことだな!」

「ん……今の、私と、同じくらい、なら?」

「あっ、そっか、そうしたら、リコはもっと強くなってるよなぁ。ま、まぁ、目標は高く、だよな!!」


 ミルク色の髪に茶色の柴犬らしき耳を持つ彼は、ひたすらに前向きな性格であり、察しも良い。そのおかげで、こうして会話も成立するのだ。


「そういえば、リコは、来月の生誕祭は、婚約者を連れてくるんだよな? 楽しみだな!」


 ただし、婚約者については特に話していないため、こうして話題を振られると、困ることも多い。

 来月、このモビア王国の国王が主催する生誕祭が行われる。その中で、私は婚約者にエスコートしてもらうこととなっていた。


「……頑張る」


 憂鬱ではあるものの、健康体だということを示すためにも、私は欠席することはできない。
 そうして、瞬く間に日々は過ぎて、ついに、生誕祭当日がやってきた。
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