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第二章 戻された世界

第百六話 それぞれの罰4

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「ふっ、ふふふふっ、あははははっ! そうだよ! それが? だって目障りじゃないか! 僕だけが天才で、僕だけが注目されていればいいのに、あいつは、いつもいつも、僕とは違う方面で成功を叩き出していくっ! 所詮は凡人なあいつごときがっ!」


 『凡人』とジリエルは言うものの、ロジエルは十分に天才だった。努力して、その全てを結果に繋げられる者がいったいどれほど存在するというのか、ジリエルはその点を全く理解していない。天才であるがゆえに、本物の凡人を知らない。


「……そう。じゃあ、もう、『黙れ』」


 目を血走らせていたジリエルへと、アルガは自らの神力を行使する。この場では、ジリエルが神力を行使することなどできない。そのために、アルガのその力は、ジリエルを拘束するに十分なものだった。


「ねぇ、レアナ。これ以上、コイツに聞きたいこと、あるかな?」


 完全に口がきけなくなったジリエル。その姿は、完全な嫉妬に駆られた姿であり、見苦しいことこの上ない。アルガを鋭く睨むジリエルの様子を、ほんの僅かの間だけ見つめたレアナは、アルガへと向き直り、首を横に振る。


「もう、聞きたいことはないから、大丈夫」


 ショックが大きかったであろうに、レアナは、気丈にもそう応える。


「じゃあ、最初の取り決め通り、それぞれで罰を与えよう。そして、その罰は、ジリエルにしか伝わらないようにしようとも思うけど、それでも良いかな?」


 そこに、どういう意図があるのかは分からない。しかし、アルガの言葉にレアナもサミュエルも反対はしなかった。そうして、それぞれが、ジリエルへと罰を言い渡す。


「三の神、アルガが、一の神、ジリエルへと一つ目の罰を言い渡す。お前の罰は、隔離された世界で、ただ一人、永遠を生き続けることだ。これは、ロジエル様と同じ罰でもある」


 その言葉に、ジリエルの目はますます鋭くアルガを睨む。


「二の神、サミュエルが、一の神、ジリエルへ二つ目の罰を言い渡す。あなたの罰は、愛する者を未来永劫、二度と思い浮かべることができなくなることだ」


 サミュエルの罰に対して、ジリエルは初めて動揺を示す。


「三の神、レアナが、一の神、ジリエル様へ三つ目の罰を言い渡します。あなたへの罰は……お父様のことを完全に忘れること。記憶がなければ、ジリエル様も、心穏やかに暮らせると思うんです」


 最後に伝えられたレアナの罰によって、ジリエルは絶望の視線をレアナへと向ける。
 しかし、レアナはそのジリエルの様子に気づくことなく、一礼をして、アルガの元へと戻ってしまう。

 ジリエルが誰を愛していたのかは分からない。しかし、確かにジリエルは、誰かを愛し、そして、ロジエルへと依存していた。ロジエルが自分の下に居ることで、どうにかその自尊心を満たし、その場に立っていられたのだ。
 ロジエルを脅威だと思う心も、ロジエルを貶めたいと思う心も本当だ。しかし、ロジエルが居たからこそ、今のジリエルがある。
 天才とされるジリエルに存在しなかったもの。それは、様々なものへの興味。全くないわけではなくとも、何でもできるからこそ、面白いと思わなかったジリエルにとって、コツコツ努力して自分を超える成果を出すロジエルは、面白くない存在であると同時に、ジリエルの内なる闘争心に火をつける相手だった。

 愛する者に対する思いも、ロジエルに対する憎しみも、全てを失ったジリエルに待つのは、ただただ灰色の世界のみ。それを隔離された世界で、永遠に味わわなければならないことが、今、この場で決定したのだ。

 レアナ達がその場を去った後、時間差でその罰は実行された。当然、ロジエルに封じられた神力も、アルガに抑えられた声もそのままに……。これから先、ジリエルはただただ、無限の生を灰色の世界で生き続ける。それが、ジリエルに対する罰として、実行されたのだった。
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