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第一章

第六話 ゼラフの要求

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 ゼラフが私の婚約者になって、一月が経った。その間に、ゼラフは何度か親交を深めるためとの理由で私を呼び出し、その度に様々な暴言を浴びせられた。
 ゼラフが私と親交を深めたいとは思っていないことも、ドーマック公爵の手前、仲の良いフリだけでもしないわけにはいかないことも、全て理解できてしまっている私は、ただただ、その時間が過ぎることを待つしかできない。


 明日は、お父様が狩りの方法を教えてくれるって言ってたなぁ。


 伯爵家の令嬢として、それはどうなんだと言われそうではあるものの、獣人ならば当たり前のことだ。
 獣人は、男だろうが女だろうが、運命の番には自分で仕留めた獲物を捧げて求愛するという風習があるらしい。そのため、狩りというのは、獣人にとって最も重要なスキルなのだ。


「おいっ、きいてるのかっ!? ぼくは、うんめいでもないおまえなんかを、このやしきにいれたくないんだ! だから、どれいのおまえがなんとかしろっ!!」


 明日の狩りに思いを馳せていれば、とんでもない要求が突きつけられていた。だから……。


「わかりました。……こーしゃくさまに、いってみます」


 両親には隠さなければならない、このゼラフの本性。しかし、ゼラフの親であるドーマック公爵には、別に話しても良いように思えたため、私はそう言ってみる。と、いうより、そんな要求を叶える手段なんて、まだまだ話すことも覚束無い私にできるわけがないので、どこかに丸投げするしかないのだ。


「なっ、つげぐちなんてひきょーだぞ!」

「? でも、こーしゃくさまにいわないと、むり、です」


 私の言葉は真実のはずだが、ゼラフには、それが受け入れられないようだった。


「っ、ちちうえにはなさず、ぜんぶかなえるのが、おまえのしごとだ!」


 顔を真っ赤にして怒るゼラフの様子に、私は必死に考える。
 ただでさえ、人付き合いは苦手なのだ。直接要望を通す以外で、何か方法があるなど、今の私には考えつかない。ただ……。


「わかり、ました。がんばって、みます」


 ここで無理だと言っても、ゼラフの要求が取り下げられはしないということだけは分かる。


 前の世界にも、ハウツー本とかあったから、こっちにも、そういうの、ないかなぁ?


 両親にゼラフの本性がバレることだけは避けなければならない。そして、その上でゼラフを納得させる結果を出す方法。


 もし、ゼラフ君に会わないで済むなら、悲しいのもなくなる。


 一人ぼっちの悲しさとは違うが、ゼラフの暴言も悲しいものではある。誰もが納得できる理由で、離れていられるのであれば、それは私にとっても良いことだった。

 一応、婚約者同士のお茶会、という名目の暴言披露会が終わって、大人達の前ではにこやかに微笑むゼラフの見送りを受けながら馬車に乗る。
 馬車の中には、お母様が付けてくれた侍女のジーナが一緒に乗ってくれることになっていて、ジーナの心配そうな質問に、ポツリ、ポツリと嘘の返事をする。


 ……このお茶会がなければ、ジーナに嘘を吐かなくても済む。


 また一つ、ゼラフの要求を叶えるメリットを見つけた私は、ゼラフに言われたからではなく、両親やジーナを守るために頑張ろうと、改めて決意を固くする。

 ただし、私は思ってもみなかった。それが、すぐに叶うことになるなどと。私が思うどの方法とも異なるそれによって、約十年間という時間を稼ぐことができるなんて……。

 今は、ただただ、そんなことも知らずに、まずは本を探してみようと、のんびり考えるだけだった。
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