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少女期
妾の恋(ミルラス視点)
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主様を苦しめていた魔王。しかし、何も分からない無垢なる魔王。ネズミの姿で預けられた彼を、妾は、最初、守ろうと思っていた。
「ミルラス、無事か!」
初めて見る世界に怯えていた魔王は、今、瘴気に追われる妾を追いかけて来てくれていた。
魔王は、妾よりも強い。と、いうより、主様の仲間の中で、妾が最弱だった。
魔王は、瘴気に怯える妾をなだめ、どういう原理なのか、瘴気を追い払ってしまった。
その直後は、流石に自身の非力さに嘆いたりもしたが、ある程度安全が確保されてくると、別の感情が浮かぶ。
「ミルラス……」
「す……すごいのじゃっ! 魔王はやっぱり、すごいのじゃっ!!」
本当は、もっと色々な言葉を尽くして褒めたいところではあったが、今、見たものがとんでもないことだと分かっているために、妾の頭は、『すごい』以外の語彙力を失ってしまっていた。
「魔王っ、妾も、強くなれば、同じことができるのかぇ?」
「ちゅっ!? い、いや、その……無理だと思うが」
「そうかっ! なら、やっぱり、魔王はすごいのじゃっ!」
守らなければと思っていた相手に守られるというのは、主様に会う前の妾であれば、屈辱と感じるか、恐怖の対象として捉えていただろう。しかし、妾は、自分がいかに弱い存在なのか、主様と出会って知ることができた。だから、魔王の成長を喜びこそすれど、僻んだり、怖がったりなどということはしない。ただただ、妾の大切な友が成し遂げたことに、喜ぶのみだった。
「怖くは、ないのか?」
「うむ? あの黒いやつは確かに怖かったが、魔王が守ってくれたのじゃっ! 本当に、ありがとうなのじゃっ!」
ヒゲをピクピクさせながら尋ねる魔王に、妾は正直な思いの丈を述べる。すると、なぜか、魔王は妾の手の中で脱力した。
「そうか……」
「魔王? ……はっ、もしや、力を使い過ぎたのかっ? えっと、主様に持たされてるもので役立つものは……こ、この栄養ドリンクは、飲んでも大丈夫……じゃなさそうな色なのじゃ……」
「大丈夫だ。ちょっと、気が抜けただけだから」
「うむ? そうなのかぇ? 疲れたら、遠慮せず言うのじゃっ! 妾は確かに非力ではあるが、移動のための足くらいにはなれるのじゃからなっ!」
「……頼りにしている」
「うむっ!」
妾よりも力のある魔王に頼られて、妾はとても嬉しかった。それに、これは……。
(うぅむ、この、夢魔の女王たる妾が、恋をするとは、な……)
最初は、可愛らしい存在で、守らなければならない相手だった。しかし、今や、守られる立場。ねずみ姿であろうとも、優しい魔王。いつも、妾の話を聞いてくれて、紳士に振る舞う魔王。とても、とても、強い魔王。
まだ、名前は分からないし、その本来の姿だって知らない。それでも、妾は自信を持って、この想いが恋であると理解できた。
(いつの日か、魔王にも、妾を好いてもらいたいものじゃな……)
それまでは、妾はこの想いを封じることとしよう。今は、この心地良い関係を壊したくはない。
「魔王、次は、どこへ行こうかのぅ?」
「ちゅ……多分、セイ達との合流は難しい。だから、安全な場所の確保を優先しよう」
「うむ、分かったのじゃっ! いくつか候補はあるから、まずはそこを訪ねてみるのじゃっ」
瘴気は怖いが、魔王が居てくれる。それだけで、妾は、心強く、しっかりと歩いていける。
想いを自覚した妾は、そっと、魔王を大切に手の中に包んで、前を見据えて走り出した。
「ミルラス、無事か!」
初めて見る世界に怯えていた魔王は、今、瘴気に追われる妾を追いかけて来てくれていた。
魔王は、妾よりも強い。と、いうより、主様の仲間の中で、妾が最弱だった。
魔王は、瘴気に怯える妾をなだめ、どういう原理なのか、瘴気を追い払ってしまった。
その直後は、流石に自身の非力さに嘆いたりもしたが、ある程度安全が確保されてくると、別の感情が浮かぶ。
「ミルラス……」
「す……すごいのじゃっ! 魔王はやっぱり、すごいのじゃっ!!」
本当は、もっと色々な言葉を尽くして褒めたいところではあったが、今、見たものがとんでもないことだと分かっているために、妾の頭は、『すごい』以外の語彙力を失ってしまっていた。
「魔王っ、妾も、強くなれば、同じことができるのかぇ?」
「ちゅっ!? い、いや、その……無理だと思うが」
「そうかっ! なら、やっぱり、魔王はすごいのじゃっ!」
守らなければと思っていた相手に守られるというのは、主様に会う前の妾であれば、屈辱と感じるか、恐怖の対象として捉えていただろう。しかし、妾は、自分がいかに弱い存在なのか、主様と出会って知ることができた。だから、魔王の成長を喜びこそすれど、僻んだり、怖がったりなどということはしない。ただただ、妾の大切な友が成し遂げたことに、喜ぶのみだった。
「怖くは、ないのか?」
「うむ? あの黒いやつは確かに怖かったが、魔王が守ってくれたのじゃっ! 本当に、ありがとうなのじゃっ!」
ヒゲをピクピクさせながら尋ねる魔王に、妾は正直な思いの丈を述べる。すると、なぜか、魔王は妾の手の中で脱力した。
「そうか……」
「魔王? ……はっ、もしや、力を使い過ぎたのかっ? えっと、主様に持たされてるもので役立つものは……こ、この栄養ドリンクは、飲んでも大丈夫……じゃなさそうな色なのじゃ……」
「大丈夫だ。ちょっと、気が抜けただけだから」
「うむ? そうなのかぇ? 疲れたら、遠慮せず言うのじゃっ! 妾は確かに非力ではあるが、移動のための足くらいにはなれるのじゃからなっ!」
「……頼りにしている」
「うむっ!」
妾よりも力のある魔王に頼られて、妾はとても嬉しかった。それに、これは……。
(うぅむ、この、夢魔の女王たる妾が、恋をするとは、な……)
最初は、可愛らしい存在で、守らなければならない相手だった。しかし、今や、守られる立場。ねずみ姿であろうとも、優しい魔王。いつも、妾の話を聞いてくれて、紳士に振る舞う魔王。とても、とても、強い魔王。
まだ、名前は分からないし、その本来の姿だって知らない。それでも、妾は自信を持って、この想いが恋であると理解できた。
(いつの日か、魔王にも、妾を好いてもらいたいものじゃな……)
それまでは、妾はこの想いを封じることとしよう。今は、この心地良い関係を壊したくはない。
「魔王、次は、どこへ行こうかのぅ?」
「ちゅ……多分、セイ達との合流は難しい。だから、安全な場所の確保を優先しよう」
「うむ、分かったのじゃっ! いくつか候補はあるから、まずはそこを訪ねてみるのじゃっ」
瘴気は怖いが、魔王が居てくれる。それだけで、妾は、心強く、しっかりと歩いていける。
想いを自覚した妾は、そっと、魔王を大切に手の中に包んで、前を見据えて走り出した。
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