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第一章 復讐の聖女候補

第五十六話 七回目の聖女

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 次々に過去の聖女達が姿を現す中、彼女が現れるのは必然だった。


「エリナ、か……」

「うん、久しぶり、アインス」


 彼女は、黒目黒髪の聖女が続く中で、はじめて、淡い栗色の髪に同じ色の瞳を持つ少女だった。彼女は、七回目の世界の聖女。いや、聖女になるはずだった少女だ。


「エリナ……あなたは……」

「ねぇ、アインス? 私、ずっとずっと、辛かった。親に、奴隷として売られて、いじめられ続けて、片腕を失って……それでも、アインスが見つけてくれたから、私は、はじめて、幸せを知った」


 エリナは、強欲な両親によって売られた少女だった。長年の虐待によって、アインスが彼女を見つけた時、彼女は片腕を失い、声も失っていた。


「ずっとずっと、アインスの側に居れば安心だって、思ってた」


 彼女を保護したのは偶然ではない。あの世界では、聖魔力を持つ者を特定できる道具が存在していた。そして、それを使える権限を持つ存在としての地位を必死に得たサミュエル、いや、アインスは、彼女を見つけ出し、保護したのだった。


「でも、ね? アインスが居ないと、私、全然ダメなの」

「エリナ、そんなことは「ダメなのっ!」っ……」


 保護したエリナは、徐々にアインスへ心を開き、依存するようになっていった。


「アインスが居なきゃ、私はっ、私はっ、また、あの地獄に連れ戻されたのっ・・・・・・・・

「っ!? どういうことだっ?」


 サミュエルが声を荒げるのは、ちゃんと理由があった。サミュエルは、彼女の保護こそが世界を破滅から守るのだと理解して、彼女が死ぬその瞬間まで、ずっと、守り抜いたのだから。聖女になるなんて重荷を背負わせることなく、その力を隠したまま、必死に……。しかし、彼女は今、『連れ戻された』と言った。


「ふ、ふふっ、そうよね。アインスは知らない。だって、アインスは私を知らないもの。私を見つけてくれなかったもの……」

「……待て、まさか、エリナは八回目の……」


 八回目の世界の滅び。それは、大切なものを見失い続ける世界。それは、人であったり、物であったり……倫理であったりした。殺伐とした世界。そこは、大切と呼べるものこそ破壊される世界。
 サミュエルの言葉に反応してか、彼女の栗色の髪と瞳は、真っ黒に染まる。


「そう、私達は、ずっと、生まれ変わり続けてきた。私は、エリナの記憶を引き継いで、八回目もあなたをずっと捜してたの」


 しかし、八回目のサミュエルは、彼女を見つけることができなかった。それどころか、八回目の彼女のことを、サミュエルは何も知らない。ただ、魔王が側に居たであろうこと以外は、何も……。


「私達は、不幸の結晶。それが、私達の役割なんだって」

「不幸の、結晶……?」


 それは、どういう意味なのか。それを聞く前に、八回目らしき彼女は、また影の化け物に呑まれる。心なしか、影の色は濃く、そして、大きくなっているようにも見える。


「どういう、ことだ……。生まれ変わるのは、私だけでは、ないのか……?」


 そうして、また、次の聖女が現れた。
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