貶められた聖女候補は、復讐します

第二章 戻された世界

第九十五話 手詰まり

　あまりにも残酷な真実を聞いて、レアナもアルガも少しの間、身動きができないほどの衝撃を受ける。しかし、固まっていても仕方がないというのも確かであり、先に声を上げたのはアルガだった。


「ねぇ、それを伝えたのはシェナなんだよね？　なら、そのシェナの状況は？」


　その質問に、レアナは弾かれたように顔を上げる。

　シェナがアニエスに殺されたのであれば、そして、レアナ達がそれを知らずに箱庭の中に封じられていたのだとすると、現在、シェナの状態がどうなっているのか、全く分からなかったのだ。


「……恐らく、だが、シェナはアニエス様に殺されて……それでも完全に死にきれてはいない、のだろうな」


　そんな言葉に、どういうことかを問おうとしたレアナは、その直前に、サミュエルが拳を握り込んで血を流しているのを見てしまう。そして、神の死がどういうものかを改めて思い返し、一つの可能性に気づく。


「まさか……体だけ、殺され、た……？」


　神は、肉体だけを破壊したところで完全に死ぬことはない。魂だけでも存在はできるのだ。しかし、憎しみを持った者に肉体を破壊され、その魂を掌握された場合は、最悪だった。魂だけの神は、とても弱い。そのため、憎しみを抱いた相手は、とにかくその魂を嬲るということはよくある話だ。そう、とてもありがちで、あってほしくない話……。

　沈黙が落ちるその場で、レアナの呟きに答える者は居ない。しかし、だからこそ、それは雄弁に伝えていた。シェナの魂は、今もなお、苦しみに満ちているのだと。


「お、父様、は……？」


　シェナの魂を救う力を持つ存在が居るとすれば、それは、一の神であるロジエルのみ。もちろん、ロジエルの行いに思うところがないわけではないだろうが、それでも、シェナを救うために、その存在を話題に出す。


「ロジエル様は、封じられているらしい。だから、私達で解決するしかない」


　二の神に対して、圧倒的な強者である一の神は封じられた。二の神とて、その数は少なく、協力してもらえるあてなどありはしないのだ。

　レアナもアルガ、神の位としては三の神。唯一サミュエルだけは二の神ではあるものの、まだまだひよっこレベルのサミュエルが、簡単にアニエスに適うはずもない。

　つまりは、現在、対抗手段は全くといって良いほどに存在しなかった。