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第一章 復讐の聖女候補

第三十話 フィリアダ王国の王

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 白く美しいバロック様式の建物。フィリアダ王国で、最も高く、広い敷地面積を誇るその場所は、フィリアダ王国の王が住まう城だった。

 優雅な芸術を重んじる現国王の治世の下、貴族達は様々な芸術家を抱え、それを自慢の種として振る舞う。その中に、本当に芸術を愛する心を持つ貴族というのは限りなく少ないとされているものの、芸術家にとっては、この時代は己の技量をどこまでも磨くことを求められる戦乱の時代。

 そんな時代において、この国の王太子、サミュエル・ローロ・フィリアダは、時代にそぐわない、質素な服装で城内を歩いていた。目指す場所は、己の父が、国王が居るはずの娯楽室。


「父上、今、お時間はよろしいですか?」

「ん? サミュエルじゃないか? この部屋に来るなんて珍しいな。どうした?」


 サミュエルの父であり、フィリアダ王国の国王、ロジエル・ローロ・フィリアダは、何やら鳥の羽根をいたるところに縫い付けた派手な服を着ており、お前は鳥にでもなるつもりかと言いたくなる。白に近い銀髪に、やはり白に近い髭を胸元まで伸ばし、藍色の瞳で柔和に笑いかけるロジエルを前にサミュエルは少しだけ、眉を顰める。
 ロジエルは、芸術の父だとか、文化の王だとか呼ばれてはいるものの、王としての能力は凡愚だった。享楽に耽る、操りやすい王。それに目をつける貴族は多く、彼の治世になって以降、フィリアダ王国は随分と腐敗した貴族が横行するようになっている。


「聖女候補の一人が害される事件が発生しました。ですので、その捜査権を私に委譲するよう、騎士団へ命じていただけないかと」


 聖華塔は本来、王家は介入することができない場所だ。しかし、その聖華塔で事件が起こった場合、国王直属の騎士団が対応することになっている。
 白麗びゃくれい騎士団と呼ばれるその騎士団が行うことは、事件にともなう貴族同士の摩擦解消のための情報操作と、犯人の捏造。要するに、そこで起きる事件というのは、ほぼ間違いなく聖華塔に送られた貴族の子女達が起こすものということで、様々な配慮・・がなされるのだ。もちろん、聖華塔の職員や、その他の貴族以外が犯人。もしくは、貴族であっても、消えても問題ない存在が犯人だったりした場合は、秘密裏に消されたり、軋轢解消のために拷問したりなんてこともある。過去に、この騎士団が活躍した記録は、王家の直系のみが閲覧できる書庫に収められている。


「うん? 構わないが、そんなに忙しくしていては疲れるだろう。どうだ? この部屋でゆっくり休まないか?」


 娯楽室と呼ばれるその部屋には、様々な用途不明のガラクタ……失礼。芸術品達が転がっている。そんな芸術品達を一つ一つ手に取ってうっとりとしてみせるロジエルの姿に、サミュエルはゆっくりと首を横に振る。


「お気持ちだけ、受け取らせていただきます。では、命令書へのサインをお願いします」

「そうか、残念だが、仕方ないな」


 正式に、騎士団の捜査権を預かるという命令書にサインをもらったサミュエルは、娯楽室でのんびりと過ごす国王を置いてさっさと部屋を出る。そして……。


「私の騎士団を連れていく」


 侍従へそれだけを告げると、サミュエルは、すぐさま白麗騎士団が居る隊舎へと向かった。
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