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第一章 復讐の聖女候補

第二十話 聖女候補達の戸惑い

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 シエラが体調を崩した、という情報は、当然ながら嘘。しかし、聖女候補者達にはそれが真実として伝えられていた。そして、それは移る病気であるとも。そうとなれば、他の聖女候補者達がシエラに構うはずもない。と、いうか、王太子が来ているのだから、シエラになど構ってはいられなかったのだ。
 美しく着飾り、王太子の目に留まるように必死にアピールを続け、他のご令嬢達を蹴落とす。それこそが、今、彼女達の使命とも言える行いだった。ただ……三日目にして、ようやく、また交流の場を持てる、という時、会場にやってきたのは、王太子が連れていた護衛達だった。
 護衛達の姿に、王太子が来るものだと思ったご令嬢達は、微笑みの裏で戦いの準備を始める。しかし、そこに現れた王太子は、普段以上の冷たい目……いや、どこか殺気立ってすらいる様子で、話し始める。


「ご令嬢方、申し訳ないが、緊急の仕事が入った。私は、これで失礼する」


 王太子がこの場に現れたのは、ひとえに、出口に向かう道中がこの会場だったからに過ぎない。かつて、ご令嬢方を無視して帰ろうとした王族が居たらしく、その時から、聖華塔の構造は出口に向かうためにはお茶会などの会場となる場所を必ず通らなければならないようにできている。きっと、そうでなければ、王太子はご令嬢方には最低限の挨拶を誰かに言付けるなどといった方法でさっさと立ち去っていたことだろう。


「承知致しました」


 ご令嬢方のアピールタイムは潰されたかに思えたが、メルフィー・リッテル公爵令嬢は、その王太子の言葉に応えることで、少しでも覚えてもらえるように、そして、王太子の言葉に反論せずに受け入れる度量を見せるという二つの面でアピールを行う。美しい銀の髪を結わえた紫の瞳のメルフィーは、美しく微笑んでカーテシーを行う。
 ただ、その余裕は、次の王太子の発言で砕け散ることとなる。


「それと、ポンピーネ嬢はこちらで預かることとなった。一人、減ることになるが、皆、聖女となるべく励め」


 王太子が、どのような意図を持ってそう告げたのかは不明だ。しかし、確かにシエラがここには居ないということになれば、ご令嬢達は、存在しないシエラへ手を出そうと考えることはなくなる。
 もちろん、ご令嬢方の心中は複雑どころの話ではない。シエラは体調不良だと聞いていたにもかかわらず、その彼女は、王太子とともにこの聖華塔を出るというのだ。となれば、王太子が自らの相手としてシエラを選んだ可能性が過ぎらないわけもないし、シエラの体調不良に関してもよからぬ方向へ考えてしまうことになるだろう。
 ご令嬢方の中には、当然、王太子に真意を尋ねようとする者も居た。しかし、その前に、王太子はさっさと外に出てしまい、ご令嬢方は真相を尋ねる機会を逃してしまう。
 王太子の姿が見えなくなった後、彼女らの侍女や、聖華塔の職員達は、荒れ狂うご令嬢達に手を焼くこととなった。
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