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第二章 戻された世界

第百二話 退場

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 ロジエルという神には、一つだけ、劣等感が存在していた。それは、弟のジリエルの存在だ。


「兄さん、僕も兄さんと同じ一の神になれたよ!」


 神というのは、研鑽に研鑽を重ねることによって、その位階を上げることが可能だ。もちろん、生まれながらの位階が高ければ、それだけ一の神という地位も近くなるが、努力次第で何とでもなる。それが、神の位階というものだ。

 ロジエルは、ゆっくり、着実に努力する努力型の神であり、ジリエルは、一足飛びに様々なことをこなして、越えていく天才型の神だった。ロジエルが苦労して手にしたものを、ジリエルは容易く手に入れる。それに嫉妬しないなどということはあり得なかった。
 しかし、それでも、ロジエルは情の深い神でもあったため、ジリエルを害そうとも、切り捨てようとも、考えたことなどなかったのだ。

 そう、アニエスをジリエルが奪う時までは。


「お父様、どうして、お母様を愛していると言いながら、こんなになるまで、お母様を放置したのですか?」


 ロジエルは自ら、アニエスによる封印を受け入れた。しかし、それはアニエス自身の力によるものであったため、メルフィー達さえ居れば、破ることなど容易い。

 神界の中の森の中、いくつか存在する洞窟の一つに封じられていたロジエルは、その言葉にどう答えたのか……。


「アニエス……すまない。私のせいで」

「私の、わたシの、むすメ……コロシタ、わたシガ……」


 心を壊してしまったアニエス。そして、もう、到底まともな会話ができそうにない有様に、レアナは言葉を失う。


「……レアナ。私の愛しい娘。お前達の罰を、受け入れよう」

「っ……」


 父親の顔で、レアナに優しく告げるロジエル。その姿に、レアナは何かを言おうとして、結局、言葉は出てこない。


 ロジエルへ、今までの悲劇を説明し、アニエスを止めることへの協力と、ジリエルの解放を願ったレアナ達。しかし、ロジエルはジリエルの解放だけは拒絶した。


「……義父上は、それで良いのですか?」


 と、そこに、サミュエル達が入室してくる。
 外で様子を窺っていたサミュエル達は、もう、レアナが母親に話しかけることも、父親に問いかけることもできないだろうと判断して出てきたのだ。


「私は、あまりに身勝手が過ぎたのだ。だから、それを償うために、アニエスとともに在ろう。それと、シェナの魂は、もう、捕捉しているから、しばらくすれば戻してやれるだろう」

「っ……そう、ですか」

「あぁ、ジリエル様、どこ? あ、レアナ、おはよう。サミュエル君も……。ねぇ、ロジエル様、ジリエル様を返して、カエシテ……」


 完全に壊れてしまったのか、まとまりのない言葉ばかりを発するアニエス。そんなアニエスをロジエルはそっと抱き締めて、これ以上、アニエスの壊れた姿を見せないためか、その意識を奪う。


「では、ロジエル様、こちらにサインを」


 前に進み出たのは、メルフィー達。そして、その手に持つのは、神すらも縛る拘束力を持つ誓約書。
 静かにうなずいて、それにサインを施したロジエルは、最後にレアナへと振り返り、一言『すまなかった』とだけ告げて、その場から、アニエスとともに姿を消した。
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