上 下
42 / 108
第一章 復讐の聖女候補

第四十二話 もう一つの復讐3*

しおりを挟む
 アルリエ・リナスは、暴力の権化だった。そして、その被害者の数は両手の指では数え切れないほど。そして、その一部の人間は、レアナの提案によって同じ被害者に噛み殺され、その魂は天へと昇る……はずだった。
 待ったをかけたのは、当然、魔王。その魂には使い道があると。どうせならば、彼女らの苦しみを何倍にも増幅させたものを、アルリエの家族にぶつけてみようと。

 その結果、父親は、彼女らが受けたアルリエからの暴力の記憶と憎しみ、そして、痛みを受けることとなった。


「びげぇ、ごぎゃあ゛っ」

「にぐい゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛い゛っ………」

「え゛あ゛あ゛ぁ゛っ」

「あ、あぁ、ぁあ、ぉあぉ……」


 まだ・・生きている長男と次男は、そんなことなど知らない。まして、今、自分達が居る空間に、自分達以外の存在……喉や足、腕など、いたるところを食い千切られた幽霊達が、次の獲物を狙っていることなど、知るわけがない。
 アルリエ本人への復讐の機会を逃した彼女らは、血濡れたお仕着せで、その家族をターゲットとする。もちろん、幽霊といえど魔物として復活しているため、ちゃんとした手段を用いれば倒せる相手だ。ここに、聖女候補が一人でも居れば、その異常に気づいて、浄化ができたかもしれない。浄化の聖魔法さえ使えれば、いとも容易く消滅する程度の弱い魔物。しかし、その存在を感知できなければ、そして、浄化することができなければ、その脅威は途端に跳ね上がる。

 次のターゲットに向けてボロボロの腕を彷徨わせる幽霊達。しかし、見えている者からすれば、幽霊というよりも、ゾンビと言った方がしっくりくるような出で立ちの彼女らは、ようやく、ターゲットへと手を触れる。


「あ、兄上!?」


 次男の叫びは、すでに長男には届かない。父親の時は、戯れに意味のある言葉を書き綴った幽霊達だが、今度は、もっとスマートにいくことにしたらしい。


「ぉ、おぉぉあがぁぁあっ!!?」


 最初から、痛みの記憶を長男へとぶつける。それによって、まずは両足の骨が折れる。


「なんだよっ! 何で、誰も来ないんだっ!! 誰かっ、兄上を助けてくれっ!!」


 理解できない現象を前に泣き叫ぶ次男だったが、扉も窓も、開くことはない。それは、聖魔法による結界の力。防音と対物理、対魔法の結界を、ちょうど、部屋の形に沿って作ったため、彼らは、扉にも、窓にも触れることができていなかったのだ。
 必死に扉を叩いているつもりの次男は、ただ、結界を叩いているのみ。元々、魔力も多くない彼は、例え攻撃魔法を発動したとしても、レアナの強力な結界を抜け出すことなどできなかっただろう。
 アルリエへの憎悪、暴力の記憶に晒される長男は、叫び続け、次第にアルリエへの呪詛を呟き始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

師匠、俺は永久就職希望です!

wannai
BL
 エシャ・トゥリは、学友が発した師匠を侮辱する言葉に挑発され、次の試験で負けたらギルドを移籍すると約束してしまう。  自堕落な師匠には自分がいないと生きていけないから引き留めてくれる筈だと思っていたのに、彼はむしろ移籍を祝ってくれて──。  魔法がある世界のファンタジー  ショタ疑惑のダメ師匠 × 孤児の弟子

神龍の巫女 ~聖女としてがんばってた私が突然、追放されました~ 嫌がらせでリストラ → でも隣国でステキな王子様と出会ったんだ

マナシロカナタ✨ラノベ作家✨子犬を助けた
恋愛
聖女『神龍の巫女』として神龍国家シェンロンで頑張っていたクレアは、しかしある日突然、公爵令嬢バーバラの嫌がらせでリストラされてしまう。 さらに国まで追放されたクレアは、失意の中、隣国ブリスタニア王国へと旅立った。 旅の途中で魔獣キングウルフに襲われたクレアは、助けに入った第3王子ライオネル・ブリスタニアと運命的な出会いを果たす。 「ふぇぇ!? わたしこれからどうなっちゃうの!?」

隣り合うように瞬く

wannai
BL
幼馴染オメガバース

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

だいきちの拙作ごった煮短編集

だいきち
BL
過去作品の番外編やらを置いていくブックです! 初めましての方は、こちらを試し読みだと思って活用して頂けたら嬉しいです😆 なんだか泣きたくなってきたに関しては単品で零れ話集があるので、こちらはそれ以外のお話置き場になります。 男性妊娠、小スカ、エログロ描写など、本編では書ききれなかったマニアック濡れ場なお話もちまちま載せていきます。こればっかりは好みが分かれると思うので、✳︎の数を気にして読んでいただけるとうれいいです。 ✴︎ 挿入手前まで ✴︎✴︎ 挿入から小スカまで ✴︎✴︎✴︎ 小スカから複数、野外、変態性癖まで 作者思いつきパロディやら、クロスオーバーなんかも書いていければなあと思っています。 リクエスト鋭意受付中、よろしければ感想欄に作品名とリクエストを書いていただければ、ちまちまと更新していきます。 もしかしたらここから生まれる新たなお話もあるかもしれないなあと思いつつ、よければお付き合いいただければ幸いです。 過去作 なんだか泣きたくなってきた(別途こぼれ話集を更新) これは百貨店での俺の話なんだが 名無しの龍は愛されたい ヤンキー、お山の総大将に拾われる、~理不尽が俺に婚姻届押し付けてきた件について~ こっち向いて、運命 アイデンティティは奪われましたが、勇者とその弟に愛されてそれなりに幸せです(更新停止中) ヤンキー、お山の総大将に拾われる2~お騒がせ若天狗は白兎にご執心~ 改稿版これは百貨店で働く俺の話なんだけど 名無しの龍は愛されたい-鱗の記憶が眠る海- 飲み屋の外国人ヤンデレ男と童貞男が人生で初めてのセックスをする話(短編) 守り人は化け物の腕の中 友人の恋が難儀すぎる話(短編) 油彩の箱庭(短編)

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴
恋愛
『結婚をしよう』  彼は突然そんなことを言い出した。何を言っているのだろう?  彼は身分がある人。私は親に売られてきたので身分なんてない。 愛人っていうこと?  いや、その前に大きな問題がある。  彼は14歳。まだ、成人の年齢に達してはいない。 そして、私は4歳。年齢差以前に私、幼女だから!!  今、思えば私の運命はこのときに決められてしまったのかもしれない。  聖痕が発現すれば聖騎士となり、国のために戦わなくてはならない。私には絶対に人にはバレてはいけない聖痕をもっている。絶対にだ。  しかし運命は必然的に彼との再会を引き起こす。更に闇を抱えた彼。異形との戦い。聖女という人物の出現。世界は貪欲に何かを求めていた。  『うっ。……10年後に再会した彼の愛が重すぎて逃げられない』 *表現に不快感を持たれました読者様はそのまま閉じることをお勧めします。タグの乙女ゲームに関してですが、世界観という意味です。  一話の中に別視点が入りますが、一応本編内容になります。  *誤字脱字は見直していますが、いつもどおりです。すみません。 *他のサイトでも投稿しております。

【完結】偽聖女として追放され婚約破棄された上に投獄された少女は、無慈悲な復讐者になる

銀杏鹿
恋愛
聖女であるクララは、真の聖女を名乗る娘によって、濡れ衣を着せられて、教会からは追放され、皇太子との婚約は一方的に破棄させられた上に投獄されてしまう。 牢獄で出会った獣人や異形達に支えられながら、聖女としては評価されなかった剣術と莫大な魔力、そして知性を武器に牢獄を脱出し、教会と帝国へ反旗を翻す。 全ては、自分から何もかもを奪った聖女に、何もかも知った上で裏切った皇太子に、そして自身を縛り付け、貶めた帝国と教会へ復讐するために。 ※恋愛要素は中盤から回収していきます ※この小説には暴力シーンやグロテスクな表現が含まれています、ご注意下さい。

処理中です...