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第四章 遠い二人

第七十九話 怯え(アルム視点)

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 『絶対者』に、悪魔の討伐に成功したこと、そして、最後にまだ悪魔が居るような不穏な発言があったことを伝えると、彼女は、もうしばらくしたらシェイラをこちらに連れてくると連絡してきた。ボク個人としては、シェイラに会えるのは大歓迎、なのだが……まだ危険かもしれないこの国に、シェイラを置いておくのはどうなのだろうかとも思ってしまう。


(だが、もう手がかりがない。ドライムに関する記憶も、いつの間にか正常に戻っているし、あの偽のドライムも、見張りによれば、突如砂になって消えたと聞く)


 セルグも、これ以上の情報はないと言うし、バルファ商会は潰したものの、もう一体の悪魔については何も知らないらしい。ここから、新たに情報を得るのは、きっと至難の業だろう。


「シェイラに、頼るしかない、のか?」


 できることなら、シェイラには安全な場所に居てもらいたい。しかし、ここまで手がかりがないとなると、シェイラに頼ることしか、ボクには解決策が思い浮かばない。もちろん、シェイラでも無理かもしれないというのは分かっているのだが……。


「こんなのでは、シェイラの隣に胸を張って立てない……」


 竜王として、というより、男として、愛する女性に頼るしかない状況というのは、相当に堪える。しかし、そうやって頭を悩ませている間にも、時間は刻々と過ぎるわけで……。


「っ、シェイラの魔力!?」


 まさか、もう帰ってきたのかと、ボクは慌てて、シェイラの魔力を感知した場所へと向かう。


「シェイラ!」

「ア、アルム……」


 ギョッとしたような表情でボクを見たシェイラは、顔を赤くして、プイッとソッポを向いてしまう。


(シェイラ?)


 ボクは、何かシェイラに怒られるようなことをしてしまったのだろうかと、内心慌てながら、シェイラを抱き締めたくなる手をどうにか抑えて『絶対者』へと向き直る。


「シェイラにかかっていた魔法は、無事、解呪しましたわ。ですから、後はアルムが守ってくだされば、問題ありませんわ」


 どこか機嫌が良さそうな『絶対者』の言葉に、ボクはとりあえず安心する。


「そう、か……良かった。本当に、良かった」


 シェイラが厄介な魔法から解放されたのだと知り、シェイラの方に笑顔を向ければ、なぜか、シェイラはビクッとして、またボクから目を逸らしてしまう。


「あらあら」


 『絶対者』は、そんなシェイラの態度の原因を知っているのか、ニコニコと笑っている。しかし、教えてくれるつもりはないようで、それ以上の言葉が聞こえてくることもない。


「とにかく、部屋にいきませんこと? シェイラは実質、病み上がりのようなものですし」

「っ、そうだな! 気がつかず、すまなかったっ」


 ここが、竜珠殿の門に入ってすぐの場所であることを思い出したボクは、シェイラをエスコートしようと側に寄る……のだが、なぜかビクッと肩を震わせる。


(これは……まさか、怯えられている?)


 シェイラの感情が分かれば、推測は簡単だ。恐らく、シェイラは悪魔を滅するほどの力を有したボクに怯えているに違いない。


「シェイラ……」


 あまりの事態に、呆然としてしまうボク。しかし、そんなボクに、『絶対者』は呆れたような視線を寄越す。


「ほら、シェイラ。そのままでは誤解されますわよ?」

「っ、ご、ごめんなさいっ、アルム」

「い、いや……こちらこそ、すまない」


 ぎこちなく、腕に手を乗せてきたシェイラは、やはり怯えている。


(あぁ……せっかく、両想いだと、思えたのに……)


 悪魔を討伐したことに後悔はない。しかし、シェイラのこんな態度は、あまりにもツラい。

 シェイラをエスコートしながら、ボクは、どうすればシェイラに怯えられないだろうかと、必死に考え続けるのだった。
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