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第二章 戻された世界

第六十四話 魔王と神

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 アルガの話は当然、魔王という存在が負の感情が寄り集まってできた存在であるということ。そして、そう仕組んだのが神々であるということだ。


「勇者も魔王も聖女も、俺らは誰一人として、永遠から抜け出せない。それが、神の定めたことで、俺はずっと、ずっと、負の感情の塊として肥大し続けるんだと思ってた。だから、今、人間として生まれて、人間としての色々な感情を知れて、楽しいんだ」


 当然、サミュエルはそれをそのまま、素直に納得するなんてことはない。しかし、それもまた当然だとアルガはあっけらかんとした様子で認める。


「無理ないよねぇ。俺だって、最初はわけが分からなかったもん。でも、きっと、これで俺は解放されたんだよ。それで、別のやつが魔王になっていたとしても、そんなことは知らない。俺は俺で、自由に生きたいんだから」


 憑き物が取れたかのように晴れやかな表情を浮かべるアルガ。いや、実際、それが真実なのだろう。膨大な負の感情に押し潰されることしかできなかったアルガは、その負の感情から解放されたのだから。


「……お前は、神に会ったことは?」

「ん? そうだね。魔王として最初に生まれた直後に会ったよ。その時は、俺自身、自分の中に渦巻く負の感情を撒き散らすことしかできなかったけど、ちゃんと、やつの言葉は覚えてる」

「神は、何と?」


 サミュエルは、神の声を神託という形で聞いたことはある。しかし、実際に会ったことはなかった。固唾を呑んでアルガの言葉を待つサミュエルに、アルガは邪悪に嗤ってみせる。


「『魔王として、我らの駒として、その働きに期待する』だそうだよ」


 その言葉に、サミュエルは殴られたような衝撃を受ける。神は、人間の味方であるという、何の根拠もない想いを否定されたのだ。しかも、アルガが嘘を吐いているということもない。アルガは、そんな言葉を最初にかけられていたからこそ、神を憎んでいたのだから。


「俺を魔王にした神を、どうにかして殺してやりたい。その気持ちは、今も変わってはいないけど、今に至るまで、俺自身が自分から神に接触することはできなかった。だから、まだ『次』があるなら、その時も、そして、その『次』も、ずっと、ずーっと、復讐を企てるつもりではあるよ」


 そんな言葉が、何よりもアルガの言葉に信憑性を持たせる。サミュエルはしばらく、何も言えないまま、それでも何かを掴もうと眉間にシワを寄せた。
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