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第二章 戻された世界

第七十五話 お茶会

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 王族であるからには、サミュエルにもレアナにも、それなりの役割というものが存在していた。サミュエルは、時期国王としての力を身につけ、徐々に国王の仕事に携わっていくことと、次代を残すための婚約者選び。そして、レアナは国に利となる婚約を結び、国の発展に貢献すべく、身も心も磨くこと。それは、王族として当たり前のことだった。しかし……。


(……ここは、肉食獣の檻だったか……?)


 サミュエルの記憶にない母親が提供した、婚約者選びのお茶会。それに強制参加させられたサミュエルは、ついつい遠い目になりかける。


「殿下、ご紹介にあずかりましたメルフィー・リッテルと申します。お会いできて光栄ですわ」


 事実、目の前に居るご令嬢も、サミュエルのことをギラギラとした目で見ており、とても和やかなお茶会とは程遠い。


(ん? 待て。メルフィー・リッテル……?)

「リッテル公爵家のご令嬢からそう言っていただけるのは嬉しいですね。確か、リッテル公爵家では様々な薬草の栽培に秀でているとか?」


 メルフィー・リッテル。彼女は、かつての世界で、レアナを貶めた聖女候補の一人だったはずだ。レアナから聞く限り、彼女は人心掌握と毒の取り扱いに長けた人物だ。自分は動かずに周りの者に泥を被ってもらう。それは、政治を行う上でそれなりに必要な能力ではあるものの、好印象を抱ける相手かと問われれば別だ。


「あら、ご存知でしたのね。そう、我が領地は大きな薬草園を所有していますの。フィリアダ王国有数の医療の街もございますわ」


 非の打ちどころもないほどに優雅に微笑むメルフィーは、きっと、ほとんどの男を簡単に落とせるであろう美しさを兼ね備えていた。周囲のご令嬢も、彼女が公爵令嬢という立場から、嫉妬の視線は向けられても、それ以上に何かを言うことはできない。

 婚約者候補として最も有力な存在として、メルフィーはこのお茶会の会場で君臨する。しかし……。


(この女だけは、選びたくない)


 権謀術数に長けた得難い人材であることは確かだ。しかし、そんな人物を婚約者にしたいかと問われれば、サミュエルの答えは否だ。それに……。


(こいつは、レアナを貶めた人間……)


 今や妹として可愛がっているレアナは、かつて、この女にも傷つけられた。それらを総合して考えるのであれば、サミュエルがこの女を選ぶことだけはあり得ない。ある程度の会話を交わした後、サミュエルは他のご令嬢達の挨拶も受けていく。その中には、なぜか、シエラ以外の聖女候補が勢揃いしており、皆が皆、サミュエルへとギラついた目、もしくは、重苦しいほどの情念を向けていた。


(……メルフィー・リッテル公爵令嬢や、アマンダ・シェルフィリア侯爵令嬢ならば分かる。いや、アルリエ・リナス伯爵令嬢も、ギリギリ分からなくもない。だが、なぜ、エリアナ・ナシス男爵令嬢が呼ばれた?)


 貴族の身分というのはとても厳格だ。そして、王族の婚約者は、ギリギリでも伯爵家以上でなければならないという決まりがある中、この人選は、少しばかり奇妙ではあった。ただ、それを問う余裕もなく、お茶会は進んでいった。
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