上 下
86 / 108
第二章 戻された世界

第八十六話 真実2

しおりを挟む
 遥か遠い昔。シェナとレアナという仲良し姉妹の女神が居た。彼女達は、それぞれサミュエルとアルガという名前の神に恋をして、シェナはサミュエルと結婚までしていた。この四人の神は、お互いをとても大切に思っており、このまま、平穏な生活が続くのだと誰も疑ってはいなかった。
 ただ……シェナに嫉妬した女神達が、シェナを貶めて、殺さなければ、何も起こらなかったはずなのだ。


「主犯の女神は、シエラ、アルリエ、エリアナ、メルフィー、アマンダの五人。彼女達は、神としての仕事でサミュエルが居ない隙に、シェナを攫って、あらゆる手段でシェナを傷つけ、殺した。私にとっても、あの五人は憎むべき相手なのですよ」


 レアナが……歴代聖女達が復讐をしてきた相手の人数は、決まって五人だった。その時々で名前は変われど、その性質は同じ。彼女達は、シェナを殺した女神の写し身だった。


「今、そいつらは?」

「えぇ、当然、まだとびっきりの悪夢の中で眠り続けていますよ」


 とびっきりの悪夢は、レアナが行った復讐そのものを見せられているはずだ。


「私は、お姉ちゃんの復讐心を、サミュエル様は、お姉ちゃんの良心を、そして、アルガはその調整役だったかな?」


 その内容は、かつて、レアナが女神に教わったといっていた内容と被る。


「えぇ、その通り。そして、その状態で、神としての記憶を失ったまま過ごすことが、私達からの罰でした。ですが、浄化は失敗。復讐を遂げる前に、良心サミュエル復讐心レアナを殺してしまったことで、負の感情が暴走してしまった」

「その前に、アルガを一度こちらに引き上げたんじゃないの? ……理由の心当たりはあるけど」

「確かに、アルガは一度こちらに引き上げました。アルガの魂の傷が随分と進行していたので、一度、全てを思い出してもらい、傷を癒やしてから、記憶を封じて、同じサイクルの中に戻す予定だったのです」


 レアナが復讐を遂げようとしていた世界で、アルガが居なくなったのは致命的だったのかもしれない。なぜなら、アルガは調整という役を担っており、不測の事態に対して対応できる唯一だったのだから。


「箱庭は、もう……?」

「使えないでしょうね。レアナが何度も死んだあの世界は、レアナを異物として排除してしまおうとしていましたから。当然、主犯の女神達も、その影響を受けましたが」


 レアナだけが記憶を引き継いで何度も転生したあの世界も、神の箱庭であり、本物の魂はレアナ、サミュエル、アルガ、そして主犯の女神達しか持ってはいなかった。ただ、それまでの箱庭と異なっていたのは、箱庭そのものが限界を迎えていたということ。どんなものも、使い続ければ朽ちていく。箱庭は、世界になりきれなかったものであったため、何度も繰り返す崩壊に耐えられず、それを引き起こす魂の持ち主を排除しようとした。それが、聖女であったレアナであり、その復讐対象であった五人だ。


「……シェナお姉ちゃんの魂は、このまま浄化できないの、かな……?」


 レアナの憎しみは、本来シェナが抱いたものだ。そして、それを身を持って知っているレアナであるからこそ、そんな問いかけを口にしてしまう。


「……まだ、希望はあります。貴方達が諦めずにここまで手を尽くしてくれたおかげで、ね?」


 そして、思いがけず与えられた希望を前に、レアナは目を丸くした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女の朝の身支度

sleepingangel02
恋愛
政略結婚で愛のない夫婦。夫の国王は,何人もの側室がいて,王女はないがしろ。それどころか,王女担当まで用意する始末。さて,その行方は?

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

巨根王宮騎士の妻となりまして

天災
恋愛
 巨根王宮騎士の妻となりまして

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

舞台装置は壊れました。

ひづき
恋愛
公爵令嬢は予定通り婚約者から破棄を言い渡された。 婚約者の隣に平民上がりの聖女がいることも予定通り。 『お前は未来の国王と王妃を舞台に押し上げるための装置に過ぎん。それをゆめゆめ忘れるな』 全てはセイレーンの父と王妃の書いた台本の筋書き通り─── ※一部過激な単語や設定があるため、R15(保険)とさせて頂きます 2020/10/30 お気に入り登録者数50超え、ありがとうございます(((o(*゚▽゚*)o))) 2020/11/08 舞台装置は壊れました。の続編に当たる『不確定要素は壊れました。』を公開したので、そちらも宜しくお願いします。

【R18】悪役令嬢を犯して罪を償わせ性奴隷にしたが、それは冤罪でヒロインが黒幕なので犯して改心させることにした。

白濁壺
恋愛
悪役令嬢であるベラロルカの数々の悪行の罪を償わせようとロミリオは単身公爵家にむかう。警備の目を潜り抜け、寝室に入ったロミリオはベラロルカを犯すが……。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

処理中です...